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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年11月号

当事者からの声

「医学モデル」の限界と線維筋痛症(せんいきんつうしょう)患者

尾下葉子

「線維筋痛症」とは

私たちが抱える疾病「線維筋痛症(せんいきんつうしょう)」は、原因不明・難治性の全身的慢性疼痛疾患です。目に見えない痛みが主訴であり、不眠や疲労など多様な症状を呈します。本邦では、厚生労働省研究班の疫学調査(2003年)によって、有病率は他の国と同等の人口の1.66~2%(約200万人)と発表されました。

現在、日本においては患者数に比して診察や治療をする医師が極めて限られており、入院施設もほとんどなく、保険適応の薬もごくわずかというのが現実です。見た目で分からない症状が多いために、実際に症状があるのかどうかを疑われることさえあり、何件もの医療機関を回っても診断すらつかず、生きる希望ごと奪われている患者が後を絶ちません。

高く厚い障害者手帳取得の壁

線維筋痛症患者の身体には多くの場合、目に見える異常(腫れや変形など)はなく、画像診断や血液検査などの他覚的所見では、目立った異常が見られないことが一般的です。寝たきりに近い生活を送っていても、痛みや疲労など、自覚症状による生活上の困難を、いわゆる「医学モデル」に則(のっと)って“証明”することは困難を極めます。したがって、身体障害者手帳を取得するための診断書を、医師に依頼することすら、大変高いハードルになります。加えて、適切な治療を受けられれば、回復・寛解する患者も相当数いるために、「固定永続した障害ではない」ことも私たちの障害認定を難しくしています。

しかし、実際には、痛みや疲労は、あらゆる生活動作の障壁です。初期の症状が酷(ひど)いときほど助けが必要なのに、それを受けることはできません。トイレに行くために移動するだけでも激痛がはしり、自費でポータブルトイレや、介護用のおむつなどを購入する患者が多くいます。

食事の準備、洗濯物を干す、階段の昇降、歩行などは軽症の患者でも困難です。また、ある程度回復した患者でも、少しの天候の変化や、心身にかかる負荷で体調は大きく変動し、仕事はおろか最低限の家事もままならない日が多いのです。

本会が2011年にまとめた独自の調査では、常勤で就労している者はわずか1%にとどまっています。障害者手帳取得者は全体の15%に過ぎませんし、等級もその症状に比すると軽いものです。さらに問題なのは「受けたい」「断られた」との回答が45%あることです。

円グラフ拡大図・テキスト
『FM白書2011』より(線維筋痛症友の会・編)

介護保険特定疾病にも指定されていませんので、障害者手帳の取得を問わず、日常の生活を保障できる居宅支援さえ、線維筋痛症には適用外です。2013年春から「障害者総合支援法」の対象となった130疾患からも、いまだに除外されています。

「患者が尊厳を持ってこの社会で暮らしていくための障壁」を評価するための「医学的証明」は、どこまでの正確性と妥当性を持ちうるのか?私たちの複合的な困難は、「医学モデル」のみで障害を評価することの限界を体現しているように思います。個々の生活ニーズに応える支援のデザインのあり方そのものが、問われていると言ってもよいかもしれません。

(おしたようこ NPO法人線維筋痛症友の会)