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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年12月号

サイドイベントの報告

極度の貧困の撲滅:障害とのずれに着目して
~Eradicating Extreme Poverty: Addressing the Disability Disconnect~

久野研二

本サイドイベントは、障害者インターナショナル(DPI)が主催し、国連経済社会局(UNDESA)、日本の国際協力機構(JICA)、ハンズ財団、貧困と闘うグローバルキャンペーン(GCAP)の共催で開催された。今回の国連ハイレベル会合は、開発における障害の取り組みを進めること、特に、2015年をゴールとするミレニアム開発目標以降の開発枠組みをより障害インクルーシブなものにすることを目指した会議である。このサイドイベントも、貧困の取り組みと障害の取り組みのさらなる統合の必要性についての議論を目的として開催された。

会議参加者の出席数は主催者発表で80人。国連機関や各国政府関係者、障害と開発双方のNGOなどから障害当事者や専門家が世界各国から参加していた。エクアドルの国連大使のLuis Gallegos氏が議長を、国連障害特別報告者のShuaib Chalklen氏が副議長を務めた。DPI議長のJaved Abidi氏とUNDESAの障害者権利条約担当官である伊東亜紀子氏の挨拶で始まった。多数の参加に対する謝辞に加え、2015年以降の枠組みがより障害インクルーシブなものになることの重要性が改めて強調された。閉会は、インド社会正義・エンパワメント省大臣Kumari Selja氏によってなされるなど、国連機関や各国政府、市民社会の代表らが広く参加した会であることを象徴するものであった。

指定演者は、「インクルーシブな情報通信技術のための世界戦略(G3ict)」代表のAxel Leblois氏、ACCION代表のJoshua Goldstein氏、そしてJICAの久野研二の3人であった。Leblois氏は情報保障の必要性とその具体的な取り組みについて、世界の半数以上の国々がアクセスについての定義を有していることなどを報告した。Goldstein氏はマイクロファイナンスにおける障害インクルージョンの具体的な取り組みについて、インドの実践経験などを交えた発言であった。久野はJICAの事例をもとに、障害当事者主体の取り組みの必要性と効果、また、「力の獲得(Empowerment)」と「社会・環境可能性の拡大(Enablement)」を並行して行う複線アプローチの必要性を中心に報告した1)

指定演者に加えて、議長指名によるフロアからの発言として、DPIアジア太平洋事務局長のSaowalak Thongkuay氏が女性の参加のさらなる推進の必要性について、DPIレバノンを代表してMohammed Loutfy氏が当事者参加の重要性について、DPI青年女性ネットワークの国際コーディネーターであるAbia Akram氏が若手障害者の参加の支援の必要性について、Danlami Basharu氏が貧困と障害という課題について、さらなるアフリカへの支援の必要性についての発言を行なった。また、そのほかにもフロアからの発言がなされた。

時間の制限から参加者による質疑の時間は設けられなかったが、フロアからの発言をできるだけ多くしたことで、障害や地域性についても多様な意見が表明された会議となった。

発表を振り返ると、貧困を含む「障害と開発」の課題の多様性に対応する包括的な取り組みが必要なこと、そして、当事者の主体的参加を支援することによって貧困の取り組みを障害インクルーシブな取り組みにすることの必要性が確認された会議となった。それらは単に理念としてではなく、それを実現するために必要なバリアフリー化や情報保障などのニーズに適した合理的配慮の具体的な取り組みに言及する発言も多く、すでに経験が蓄積されつつあることも実感した。

私はこのハイレベル会合に先立ってUNDESAと国連大学が共催し、今年の5月にマレーシアで開催した2つのコンサルテーション会議にも参加したが、そこで議論してきたことが反映された会議であったともいえる。参加者数は当初の予想を上回り、参加者用のテーブルを二重三重に取り囲むような形での開催となったが、それは障害分野において貧困という課題への関心が高いということの一つの証明でもあろう。開発の主課題である貧困と障害という課題が別々の課題としてではなく、差別や排除、自由(実質的な機会)や参加の制約という共通の課題として取り組まれる日も遠くないと感じさせる会議であった。

(くのけんじ 国際協力機構・国際協力専門員(社会保障))


1)配布した「全ての人々が恩恵を受ける世界を目指して:障害と開発への取り組み(英タイトル:JICA’s Activities on Disability and Development)」と題するパンフレットは、JICAのホームページより日英両言語ともダウンロード可能。