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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年2月号

ワールドナウ

パキスタン便り
南アジア障害フォーラム開催

長田こずえ

南アジア障害フォーラム

南アジア障害フォーラム(SADF)は、国連ESCAPにも承認されているNGOであり、障害当事者団体のネットワークで、8つの南アジアの参加国(アフガニスタン、バングラデシュ、ブータン、インド、モルディブ、ネパール、パキスタン、スリランカ)で構成されている。SADFの目標は、障害当事者のエンパワメントと障害の開発への主流化であり、特に、これらの国々の女性の地位の向上が遅れているためか、障害をもつ女性の視点を重視している。

南アジアの障害をもつ女性のエンパワメント

SADFの最初の国際会議は、2011年にバングラデシュで開催され、今回は2回目である。昨年11月18日~19日にパキスタンの首都、イスラマバードで開催された。主催は、ESCAP障害チャンピオン賞を受賞したアティフ・シェイク氏率いる、現地の障害当事者団体「STEP」、そしてパキスタン政府の法務正義人権省が後援した。共催団体は、ユネスコ、APCD、ブリティッシュカウンシル、英国の視覚障害のNGOサイト・セーバー等である。APCDは、財政面と技術的なサポートを提供してくれた。ユネスコも多面的な支援の機会を与えられ、国連組織としてはWHOも参加した。

参加者は、パキスタン、アフガニスタン、バングラデシュ、ブータン、ネパールの南アジア加盟国の代表、その他、日本、タイ、中東からもオブザーバーの参加者も含め総勢約60人であった。APCDのニノミヤ・アキイエ氏と佐野竜平氏、日本からはリハ協の上野悦子氏なども参加した。

開会宣言は、議長を務めたバングラデシュのシュリン・アクタル女史が行い、南アジアの障害者のエンパワメントの重要性を強調した。主催者あいさつでアティフ氏は、障害をもつ女性を開発に主流化することの重要性を強調した。会議では、参加者から活発な意見が出された。会議の成果として、2014年から2016年までの開発分野での活動計画を練り上げ、権利条約第6条に基づき、南アジアの女性のキャパシティーの向上に関する計画を宣言した。

計画の主旨は、障害をもつ女性の開発分野における主流化、障害をもつ女性の人権に関する社会的な意識の向上、「アジア太平洋障害者の新十年(2013―2022年)」に沿って、南アジアの障害をもつ女性のネットワークの強化と南―南協力の推進など、主に権利条約第32条や、2015年以降のポストMDGs開発を見据えた、開発と障害分野のクロスカッティングな戦略として、ジェンダーの視点にフォーカスを置いたものとなった。また、前記を表明したイスラマバード勧告も承認された。

討論中に気づいた点は、SADFの議長が女性であること、アフガニスタンの当事者団体は地雷の被害者の団体で、やはり紛争と障害の問題が気にかかる。また、主催者側で活躍していたパキスタンのアビア・アクラム女史(STEPのアティフ氏の妹)は、DPIの青年女性ネットワークのコーディネーターでもあり、国連本部の障害と開発に関するハイレベル会合のサイドイベントにもパネリストとして参加し、若手障害者リーダーへの支援の必要性を述べた人であり、今後の活動が期待される。

権利条約とCBID・CBRの接点

フォーラムの直後に、同じイスラマバードにおいて、地域に根ざしたインクルーシブな開発(CBID)の会議が、CBIDの議長国であるパキスタンが主催となって開催された。日本からは上野悦子氏が参加した。フォーラムの会議参加者はほぼ全員、このCBIDのフォローアップ会議にも参加した。CBIDはCBRの延長線のようなものであるが、開発と障害のツールとしては重要である。

「開発と障害」に関する現場からの声

開発途上国の障害者たち、またわれわれ現場の開発ワーカーは、国連本部で決められるフレームワークを待っている時間はない。教育、貧困、災害、文化などの分野で即刻、障害を主流化する必要がある。毎日が戦争状態である。ジェンダーと同じでとにかくやるしかない。国際的に開発と障害に高い関心が集まったのはうれしいが、2016年以降の新たな開発目標に、障害が本当にどのように盛り込まれるかは依然として不確かであるし、30年間、国連の開発分野で仕事をしてきた筆者としてはあまり楽観視したくない。とにかくできることをやっていく、これが大切である。

(ながたこずえ)


筆者はILO、GATT、国連事務局西アジア地域事務所(イラク、ヨルダン、レバノン)、東チモール国連臨時政府、国連ESCAP障害担当、国連NY本部の開発協力政策担当を経験し、2011年より国連専門機関ユネスコのパキスタン事務所の所長を務めている。本稿の意見は、筆者個人のものであり、必ずしもユネスコや国連の意見を代表するものではない。南アジアの実態を開発と障害の視点から理解してもらいたい。