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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年11月号

当事者からの声

医療費、就労、日常生活上の不安を抱えて

下堂前亨

厚生労働省では、昨年10月より、ペースメーカ等の身体障害者手帳の障害認定の見直しを進めています。私たちの会員の中には、先天性心疾患でペースメーカや人工弁を入れている患者が多数おりますので、その実情を正しく理解した上で判断いただきたいと考え、患者と家族の「声」を集めたところ、約90人から、見直しへの意見や日常生活を伝える切実な声が届きました。

まず、大半の方が医療費への不安を抱いていることが分かりました。命が救われたとは言っても、健常者とは異なる医療費の負担が生涯にわたって続きます。重度障害者が受けられる自治体の医療費助成制度によって、多くの患者が救われているのです。

次に多く寄せられたのが、就労や生活上の不安の声でした。患者の親の多くは、自分が働けなくなった後に子どもがどうやって生活をしていけばいいのか、言いようのない不安を感じています。外見では、日常生活の困難さを理解され難い心臓病患者にとっては、障害者雇用促進法により就労機会が広まることはとても大切です。就労の面でも、身体障害者手帳は大きな支えになっているのです。

その他にも、先天性心疾患患者は、元の疾患が複雑なこともあり、術後もさまざまな問題を抱えています。ペースメーカ装着者からは、電池交換や機器の不具合による入替手術の負担が大きいという声が寄せられました。中には、「何かあったら命に関わる」と保育園への入園を断られたという辛い話もありました。また、弁置換をした患者からは、再置換手術の問題だけでなく、血栓予防の薬の副作用により、日常生活上の支障が大きいという声も多数ありました。

こうした患者の声にも耳を傾けていただき、「先天性疾患」等については、今回の認定基準の見直しの対象からは外れ、従来どおりの方向になりそうですが、以上のようなことは、ペースメーカや人工弁を装着した患者だけの問題ではありません。医療の進歩により重症の先天性心疾患患者の命は救われても、その先の日常生活で困難を抱えることが多いのです。そうした患者が、身体障害者手帳のほか、障害年金や特別児童扶養手当などでも、必ずしも適切な認定を受けられている訳ではないのが実態です。

心臓病児者にとって社会的な「障害」とは何か、自立した生活を送る上で何が必要かという観点から、それぞれの制度における障害認定のあり方を考えていく必要があると思います。そして、現行の認定基準が根本から見直され、心臓病児者の日常生活の実態に見合ったものとなることを心から願ってやみません。

(しもどうまえとおる 一般社団法人全国心臓病の子どもを守る会事務局長)