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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年10月号

列島縦断ネットワーキング【千葉】

自閉症者の地域生活を応援します!
自閉症サポートセンターの取り組み

松井宏昭

1 はじめに

自閉症や強度行動障害があっても、生まれ育った地域でみんなと一緒に暮らしたい!

私たちは、千葉県東葛地域において、自閉症のある人の都市生活を支援していきたいと活動しています。

私たちが柏市自閉症協会の会員を対象に実施した調査1)で、強度行動障害や引きこもりなど非常に厳しい事態にあるご本人や家族が少なくなく、その方たちへの支援は、まさに「待ったなし」の状態にあることが分かりました。また、これまでNPO法人自閉症サポートセンター(千葉県柏市)が取り組んできた事業を通じて、二次障害への対策(手だて)が万全でなければ、いかなる自閉症支援であっても不十分だということも分かりました。

さらに、2011年に実施した厚生労働省障害者総合福祉推進事業2)等によって、自閉症者の2人に1人は強度行動障害を経験する可能性があり抜本的な対応が求められていること、強度行動障害となった人の多くは、地域から孤立し家族の献身によって家庭内で暮らす方が多いこと、そういった場合、母子密着で、過保護、外界だけでなく家族の中をも閉ざした状況にある方が多いこと、強度行動障害は、本人だけでなく家族の負担も非常に大きく、心労でダウンしたり家庭生活が崩壊してしまうことが少なくないこと、多くの市町村が発達障害で行動障害のある人に対しては「相談支援」「行動援護」「療育・児童デイサービス」等の分野で精力的に取り組んでいるものの、その限界のあることが明らかになりました。

一方、弘済学園(神奈川県秦野市)等の実践によって、強度行動障害のある人の生活を支えていくためには、病気の人を病院で治療するように、医療と連携した施設において、自閉症を正しく理解したプロの支援者によるきめ細かく一貫した支援を継続して受けることの有効性が証明されてきています。また、はるにれの里(札幌市)の取り組みのように、法人や事業所が支援機関となって地域のケアホームを的確にサポートすることによって、行動障害のある人が家族の暮らす街で元気に暮らしている例もよく知られています。

障害者基本法が改正され、障害者総合支援法が推進されている現在、これら強度行動障害のある人が置かれた厳しい実態と、先進的な実践の成果を踏まえて、自閉症のある人の地域生活を支援するシステムを構築し、強力に推進していく必要があると考えています。

2 NPO法人自閉症サポートセンターの活動から

千葉県の東葛地域は、全国に先駆けてレスパイトが取り組まれてきた地域です。しかし、自閉症児に対する放課後支援の取り組みがなかったことから、柏市自閉症協会(当時は、柏市自閉症児者親の会)は、2002年3月に学校、家庭に続く第三の活動の場として放課後活動クラブ「ペガサス」を開設しました。

その後、2002年9月に親の会を母体とするNPO法人自閉症サポートセンターを設立し、2003年からは制度に基づく児童デイサービス(現在、放課後等デイサービス)としてペガサスを実施してきています。この間のペガサスの契約者数の推移を図1に示しました。2002年の契約者数は25人で自閉性障害のみ。2012年は126人、うち知的障害を伴う自閉性障害101人、知的障害が25人となっているなど、利用者のほとんどが自閉症の子どもたちです。

図1 ペガサスの契約者数の推移
図1 ペガサスの契約者数の推移拡大図・テキスト

さらに、自閉症サポートセンターでは、市民のニーズに応えて就園前や就学前の自閉症の幼児の療育事業所として「リトルペガサス」、知的障害を伴う自閉症者の作業所「生活工房こだま」、デイサービス事業所「トライアングル」、引きこもり等にあるアスペルガー症候群の方の日中支援事業所と就労移行支援事業所「being room」、相談事業所として「発達障害支援室シャル」、「ペガサス相談室」などを開設してきました。

これらの事業を通じて分かったことは、自閉症のある人の対応では、障害の正しい理解と、一人ひとりに対応した支援がすべての基本となる一方で、自閉症のある人は「引きこもりや、不登校、ニートなどの非社会的状況」や「反社会的な状況」「強度行動障害」といった二次・三次障害が一定の確率で発生することと、それらのケアが非常に厳しい実態にあるという現実でした。言いかえると、これら二次障害への対策(手だて)が万全でなければ、いかなる自閉症支援であっても不十分だということでした。

私は、自閉症のある人の誰もが陥りやすくかつ最も重篤な二次障害は「強度行動障害」であると考えています。

3 強度行動障害や自閉症のある人の地域生活支援と住まい

以上を踏まえて、千葉県柏市に「社会福祉法人青葉会」を設立し(2013年8月)、千葉県東葛地域において、アスペルガーの人から重篤な障害のある人まで、家族が暮らす街での豊かなシティ・ライフを支援するとともに、関わる職員のやりがいを支え、ご家族のサポーターとなることを使命として、自閉症のある人の地域生活支援を推進することとしました。

その中核となるセンターとして、2014年4月に、強度行動障害者に対応し、自閉症のある方の日中活動の支援(作業所)や、住まいとして一人ひとりの空間を保証したグループホームの設置、本人や家族のための相談支援を行うための総合的な指定障害福祉サービス事業所「WITH US」を開設します(図2および写真1)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

図2 WITH USの建設地
図2 WITH USの建設地拡大図・テキスト

WITH USでは、利用者の直接支援や市民への相談支援だけでなく、職員の専門性を生かして、在宅者や街のグループホーム・ケアホーム、日中活動事業等への支援、関係者の研修、市民セミナーの開催などにも積極的に取り組んでいきたいと考えています。

将来的には、NPO法人自閉症サポートセンターと合体することにより、現在、自閉症サポートセンターで実施している発達の気になる子どもの療育相談や、学齢児童の放課後・休日支援、引きこもりの方の支援、成人の就労支援やデイサービスなども加えて、自閉症のある方の多様な都市生活の支援をさらに充実させていく予定です。

4 おわりに

千葉県柏市(人口40万人)では、2002年9月から柏市自閉症児者親の会が主催する自閉症サポーター研修会が始まり、それを引き継ぐ形で2005年4月に、発達障害のある人の支援者を対象とした研修と発達障害のある人への正しい理解啓発、関係者・支援者間のネットワークづくりを目的とする柏市発達障害者支援協議会が設立されました。協議会の運営は、家族、当事者、医師、保健師、保育士、教師、心理士、研究者など市民有志ら世話人のボランティア活動によります。主な事業は自主研修会(参加費無料)の実施であり、世話人が企画し、毎月第4金曜日の夜に40人近くもの市民が参加しています。このように、積み重ねられてきた市民主催の研修会等を介した市民の理解の広がりとさまざまな形での参加が、自閉症のある人たちへの支援に大きな力となることを期待しています。市民が私たちの活動に直接関わることはなかなか難しいのかもしれませんが、社会参加、地域参加、生活の広がりを進めていくためには、その実現の可否が市民に依拠することは言うまでもありません。

私たちの取り組みに関心のある方、一緒に働いてみたい方は、青葉会(TEL:04―7197―4080、Eメール:info@aobakai.net)までご連絡ください。

(まついひろあき 法人自閉症サポートセンター、社会福祉法人青葉会)


【文献】

1)NPO法人自閉症サポートセンター:“自閉症者のための都市型入所施設のモデル設計事業報告書―強度行動障害者にも対応した自閉症者の都市における生活支援と住まい―”(2010)、平成21年度独立行政法人福祉医療機構事業

2)NPO法人自閉症サポートセンター:“発達障害のある人の障害者自立支援法のサービス利用実態に関する調査”報告書(2012)、平成23年度厚生労働省障害者総合福祉推進事業