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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年10月号

「第3次障害者基本計画」を実効あるものに
~課題は具体的施策の検証と当事者による政策提言~

DPI(障害者インターナショナル)日本会議

経過

第3次障害者基本計画(以下、計画と略)に関する実質的な議論は、2012年8月20日に開催された第2回障害者政策委員会(以下、委員会と略)においてスタートした。2011年の障害者基本法(以下、基本法と略)改正で設置されることとなった、委員会の最初の仕事である。基本法に規定のある施策分野ごとに6つの小委員会が設けられ、9月から11月にかけて6回開催された。小委員会での議論を踏まえ、12月17日の委員会において『新「障害者基本計画」に関する障害者政策委員会の意見』が取りまとめられた。

本年7月22日、7か月ぶりとなる第6回委員会が開催され、計画の政府原案が示された。これは内閣府において、委員会の意見も踏まえて、各省庁との調整を図ったものとして提案された。当日の委員会では、その不十分さを指摘する意見が相次いで出され、当初予定されていなかった第7回委員会(8月9日)に結論が持ち越されることとなった。ここでのまとめをもとに、8月24日から9月5日までの期間でパブリックコメントが実施され、9月中には閣議決定される見通しになっている。従って、現在示されている計画案に基づいて意見を述べることとする。

改めて実感する2011年基本法改正の意義

計画案「はじめに」で述べられているが、社会モデルに基づく障害者の概念、障害者権利条約(以下、条約と略)でいう合理的配慮の概念、計画の実施状況を監視し、勧告を行うための機関としての委員会の設置などを改正に盛り込んだことの意味は極めて大きく、第3次計画の核心となっている。

計画案の総論部分のうち重要と思われる記述を見てみよう。2 基本的な考え方、2.基本原則、(1)地域社会における共生等。ここでは次の内容が含まれている。「2.全て障害者は、可能な限り、どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと」。(2)差別の禁止では、社会的障壁の除去について、「それを怠ることによって障害を理由とする差別その他の権利利益の侵害が生じないよう、その除去の実施について必要かつ合理的な配慮がなされなければならないこと」。(3)国際的協調では、「障害者施策は、(中略)国際社会における取組と密接な関係を有していることに鑑み、国際的な協調の下に図られなければならないこと」。

また、3.各分野に共通する横断的視点のトップ項目に、(1)障害者の自己決定の尊重及び意思決定の支援、が掲げられている。特に、政策決定過程への障害者の参画について、審議会等の委員の選任にあたっては障害種別に配慮すること、さらに、障害特性に応じた適切な情報保障を確保するとされており、国、地方を通じて、当事者参画を一層確かなものにしていくための重要な根拠となるであろう。

踏み込み不足の分野別施策

前述した総論部分では、条約、改正基本法、制度改革の議論を一定反映した内容となっている。分野別施策についても、政府案に対する議論が2回行われたことで、当初案をある程度補強するものとなった。しかし、総じて従来施策の列挙にとどまり、総論に基づく新たな展開への方向性がほとんど見えてこない。その一つの要因は「総合福祉部会・骨格提言」についての記述がなく、これを生かしていこうとする姿勢が欠落していることにあるのではないか。国会質疑でも確認されているとおり「骨格提言の段階的、計画的実現」といった記述が盛り込まれる必要があったと考える。骨格提言は、障害者団体、関係団体、学識経験者、自治体関係者ら構成員55人の総意としてまとめられたものであり、政府はその意義を再認識すべきである。

「差別の解消及び権利擁護の推進」が独立した項目として立てられたことは評価したい。ただ、成年後見制度については「適切な利用の促進」にとどまっており、先の公職選挙法の改正にもみられるような問題について検証する必要がある。現に、国家公務員並びに地方公務員法では「欠格条項」と明記され、「職員になれない、試験を受けることができない」となっている。

精神医療について、社会的入院の解消や地域移行の促進などについてのメニューは示されている。しかし、最も必要と思われる「精神病床の削減」は、成果目標も含めて全く触れられていない。入院患者の実態調査をするとともに、病床削減の方向を明確にすべきである。

雇用・就業では、公的機関について、「民間企業に率先垂範して障害者雇用を進める」としている。しかし、実態としては採用試験に際して、「活字印刷文による出題、口頭による面接、介助者なしの職務遂行」などが受験資格とされ、事実上一定の障害者を排除している。こうした状況を転換し、範となるための具体的方策が計画に盛り込まれるべきである。

今後に向けて

委員会は計画に基づく施策について、これを監視し、必要があれば勧告することとなっている。この役割を十分に発揮するためには、国、地方を通じて各施策の実施状況を検証する必要がある。検証にあたっては障害種別や団体の枠を超え、さらに、自治体なども含め広く連携していかなければならない。第3次計画は5年間とされており、迅速かつ的確な対応が求められる。本計画の決定を受けて各自治体での早期の見直しも重要課題である。DPIとしては、当事者の立場からの政策提言に向けて引き続き取り組んでいきたい。