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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年10月号

第3次障害者基本計画に対する評価と課題

日本身体障害者団体連合会

経過と全体評価

改正障害者基本法によって、障害者基本計画の策定に関する調査審議・意見具申、同計画の実施状況の監視・勧告を行うために組織された障害者政策委員会が、初めて内閣府・関係省庁との熱い議論を積み重ねて第3次障害者基本計画案が作成された。障害当事者・家族、熱心な支援者、学識経験者等が委員であるので、本音の発言のもと緊迫した議論が展開された。障害のある一人ひとりの多様な生活を切れ目なく支えるためには、各省庁間の連携、横断的取り組みが求められるために、内閣府が障害者基本計画作成に関わるのである。しかし、省庁間の温度差、縦割り行政の弊害を十分に取り除くことの困難も実感された。

総括的に振り返ると、今回の緊密スケジュールでは最終的な合意には達しなかったこともあったり、関係省庁に温度差は残ったりしたが、互いの理解への努力をもとに、政府による基本的な方向性が整理されたと評価したい。

分野別施策の基本的方向

「2.基本的な考え方」に整理された基本理念、基本原則、各分野に共通する横断的視点は、基本計画を具体的な取り組みにつなげる時に活用できる大事なツールである。

「3.分野別施策の基本的方向」の「1.生活支援」では、特に障害者総合支援法等との関わりが大きく、総合福祉部会の骨格提言との兼ね合いから緊迫した議論が展開された。これらのいくつかは、(7)障害福祉サービス等の段階的な検討に整理されているように、「地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律」附則第3条に基づいて、社会保障審議会障害者部会等で検討を深める必要がある。

地域生活支援事業の移動支援や同行援護が通院や買い物等の外出に限定され、通学や通勤等に活用できない等の問題が指摘された。議論の中で縦割りの壁を解消することはできなかったが、根拠となる文言が整理できたので、今後の検討に委ねたい。

「2.保健・医療」では、高齢化等に伴う障害の重度化・重複化や生活習慣病の予防について整理された。障害特性を踏まえた健康維持支援を具体化しなければならない。また、精神保健・医療の提供等や難病に関する施策の推進については、それぞれの委員がコメントすると考えられるとても重要な議論が展開された。

「3.教育、文化芸術活動・スポーツ等」では、特に本人・保護者の意思を十分に踏まえた就学先決定の仕組み等について白熱した議論が展開された。これについても関係者がコメントすると期待される。また、一人ひとりの主体的な成長を促す支援のためには、さまざまな「連携」の重要性が指摘されたが、現時点ではそれらの「連携」の難しさも判明した。

「5.生活環境」は、指定障害者福祉サービスを利用していない障害者の生活を支えるためにも重要である。多くの障害者は、経済的な理由から住まいについて困難を抱えている。(1)住宅の確保として、障害者向けの公共賃貸住宅の供給等を政府の取り組む基本的方向性にとどめることなく、地域社会に実質的な成果をもたらす取り組みにしなければならない。(2)公共交通機関のバリアフリー化の推進等、(3)公共的施設等のバリアフリー化の推進、そして(4)障害者に配慮したまちづくりの総合的な推進について整理していることは、地域社会での社会生活を支えるために重要である。複数の関係省庁が横断的に関わるので円滑な連携に結び付けなければならない。中央の議論、政府の基本的方向性にとどめることなく、地方公共団体等を含む関係機関の連携が重要である。

「7.安全・安心」では、東日本大震災からの復興において、障害者や家族等が地域全体のまちづくりの推進に関与すべきとされたが、基本計画内の文言にとどまることなく、地域での実践に結び付けなければならない。

「4.雇用・就業、経済的自立の支援」、「6.情報アクセシビリティ」、「8.差別の解消及び権利擁護の推進」、「9.行政サービス等における配慮」は、障害者差別解消法等の関わりから見直されたり、新たな項目となったものである。おおむね5年間の基本計画ということを考えれば、関係各省庁ならびに関係各省庁の所管する民間事業所に関わる障害者差別解消法や改正障害者雇用促進法の施行前の準備体制作りや施行当初の実践に関わる項目である。これらは、障害および障害者理解の充実につながるとともに、障害者差別解消法等を根拠に「一人ひとりの障害特性を踏まえた切れ目のない支援」への配慮として、柔軟で横断的な総合的支援につながると期待される。障害者団体も十分に取り組みに参画しなければならない。

今後の課題

障害者基本計画案について検討したが、計画作成が最終目標ではない。基本計画を国レベルの旗振りに終わらせることなく、地域における具体的取り組みに結び付け、障害のある一人ひとりが地域社会において切れ目のない支援を活用して充実した生活を営むことができるようにすることがゴールである。基本計画を具体的制度づくりの根拠として活用しなければならない。そのためには、「4.推進体制」にも明記されているように、障害者団体が地域の障害者団体とのネットワークを基盤として地域社会における関係諸機関と連携することが求められる。いかに連携を実現できるかが成果を問うことになる。

また、障害者政策委員会には障害者基本計画の実施状況の監視・勧告という役割もあるので、担うべき責任は大きい。