音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年9月号

列島縦断ネットワーキング【宮城】

新天地での活動
~笑顔日和とこれから

菊地浩

みのり会の紹介

「笑顔をありがとう~共に生きる町づくり」。これが、私たち社会福祉法人みのり会のキャッチコピーです。

平成14年12月、私たちは宮城県の仙台空港近くで事業をスタートしました。母体は、福祉作業所みのり園という小規模作業所。狭い建物に40人近くがひしめき合い、車いすの方は自由に動けず、気持ちを落ちつけたくても一人になれる場所もない。高齢化やニーズの多様化にも対応するため法人格を取得し、障害をもつ皆さんが地域の中で生きて行くための拠点となる場所を目指してのスタートでした。支援費制度や障害者自立支援法等国の制度に翻弄されながら、軽作業や音楽療法、旅行や外出支援など、地域の中で、地域と共に、10年間を過ごしてきました。

東日本大震災とその後の2年間

あの日、東日本大震災の津波は、私たちからたくさんのものを奪いました。金曜日恒例のお茶会の時間で、全員がほぼ1か所にいたこと、送迎準備の時間帯で車両も運転手もそろっていたこと等の好条件があったおかげで、その日の利用者さんや職員には被害がなかったものの、自宅で被災した方、開所前から長く施設運営にご尽力いただいた地域の皆さん等、二度と会うことはできなくなってしまった方もいます。ご本人は無事でも、家や家族を失い、遠く離れた地に転居せざるをえなくなった方もいました。

自由に走り回れた廊下、農作業に夏祭り、芋煮会などたくさんのイベントを行なった庭、天井まで海水と汚泥につかり、ボロボロになった建物。思い描いていた未来も含め、無くしたものがあまりにも多く、言葉を失うのみでした。「後で取りに来ようね」そう利用者の皆さんに声をかけたものの、戻ることができないまま、たくさんの思い出も流されてしまいました。

あれからの2年間は今にして思えば、あっという間だったように思います。自宅を失った方への宿泊支援は震災の日から3か月近く続き、1か所で行なっていた生活介護事業と地域活動支援センターは2か所に分かれての仮設営業となりました。

「無くしたものを数えたらきりがない」
「あるものを数えよう」
「自分たちの手で作ろう」
「私たちには、まだ笑顔が残っている」

文字にすると、格好いいですね。その当時はそこまで言葉にしていたわけではありませんが、今になって思えば、そんなことを考えていたような気がします。もちろん、私たちの力だけでは何もできませんでした。

泥に埋まった施設から、思い出の品々を掘り出してくれたボランティアの皆さん。「うちのこれ使いな」と机や椅子、ベッドなどを提供してくれた地域の方々。自分たちの運営する事業所から、1年以上にわたり職員を派遣し続けてくれた県外の施設の皆さん。仮設の改修に必要な建材、活動に必要な物品、流された送迎車両の代わりの車、事務用品、保存食…数え上げればきりがないほどの善意に支えられ、震災からの2年間を過ごしてきました。

新しい施設でスタート

そして平成25年4月、私たちみのり会は名取市内の内陸部に新たな施設を再建し、スタートすることができました。以前の建築図を基に意見を出し合い改良を加え、建物は2階建てとなりました。敷地は半分になりましたが、広いベランダもつけることができ、運動する場所には困りません。浴室や調理室も設備を一新し、旧施設ではできなかった支援もできるようになりました。

といっても、すべてを一新したわけではありません。2年間支えていただいた善意、今、この文章を入力しているパソコンも支援でいただいた物品の一つです。利用者の皆さんが活動や食事の際に使用している食堂や椅子、機織り機、文房具…だけではなく、たくさんの気持ち、数えきれない善意は、今も私たちの周りにたくさん残っています。

ご支援いただいた方々に感謝イベントを開催

そうした善意に、応える術はないだろうか。今こうして活動できている感謝の気持ちを、どうにかして伝えられないだろうか。

その発想から企画が始まったのが、7月13日に行われた感謝イベント「みのり会笑顔日和~たくさんの感謝をこめて~」でした。

でも、大掛かりなものを企画できたわけではありません。たくさんの善意、支援のおかげで、新しい建物でスタートできたという感謝を、利用者の皆さんの笑顔で伝えることが最善と思いました。そこで、お出でいただいた方に普段の活動を体験していただき、そこで作成した物品を見て、気に入った物を持ち帰っていただくようにしました。幸いにも趣旨にご賛同いただいた保護者や後援会の皆さん、地元の食堂組合の方々等にもご協力いただき、カレーライスの無料提供や軽食販売等も行いました。ご招待の支援団体、個人の方だけでなく、地域の皆さんにも次々にご来場いただき、200組用意していた記念品や、先着優先にしていたカレーライスも底をつきそうなほどの盛況ぶりでした。遠くは東京、山梨、神奈川等から日帰りで来られた方もいました。利用者の皆さんとの再会を喜び、建物の内外で記念撮影をし、思い出話に盛り上がりました。法人内にある物品を持ち寄ってベランダに準備したオープンカフェ風のテーブルは終始満席で、途中の降雨がなければ予定時間を過ぎても閉店できなかったと思います。

閉会のセレモニーでは利用者の皆さんが歌やダンスを披露し、近隣の方から、「楽しいところなのね」とうれしい声もいただきました。

新施設での活動再開と、大盛況に終わったみのり会の笑顔日和でした。

今後の課題

大震災から2年を経て、新施設のスタートと感謝イベントは、復興としては一つの区切りになったかと思います。ですが、これで満足はしていませんし、たくさんの課題も抱えたままです。

私たちの住む地域には、障害をもつ人が親亡き後に生活できる入所施設やグループホーム、ケアホーム等はなく、一時宿泊を行う事業所も少ないままです。私たちみのり会も、今年度に短期入所事業をスタートしたものの、労働基準法と障害者総合支援法の制約により円滑な事業運営には程遠いのが現状です。

法人内で行なっている事業のほとんどはすでに定員を超過しており、これから学校を卒業してくる方の受け皿も不足しています。ニーズの多様化も、利用者・家族の高齢化も待っていてはくれません。

建物ができたから復興ではなく、震災前からの課題すらも乗り越え、法人本来の主題である「共に生きる町」をつくることが、私たちにとっての復興です。

まだまだ力不足な面もある法人ですが、どこにも、誰にも負けない「利用者の皆さんの笑顔」があります。みのり会の発展と推進が、たくさんのご支援への何よりの感謝の言葉となるよう、これからも、利用者の皆さん、地域の皆さんと共に、力を尽くしていこうと思います。みのり会に関わるすべての皆さんへ、感謝を込めて。

「笑顔をありがとう、これからもよろしくお願いします」

(きくちひろし 社会福祉法人みのり会主任支援員)