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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年2月号

現場から

特別養護老人ホーム麻布慶福苑とクラブ活動

鈴木英二

特別養護老人ホーム「麻布慶福苑」は、平成4年5月、港区内では2番目(社会福祉法人設立では区内最初)となる利用定員100床の指定介護老人福祉施設と4床の短期入所生活介護(介護予防を含む)事業所としての指定を受け開設しました。開設当初は、高齢者在宅サービスセンター(一般デイサービス事業)を併設しておりましたが、平成22年3月に閉鎖しました。

平成25年4月1日現在、入所利用者の平均年齢は87歳、要介護度は4.09、身体障害者手帳の交付を受けている方は概ね4分の1となっています。また、ほとんどの方は、「認知症」を有し「車椅子」の利用者です。

施設では、入所者の毎日の生活に張り合いをもっていただき、また、身体的に虚弱化し諸機能が低下している高齢者の生活の質(QOL)を高めるためいろいろなクラブ活動を実施しています。歌謡クラブ、習字クラブ、絵画クラブ、料理クラブ、アニマルセラピーなどが毎日活発に行われています。また、毎月の誕生会、敬老の日に併せた敬老会、慶福祭、文化祭など苑内で開催するイベントやマイクロバスに分乗して出かける春のお花見、秋の紅葉バスハイク、初詣など、入所者が外出できる機会も多くつくっています。

陶芸再開のきっかけは入所者の作品

高齢者介護福祉施設で働いた経験がなかった私が、「麻布慶福苑」に勤務することになったのは、昨年4月のことです。

その際、施設の皆さんへの自己紹介の欄に、趣味で陶芸(作陶)を続けていると書いたら、職員から「当施設では、数年前から指導者が不在で陶芸クラブが休止状態となっている」「再開のためぜひ協力願いたい」との申し入れがあり、施設に入所している方の居室(不在でしたが!)に案内され、当時作った作品を見させていただきました。聞くところによると、開苑当時、東京芸大の学生がボランティアで数年指導に来られていたそうです。

そのようなことがありまして、指導者と言われるほどの経験も力量も少ない私ですが、入所者のQOLや機能訓練のためになるならと再開に向けて準備を進めてきました。

数年前に使っていた粘土も釉薬(色付けの液)もがちがちに固まっていたため本当に材料は使えるのか、必要な材料は買ってきてよいのかも分からず、不安で一杯でした。固まっていた粘土は1か月ほど水に浸しておき、少し軟らかくなったら、板の上で捏(こ)ねてを繰り返し、釉薬も陶芸釜も本当に使えるかどうか心配するなか、何とか粘土も程よく捏ねられ、ようやく6月中旬から入所者の皆さんと悪戦苦闘しながら作陶を始めました。

その後、素焼きのための釜入れ、釜出し、釉薬をつけて最終段階の本焼きとなんとか一連の工程が終わり、入所者の皆さんにとっての処女作品を渡せた時は、本当に良かったと感激してしまいました。

秋の文化祭を見に来たご家族や地域の方々が、出展した入所者の陶芸作品を見て、この作品なら値段をつけると売れると言っていたのを耳にした時、「来年は値札をつけてみようか」など、冗談話を交わしていた自分です。

陶芸クラブ再開は、実は、ご不在だった花田春兆さんの部屋で、当時の作品があったのを見てお手伝いをしてみようと感じたのがきっかけでした。

「陶俳画」(トウハイガ)

さて、話は慶福苑と私の話になってしまいましたが、ここからが本題となります。

当施設には、重度の脳性マヒの障害をもちながら、俳人として、作家として、ご活躍されている花田春兆さんが入所しています。

慶福苑に入所した頃、クラブ活動の一つの陶芸教室に参加して、そこで、陶器と俳句のコラボ「陶俳画」を発想、後日談ですが、特養に入所したからこそ思いついたとお話されていました。

春兆さんは、昨年米寿を迎えられました。入所された頃は、動物や植物、東京タワーなどを陶板で作って焼いて、ふつうだったら絵を描くキャンバスをひっくりかえして貼り付け、その陶板にあわせた17文字の名俳句を墨でなぞられる。そうすることで、今まで誰も考えもしなかった「陶俳画」の完成です。現在は、紙粘土で形を整え、色を付けます。写真好きの職員の撮った写真に俳句をつけたりと、職員とのまさにコラボでここ5年ほどはカレンダーを作って販売もしています。

残念ながら私は、キャンバス裏の実物の作品にはお目にかかったことがありませんが、「祝 米寿 花田春兆コラボ集」を拝見すると、何を作ったのかすぐに分かる味のある陶板が現れます。皆さんにもぜひ見ていただきたい作品集です。ただ、春兆さんの手元に一冊しか無いのがとても残念です。

慶福苑に入所している花田春兆さんは、このような「陶俳画」という言葉を創(つく)り、陶芸と俳句のコラボの発想を考える「すごい」という単純な言葉では表せない「ゆるぎない人生観」の持ち主なのです。

特養で才能と発想を開花し続けて

入所者のQOLを高めるために、そのきっかけをつくってくれた春兆さんには、施設長としてとても感謝しています。

慶福苑には、100歳を超え元気に生活している方も数人おります。春兆さんは、「特養で思いついたことがたくさんある」と言っておられますが、これからも特養を利用して、さらに、その才能と発想を活かして、いつまでも元気に暮らしていただくことを祈念しております。

(すずきえいじ 麻布慶福苑施設長)