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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年2月号

ワールドナウ

CBIDパキスタンネットワーク主催のワークショップ:開発と障害の実現へ

上野悦子

はじめに

CBRがリハビリテーションを中心とする活動から、より包括的で広範囲な関係者と地域で社会開発として進めるCBID(地域におけるインクルーシブ開発)に変遷したことは、CBRガイドライン(2010年、WHO、ILO、UNESCO、他)で示されている。その背景には、障害者権利条約の制定があり、ポストMDGsで提案され議論になっているインクルーシブ開発を促進しようという動きがある(「ノーマライゼーション」2013年12月号)。

CBID実現のためには、障害が分野横断的課題であることを認識し、そのためさまざまな関係者との連携が重要である。

CBRネットワークとCBIDパキスタン

WHOによると、CBRは90か国以上で実施されているという。アフリカや南北アメリカ大陸に続いて、2009年にはCBRアジア太平洋ネットワーク、さらに2012年にはCBRグローバルネットワークが設立された(「ノーマライゼーション」2013年8月号佐野竜平氏)。このグローバルネットワークには、IDA(国際障害同盟)、IDDC(国際障害と開発コンソーシアム)、国際DPO、国際NGOなど、障害分野の主要関係機関が連なっている。以前から南アジア独自のCBRネットワークが存在していたので、パキスタンではCBIDについては理解されていたそうだが、国内のネットワークはまだなかったことから、関係団体が話し合いを進め、2011年にCBIDパキスタンネットワークが設立された。目的はインクルーシブ開発の促進で、このネットワーク自体が、パキスタンの障害者団体や国内外の団体が平等に参加する、インクルーシブなネットワークである。

ワークショップ会議概要

イスラマバードの中心から少し郊外にある、周りに林が広がるホテルを会場に、2013年11月21日から23日まで、CBIDパキスタンネットワークは「CBIDに関する障害のある人のリーダーシップ会議」を開催し、CBIDの戦略計画を採択した。このワークショップ直前に開かれた南アジア障害フォーラム(SADF)主催の女性障害者のためのワークショップ参加者も加わり、南アジア諸国を含めて、約100人が参加した。共催団体は、南アジア障害フォーラムに協力した団体をはじめ、ブリティッシュカウンシル、ユネスコパキスタン、WHO、国際NGO、APCD等である。

開会式では、まず共催団体の代表があいさつを述べた。その中には、ユネスコパキスタン代表の長田こずえ氏やAPCDのCEOニノミヤ・アキイエ氏が含まれていた。進行役の一人であるアティフ氏は、この会議では、障害当事者団体とCSO(市民組織)のハーモニーを促進することが目的であると述べた。

ニノミヤ氏は、CBRはこれまでは主に農村で実践されてきたが、高齢化に伴い、都市の貧困層にも届く必要があり、コミュニティの資源を活用するインクルーシブ開発が重要である。また、CBIDは権利と開発のツイントラックで進めることである、と述べた。パキスタンの自立生活センター、マイルストーンのシャフィック氏は、これまでは障害当事者団体(DPO)のみに焦点を当ててきたが、DPOが孤立しないためにもCSOとともに一つのプラットフォームで活動する時期が来た、と述べた。

CBIDパキスタンネットワークにはDPOとCSOを含めて100以上の団体が加入している。代表はムハマド・シャワズ・ムナミ氏、国際コーディネーターのグーラム・ナビ・ニザマニ氏は、CBRアジア太平洋ネットワークの代表を務めている。

1日目は、各国のCBIDの実践発表。2日目には、災害リスク軽減に関するCBIDとコミュニティでのインクルーシブ教育のシンポジウムが行われた。

最終日には、CBIDパキスタンネットワークの2014年から2016年までの戦略計画が採択された。最後に成果文書として、CBIDに関するイスラマバード宣言を採択して終了した。

おわりに

CBIDパキスタンネットワークでは、会議の準備段階からさまざまな団体が一緒になって進めてきた。この会議の成功の背景には、APCDの大きな貢献がある。パキスタンからAPCDでの研修に参加した、主に障害のある人たちが10年間で100人に達しており、その人たちが今回の会議で大変活躍していた。パキスタンでのCBIDネットワークは、一朝一夕に作られたものではなく、豊かな人材とこれまでの各団体の協調の蓄積の上に花開いたものと言えよう。

滞在中、ユネスコの車の中を見せていただく機会があった。ドアの内側と窓に分厚い装備がほどこされた防弾車だ。そのような緊張を伴う暮らしの中で、CBIDを通して関係者がつながりを進展させていることに心から敬意を表したい。

(うえのえつこ 公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会)