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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年10月号

第3次障害者基本計画について

牧野将宏

1 はじめに

平成25年9月27日、政府は第3次障害者基本計画(注1)の閣議決定を行なった。障害者基本計画は障害者基本法(昭和45年法律第84号)第11条第1項に基づき策定されるものであり、政府が講ずる障害者施策の最も基本的な計画として位置付けられる(注2)

本稿においては、約10年ぶりに策定された第3次障害者基本計画について、策定に至る経緯および内容を概観する。なお、文中意見にわたる部分は、筆者の個人的見解であることをお断りしておく。

2 第3次障害者基本計画策定の経緯

(1)障害者施策を巡る近年の動き

近年、わが国の障害者施策は、国際的な影響を受けながら、大きな変化を遂げてきた。第3次障害者基本計画は近年のわが国の障害者施策の1つの到達点と位置付けられるものであり、これによりわが国の障害者施策は、新たな展開を迎えることとなる。計画の紹介に入る前に障害者施策を巡る国内外の動向について概括しておきたい。

国際社会においては、平成18年に国連において、障害者の権利に関する条約(仮称。以下「障害者権利条約」という)が採択された。障害者権利条約は、障害者の権利および尊厳を保護・促進するための包括的・総合的な国際条約であり、平成25年9月24日までに、133の国と1の国際機関(EU)が批准している。

平成19年の署名以降、わが国は同条約の締結に向けて国内法の整備に取り組んできた。具体的には、政府においては、障害者基本法の改正(平成23年)、障害者総合支援法の制定(平成24年)、障害者差別解消法の制定(平成25年)等、一連の国内法令の整備に取り組んできたところであり、この他にも議員立法により、障害者虐待防止法の制定(平成23年)、障害者優先調達推進法の制定(平成24年)、成年被後見人の選挙権の回復等のための公職選挙法の改正(平成25年)等が行われてきている。

第3次障害者基本計画は、これらの一連の国内法令の整備を受けて策定される初めての基本計画であり、障害者権利条約締結も見据えて策定されるものである。以下に見るように、第3次障害者基本計画の基本理念等は、この間の国内外における取組や議論の進展を踏まえたものとなっている。

(2)策定の経緯

第3次障害者基本計画に関する具体的な検討は、障害者政策委員会(委員長:石川准静岡県立大学教授)における調査審議から始まった。同委員会は、平成23年の障害者基本法改正により、平成24年5月に内閣府に設置された審議会であり、委員(定員:30人)の過半数を障害者または障害者の家族が占めている点に大きな特徴がある。障害者政策委員会においては、平成24年7月の第1回会議以降、同年12月までの第5回会議まで検討が行われ、同委員会における検討結果は、同月政府に対して提出された。

政府においては、障害者政策委員会における検討を踏まえ、また、平成25年の第183回通常国会における、障害者差別解消法の制定、障害者雇用促進法の改正、公職選挙法の改正等、を反映させた上で、関係省庁間で調整を行い、障害者基本計画の政府原案を取りまとめた。

政府原案については、障害者政策委員会においてさらに議論が行われ、議論の結果に基づき、修正が加えられた。その後に実施されたパブリックコメントにおいては、障害者政策委員会に構成員が含まれていない障害者団体をはじめ、幅広い国民から意見が寄せられ、これらも踏まえて、さらなる修正が加えられた。

第3次障害者基本計画はこのような過程を経て、平成25年9月27日の閣議において決定された。

3 第3次障害者基本計画の概要

第3次障害者基本計画は、「はじめに」、「1 障害者基本計画(第3次)について」、総論に当たる「2 基本的な考え方」、各論に当たる「3 分野別施策の基本的方向」、「4 推進体制」から構成され、別表として障害者基本計画関連成果目標が付されている。

第3次障害者基本計画の主な特色について、総論および推進体制に関する部分を中心に概括すると以下のとおりである。

(1)障害者施策の基本原則等の見直し(総論関係1)

平成23年の障害者基本法改正において、法律の目的や障害者施策の基本原則に係る規定の改正が行われたことを踏まえ、本計画においても、基本理念等の見直しが行われている。

ア.基本理念

平成23年に改正された障害者基本法第1条の目的規定を踏まえ、施策の基本理念として「共生社会」の実現を掲げ、そのために、障害者の自己決定に基づき社会に参加する主体としての位置付けを明確にした上で、1.障害者の能力発揮のための支援、2.障害者の社会への参加を制約している社会的な障壁の除去、に取り組むことを明確にしている。

イ.基本原則

施策の基本原則としては、これも改正後の障害者基本法第3条から第5条までの規定を踏まえ、「(1)地域社会における共生等」、「(2)差別の禁止」、「(3)国際的協調」の3点を掲げている。

なお、「(3)国際的協調」に関連して、これまでの国内法整備が障害者権利条約の締結に向けて行われてきたことを踏まえ、計画期間内のできる限り早期に同条約を締結することができるよう、必要な手続きを進めることとしている。

ウ.各分野に共通する横断的視点

横断的視点としては、「(1)障害者の自己決定の尊重及び意思決定の支援」、「(2)当事者本位の総合的な支援」、「(3)障害特性等に配慮した支援」、「(4)アクセシビリティの向上」、「(5)総合的かつ計画的な取組の推進」の5点を掲げている。

「(1)障害者の自己決定の尊重及び意思決定の支援」は、障害者権利条約の理念を踏まえ、政策決定過程から具体的に支援を実施する現場までに及ぶ障害者の自己決定の尊重が掲げられた。

この他、「(3)障害特性等に配慮した支援」では、女性である障害者や障害児への留意の観点が示されている他、「(4)アクセシビリティの向上」においては、障害者が経験する困難や制限が障害者個人の障害と社会的な要因との関係から生ずるという、障害に関するいわゆる社会モデルの視点を明確にした上で、社会全体のアクセシビリティの向上に向けた社会的障壁の除去という方向性が示されている。

(2)計画期間の見直し(総論関係2)

これまで、障害者施策に関する基本的な計画は、約10年の期間で策定されてきた。しかしながら、経済社会情勢や制度の変化が激しいことから、本計画では平成25年度から平成29年度までの概ね5年間を計画期間としている。なお、この計画期間内であっても、必要性が認められた場合においては、計画を柔軟に見直すこととしている。

(3)施策分野の新設(各論関係1)

旧計画においては、8つの施策分野が設定されていたところ、平成23年の障害者基本法の改正や平成25年の障害者差別解消法の制定等を踏まえ、「7.安全・安心」、「8.差別の解消及び権利擁護の推進」、「9.行政サービス等における配慮」の3つの分野を新たに設定している(従来、施策分野として設定されていた「啓発・広報」については、推進体制において記述している)。

具体的には、「7.安全・安心」においては、平成23年に新設された障害者基本法第26条(防災及び防犯)、第27条(消費者としての障害者の保護)を踏まえ、防災・防犯対策や消費者トラブル等に関する取組等について記述している。同じく「8.差別の解消及び権利擁護の推進」においては、障害者差別解消法、平成25年の障害者雇用促進法の改正、障害者虐待防止法を踏まえ、障害を理由とする差別の解消の推進やその他の権利擁護の推進に関する取組について、「9.行政サービス等における配慮」においては、障害者基本法第28条(選挙等における配慮)、第29条(司法手続における配慮等)を踏まえ、選挙等や司法手続における配慮等について記述している。

(4)既存分野の施策の充実・見直し(各論関係2)

既存分野の施策についても、障害者基本法の改正や個別法の制定・改正、情報通信技術の発達等を反映し、取組の見直し・充実が行われている。紙幅の都合上、本稿の上段に全体の概要を掲載しているので、これを参照にしつつ本文を御覧いただきたい。

(5)計画の推進体制の強化(推進体制関係1)

平成23年の障害者基本法改正により内閣府に設置された障害者政策委員会は、障害者基本計画の実施状況の監視を行うこととされている。本計画においても、このような障害者政策委員会の位置付けを明確にするとともに、同委員会における評価等を実効的に行うために障害者施策に関する情報・データの充実を推進することとしている。

(6)成果目標の設定(推進体制関係2)

これまでの基本計画においては、数値目標の設定等は行われていなかったが、本計画においては合計45の事項について具体的な成果目標が設定されている。

成果目標は、それぞれの分野における具体的施策を総合的に実施することにより、政府として達成を目指す水準として位置付けられる。

第3次障害者基本計画の概要
図 第3次障害者基本計画の概要拡大図・テキスト

分野別施策の基本的方向
図 分野別施策の基本的方向拡大図・テキスト

4 今後の展望

今後、各分野における施策の一義的な責任を担う各府省においては、基本計画において示された基本的方向に従い、具体的な施策の企画・立案を行い、計画的に取組を進めることが求められる。また、地方公共団体においては、障害者基本法に基づき、今回の第3次障害者基本計画等を基本とするとともに、地域の状況を踏まえ、地方障害者計画を策定することが期待される。

(まきのまさひろ 内閣府政策統括官(共生社会政策担当)付参事官(障害者施策担当)付参事官補佐)


(注1)障害者施策に関する長期計画としてはこれまで、障害者対策に関する長期計画(昭和57年度~平成4年度)、障害者対策に関する新長期計画(第1次障害者基本計画)(平成5年度~平成14年度)、障害者基本計画(第2次障害者基本計画)(平成15年度~平成24年度)が策定されてきている。法律に基づき策定される計画と位置付けられたのは平成5年の障害者基本法の制定(心身障害者対策基本法の全面改正)からであり、今回の計画は障害者基本法に基づく基本計画としては3回目となることから、第3次障害者基本計画としている。

(注2)障害者基本計画は行政府として策定するものであり、立法府や司法府の取組は計画の対象とはなっていない。また、地方公共団体が独自財源で行っている取組等も対象とはなっていない。
計画本文は、内閣府障害者施策担当HP(http://www8.cao.go.jp/shougai/index.html)を御覧ください。