「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年12月号
幕を開けた国連での障害と開発への取り組み
―障害と開発に関するハイレベル会合の意義―
中西由起子
9月23日にニューヨークの国連本部で、国連総会障害と開発に関するハイレベル会合が開催された。9月17日から10月2日の第68回国連総会の一般討論演説が始まる1日前であったため、世界の指導者に加えて、さまざまな障害者団体を含む市民社会団体から800人を超える代表が参加した。会議のテーマは、「将来への道―2015年以降の障害インクルーシブ開発政策」であった。プログラムは、手話通訳と字幕をつけて国連のウェブで同時中継されたi。
2015年までのミレニアム開発目標(MDGs)においては、貧困の削減を中心とする8つの目標iiそれぞれに障害が関係するはずであるのに、まったく障害の言及はされていなかった。そのため、すべてのレベルに障害の視点が含まれていくことはMDGs達成の上で重要であるとの認識に立って、2010年の総会でハイレベル会合が提案された。MDGs目標年の2015年以降の枠組みが議論されている時、MDGsには明記されていなかった障害を新しい開発目標に盛り込んでいくことが明確に確認された、画期的な会合となった。
成果文書iiiとなる「これからの道のり:2015年およびそれ以降に向けた障害者を包摂する開発課題」は、各地域での議論を経て準備されてきた。内容は、「1 価値と原則」、「2 2015年およびそれ以降に向けた、障害のある人々に関する開発目標の実現」、「3 障害と開発に関するハイレベル会合『さらなる前進へ:2015年およびそれ以降に向けた、障害インクルーシブな開発課題』成果文書のフォローアップ」の3部からなる。各国は、国連憲章および人権宣言に基づいた、すべての障害者の権利を前進させようとの新たな決意をもってこれを採択した。
「1」において注目すべきは、障害者を開発の主体者および受益者として明確に位置付けていることである。WHOと世界銀行が共同で2011年に発表した「障害に関する世界報告書」に基づいて、世界人口の15%にもなる障害者に対する「アクセシビリティと開発へのインクルージョンの確保」および「2015年およびそれ以降の新たな国連開発課題でのすべての障害者を十分に考慮することの重要性」を強調している。
2のMDGs以降の目標の実現においては、以下17項目の決意が表明された。
(a)障害と開発に関する国際的基準の枠組みの、完全な適用と実施の達成。
(b)開発政策とその意思決定プロセスが、すべての障害者のニーズと利益を考慮することの保証。
(c)障害のある人々のインクルージョンを促進するための適格な計画の、必要に応じての策定。
(d)平等な機会と非差別に基づく教育の権利の承認。
(e)障害者の保健サービスへのアクセシビリティの保証。
(f)障害関連のニーズを満たす社会的保護の強化。そして、最低限の社会的保護に基づく関連制度へのアクセスの促進。
(g)加盟国が、完全かつ生産的雇用と働きがいのある人間らしい仕事への、平等なアクセス確保に向けた持続可能な施策をとることの促進。
(h)ユニバーサルデザインによるアプローチに従った、アクセシビリティの確保。
(i)障害データの収集や分析、開発政策の計画、モニタリングの改善。国連内の関連機関・団体との関連データおよび統計の共有。そして、国際的に比較可能なデータと統計の必要性の強調。
(j)研究の強化と支援、そして適切かつ効率的な資源の配分。
(k)加盟国、国連システムおよび人道支援団体に対して、人道的な計画立案と対応への障害者のニーズの包合と重視を継続的に強化すること、ならびに人道的対応の全側面および段階に、アクセシビリティとリハビリテーションを含めることの要請。
(l)障害者に対する理解と知識の向上および社会認識の最大化の促進。
(m)障害のある女性と子どもの権利およびニーズへ対応することと、ジェンダーの平等と子どもの権利に関連のある、国際的に合意された開発目標とコミットメントを実現することを目的とした、国の取り組みの強化。
(n)地域・国際開発銀行と金融機関に対し、開発の取り組みと融資制度全般に障害を含めることの奨励。
(o)開発の全段階での障害主流化のための公共および民間の資源活用の奨励。国際協力とグッドプラクティスに関する情報交換や障害インクルーシブな開発を促進すること、障害者のためにアクセシビリティを保証すること、彼らのエンパワメントを促進することの必要性の強調。
(p)民間部門の各機関に対する障害の視点の統合、採用、実施のための公共部門および市民社会、特に障害者団体と連携の促進。
(q)障害者の権利促進に関する国連パートナーシップ・マルチドナー信託基金の目的の支持と、他の関係者による支持の奨励。
3のファローアップに関しては、まず、国連システムならびに加盟国に対して、ミレニアム開発目標と、2015年およびそれ以降に向けた、その他の国際的に合意された障害者に関する開発目標の実現に引き続き関与していくこと、ならびに2015年以降の新たな国連開発課題において障害を十分に考慮し、加盟国の要請に応じて、適切な技術援助を提供することを促している。
経済社会理事会に対しては、連携を確保し、障害と開発の問題を十分に考慮することを要求している。事務総長に対しては、成果文書実施の進捗状況に関する情報を障害と開発の問題に関する定期報告書に含めること、および成果文書実施に向けたさらなる具体的な措置に関する勧告を行うことを要請している。そして、国連総会に対しては、ミレニアム開発目標達成に向けた進展の最終評価に成果文書実施のために講じられた施策を含めることと、2015年の総会議長に対し、障害のある人々に関する開発目標の実現に向けた状況と進展について、フォローアップを行うことを要求している。
MDGs以降の障害の扱いがこれによってどう変わるのかは、まだ未確定であるが、今回の特別総会をとおして、開発において障害は無視できないと確認された。今後の開発の枠組みで障害が明記されることは確実となった。
(なかにしゆきこ アジア・ディスアビリティ・インスティテート)
プログラム
9月23日 | |
9:00-10:00 開会全体会議 |
声明 ジョン・ウィリアム・アシェー(国連総会議長、アンティグア・バーブーダ大使) パン・ギムン(事務総長) マリア・ソリダド・システルナス・レイズ(国連障害者権利委員会委員長) スティービー・ワンダー(国連平和大使) ヤニス・ヴァルダカステニス(欧州障害フォーラム会長) |
10:00-13:00 円卓会議1 障害インクルーシブ開発のための国際・地域協力とパートナーシップ |
共同議長 コラソン・フリアン・ソリマン(フィリピン社会福祉大臣) ホセ・マヌエル・マルガ―ジョ(スペイン外務大臣) 外務大臣や社会開発大臣等の各国代表、国連機関代表者、障害者団体を含む市民社会団体代表者による意見陳述 |
13:00-15:00 昼食休憩 サイドイベント |
以下を含むサイドイベントが公式会議や他のサイドイベントと重複して開催された
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15:00-17:30 円卓会議2 障害者のためのポスト―2015開発課題と包括的な開発 |
共同議長 ヘイディ・ハウタラ(フィンランド開発大臣) オスマン・ジャランディ(チュニジア外務大臣) 外務大臣や社会開発大臣等の各国代表、国連機関代表者、障害者団体を含む市民社会団体代表者による意見陳述 |
17:30-18:00 閉会全体会議 |
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9月24日 | |
スペシャルイベント | 災害と障害者―日本からの教訓 |
【注】
i http://webtv.un.org/search/closing-of-the-high-level-meeting-on-disability-and-development-general-assembly-4th-plenary-meeting/2686980312001?term=Disability%20and%20developmentなどのビデオで会議の様子が見られる。
ii 極度の貧困と飢餓の撲滅、普遍的な初等教育の達成、ジェンダー平等の推進と女性の地位向上、幼児死亡率の削減、妊産婦の健康状態の改善、HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延防止、環境の持続可能性の確保、開発のためのグルーバル・パートナーシップの推進の8目標。
iii 詳しくは、http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/intl/un/HLMDD_annex0923.htmlを参照のこと。