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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年11月号

障害認定に関わる国際的動向

寺島彰

障害の定義と障害認定の意味

障害を定義する意味は、障害者に対する制度の目的に応じて、全人口の中から対象となる人を限定することである。なぜ、対象者を限定するかと言えば、限られた資源を有効に使おうとすれば、何らかの形で対象者を限定する必要があるからである。経済学でいう希少性の原理である。予算が無限にあればよいが、それが限られている以上、その予算を一定のルールにより分配するとともに、分配を受けるべき人以外の人が勝手に使用することを排除する必要がある。そうでなければ、資源の無駄使いになってしまう。たとえば、1億円を100人に分配すれば、1人あたり100万円になり、生活費にしたり福祉機器を購入することもできるであろう。しかし、それを1億人に分ければ、1人1円になり、意味のないお金になってしまう。

限られた予算の中で障害者制度を構築するには、障害者を限定する必要がある。そのために、いろいろな障害者制度は、その制度の目的に応じて障害の定義をしている。わが国において、身体障害者福祉法の障害の定義と、国民年金法による障害の定義や、学校教育法における障害の定義が異なることはよく知られている。障害者制度の目的は、さまざまなものがあり、例示すると表1のように分類できる。

表1

制度の目的 対象者 対象者数
障害者差別禁止 軽度の障害者バリアフリー等を必要とする比較的軽度の障害者が対象。幅広い障害を含む 上から下へ細くなる三角形
リハビリテーション・社会サービス リハビリテーションや介護等の社会参加・自立を必要としている障害者が対象  
障害年金・障害者手当の支給 職業的収入が十分期待できない障害者が対象

バリアフリーなど障害者差別禁止を目的とした制度では、幅広く障害をとらえており、人口の15~20%が対象になると考えられる。障害の定義がなされないこともある。たとえば、国連「障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)」にも、日本の「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー新法)」にも障害の定義はない。

一方、障害年金・障害者手当制度では、障害が厳密に定義され、障害程度がランク付けられていたり、医学的な定義が中心になっていたりする。人口の1%程度しか対象にならないと考えられる。たとえば、アメリカの社会保障障害保険(Social Security Disability Insurance)も、わが国の年金制度も厳密な医学的な定義を行なっている。

障害認定は、予定された対象者(障害者)以外の人を排除するための制度で、いわゆるゲートキーパー(門番)としての機能をもっている。わが国の知的障害者更生相談所などは知的障害の認定をしているが、この門を通過しないと知的障害者の多くのサービスを受けられないのである。身体障害者福祉法の第15条指定医も身体障害の障害認定におけるゲートキーパーである。障害の定義がない制度にはもちろん障害認定制度はないが、定義があっても特別な認定制度があるとは限らない。たとえば「障害のあるアメリカ人法(Americans with Disabilities Act:ADA)」には障害の定義はあるが、専用の障害認定機関があるわけではなく、障害者差別の訴えや裁判があった時に障害があるかどうかが判断される。

障害の定義に関する動向

1990年のADAの成立以降、社会モデル(Social Model)の登場、国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health:ICF)の公表、障害者権利条約の発効などにより、世界的に障害の定義を見直す動きが広がっている。

ADAでは、次のいずれかに該当する場合に障害者とみなされるという考え方を示した。この2・3は新しい考え方であり、また、合理的配慮という新しい概念を提供した。

1.個人の主要な生活活動の一つ以上を実質的に制限する心身の機能障害がある場合。

2.1の障害をもった経歴がある場合。

3.1の障害をもつとみなされる場合。

社会モデルは、1990年代はじめから普及し始めた考え方で、障害は主として社会によって作られた問題であるとみなし、障害問題の原因は、社会が障害者のニーズに対して適切に対応することができなかったことが原因であると考えた。この社会モデルは、医学モデルと対立させることで世界的に受け入れられるようになった。

ICFは、2001年に発表され、それまでのWHO国際障害分類(ICIDH)がマイナス面を分類するという考え方が中心であったのに対し、生活機能というプラス面からみるように視点を転換するとともに環境因子、個人因子の観点を加えた障害分類である。医学モデルと社会モデルの統合モデルとして提案された。しかし、心身機能・身体構造については詳細なコード化がなされていたが、活動・参加および環境因子については、大まかな枠組みの提示にとどまっており、また、個人因子については、枠組みさえも示されないという状態であった。

そこで、ワシントングループが2002年に組織され、ICFの実用化のために統計的な観点から取り組みを始めた。同グループは、毎年1、2回集まり、今年は13回目の会議を開催した。これまで、障害に関する世界共通の調査を実施するための簡易調査票を開発し、実際に調査を実施したりしているが、環境因子などのコード化は、ほとんど進んでいない。

障害者権利条約には、障害の定義規定はなかったが、障害者は「長期的な身体的、精神的、知的又は感覚的な障害を有する者であって、様々な障壁との相互作用により他の者と平等に社会に完全かつ効果的に参加することを妨げられることのあるものを含む。」(政府仮訳)として、間接的に社会モデルとしての障害を定義した。

このような経過を経て、個人の機能障害や能力障害を中心とした障害認定から、環境要因を加味して障害認定しようとする流れに変わってきている。しかし、障害の定義については、概念的な整理により可能であるため、社会モデルを取り入れることはいろいろなところで進んでいるものの、障害認定については、それがかなり難しい作業のため、社会モデルの登場から20年以上経ているにもかかわらず、ほとんど進んでいない。社会モデルでは、予定された障害者以外の人を排除することが難しいためである。そのため、障害者差別禁止に関連する法律では、社会モデルの考え方を取り入れた障害の定義が行われるようになったが、障害者制度における障害認定においてはまだ、ほとんどそのような障害の定義は普及していないというのが現状である。

各国の障害認定の動向

次に、各国の障害認定の状況を説明する。

(1)アメリカ

アメリカの社会保障法(Social Security Act)に基づく、社会保障障害年金(Social Security disability benefits)や所得保障補足給付(Supplemental Security Income:SSI)においては、「医学的に証明できる精神障害又は身体障害者でその障害のために実質的な収入をもたらす仕事に就くことができないこと。この障害は、少なくとも12か月継続するか、あるいは継続したか、又は死亡に至ると考えられる障害であること」という従来からの障害の定義は変更されていない。この定義から分かるように、認定基準はまさに医学的である。たとえば、視力検査にはスネルンチャートを用いることなど検査方法まで詳しく記述されている。この認定基準は、医学の進歩に合わせて改訂されており、2012年には、視能率を表す尺度をパーセントに加えてバリューという単位を用いることなどの変更が行われている。

(2)英国

ADAの影響を受け、1995年に成立した障害者差別禁止法(Disability Discrimination Act:DDA)は、2000年のEC指令「雇用及び職業における均等待遇の一般的枠組みを設定する指令(2000/78/EC)」(以下、2000年EC指令)に従い、性差別禁止法や人種関係法等の他の差別禁止法とともに「2010年平等法」に吸収される形で廃止された。2010年平等法は、基本的にDDAの内容を継承しており、障害の定義は、次のようになっている。

(a)身体障害又は精神障害があり、(b)その障害が、通常の日常活動を遂行する能力に実質的、かつ長期の不利な影響を及ぼす時に障害者という。

英国でも、障害認定は手当や社会サービスにおいて実施されており、認定基準はそれぞれの制度で行われる。近年、英国では福祉改革が進んでおり、手当制度の統合や手当受給額の上限を設定したりしている。その中で、障害年金に相当する手当は、2008年に導入された雇用・生活支援手当(Employment and Support Allowance:ESA)である。この手当においては、労働能力の制限があるかどうかが問題になる。そのために、障害認定の内容に労働能力評価(Work Capability Assessment:WCA)が含まれている。WCAの結果、労働能力に制限があると判断された場合には、手当が受けられるようになっている。この認定基準は、たとえば、矯正しても20センチメートル離れたところの16ポイントの印刷文字が読めない、最低5メートル離れたところにいる友人が十分分からないなど、能力障害を基準にしている。医学的検査を使った厳密な基準はあまりないが、人工透析を実施しているかや、人工肛門の有無など臓器に着目した評価が基本になっており、医学モデルを基本にしている。

(3)ドイツ

2000年EC指令に従い、障害者等幅広い対象者に対する差別やハラスメント等を禁止する一般平等取扱法が差別禁止法として定められている。同法には障害の定義規定はなく、障害の定義は、社会法典第9編「リハビリテーションと障害者参加」に示されている。そこでは、障害とは「身体的機能、知的能力又は精神上の健康が、その年齢の標準的な状態と比べ、6か月以上にわたり逸脱する可能性が相当に高く、かつ、それゆえに社会生活への参加が制限されている状態」とされている。そして、障害程度は10~100に数値化され、50以上の場合、重度障害者とされる。この認定基準は、病気と機能障害のリストから作成されており、たとえば、視覚であれば、視力、視野、色覚、眼筋麻痺の有無等医学的な検査で認定される。

この障害程度は、公的医療保険、労災保険、年金保険、戦傷年金、児童福祉、社会扶助などそれぞれの制度の目的に合わせて独自に活用される。

(4)フランス

フランスにおいても2000年EC指令に従い「障害者の権利と機会の平等、参加、及び、市民権に関する法律(2011)」により障害者差別が禁止されている。障害の定義は、社会福祉・家族法典L.114条にあり「1つ又は複数の身体・感覚器官・知能・認識・精神に関する機能の実質的永続的決定的悪化、重複障害、あるいは、健康上のトラブルを理由として、障害者が、その環境において被る活動の制限あるいは社会生活への参加の制約のすべて」としている。この定義は、ICFの影響を受けているとのことである。

認定基準は、障害年金や手当など各制度ごとに障害の範囲や程度を定めている。たとえば、障害年金制度では、労働・稼得能力が3分の2以上減退している場合に障害年金が支給される。また、成人障害者手当制度では、障害率が80%以上である場合等に手当が支給される。

障害保障給付の支給基準の一つとして、「生活の基本的活動の1つを行うことが極めて困難である」という基準があるが、この困難の水準について、障害者の機能に加えて、支援がない場合の能力も勘案されるとのことである。この基準は、環境までを認定基準に加えている点で新しい内容である。

(てらしまあきら 浦和大学総合福祉学部教授)


【参考文献】

・日本障害者リハビリテーション協会「障害者の福祉サービスの利用の仕組みに係る国際比較に関する調査研究事業報告書」2011年

・障害者職業総合センター「欧米の障害者雇用法制及び施策の動向と課題」2012年

・Waddington L.(et.), European Yearbook of Disability Law, Volume 4, 2013