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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年2月号

障害者権利条約「言葉」考

「意思疎通」

小中栄一

「意思疎通」は、政府の訳文として使われているもので、英語の原文では「コミュニケーション」である。「コミュニケーション」は、いわゆる意思伝達を意味する場合もあれば、通信を意味する場合もある。これを「意思疎通」と「通信」に分けて使うことになった。

「通信」について述べられているのは、前文の(v)、第4条「一般的義務」の(g)、第9条「施設及びサービス等の利用の容易さ」であり、たとえば、電話、ファックス、メール、緊急通信システム、そして放送、インターネット等について、利用機会を有することの確保、最小限の費用で利用しやすくなるようにすること、そのための障害者に適した情報通信機器の設計、開発、生産及び流通を促進することとしている。

さて、「意思疎通」については、第2条の定義「意思疎通」、及び関連して「言語」の定義が重要である。「言語」の定義において、音声言語だけでなく「手話その他の形態の非音声言語」も言語であるとして規定した上で、「意思疎通とは、言語、文字の表示、点字、触覚を使った意思疎通、拡大文字、利用しやすいマルチメディア並びに筆記、音声、平易な言葉、朗読その他の補助的及び代替的な意思疎通の形態、手段及び様式(利用しやすい情報通信技術を含む。)をいう。」としている。このことは音声言語だけが言語であり意思疎通の方法であるという、音声言語中心の社会のあり方を変えていく根拠となる重要なところである。音声言語中心の社会から、多様な障害者の自ら求める言語と意思疎通の方法が尊重され、用意される社会に変えていかなければならない。そのあり方が、第21条「表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会」と第24条「教育」に規定されている。

ここで、もう少し「意思疎通」について考えたい。二者関係の意思伝達をイメージすることが多いかと思う。しかし、「コミュニケーション」の「コミュ」は「コミュニティ」にも通じ、集団としての、また社会的な関わりでの意思疎通も重要であることを忘れないでいただきたい。

たとえば、聞こえる人たちは、集団の中にいる時、自分は一言も言わなくても、聞こえているということにより他の人の言っていることを理解し、その考え、気持ちを理解し、共感することがある。また、意思伝達をするための手段として情報通信機器があり、「意思疎通」と「通信」の相互関係も忘れてはならない。情報通信機器・システム、緊急通信システムが障害者には使えない場合、障害のない人と比べて障害のある人の意思疎通のレベルは低く抑えられたものになってしまう。

まとめると、「意思疎通」には1.一対一関係での意思疎通、2.集団としての意思疎通、社会活動における意思疎通、3.情報通信機器・システムの利用による意思疎通、がある。それぞれの「意思疎通」について、障害者の選択する言語と多様な意思疎通の形態、手段及び様式が権利の行使として受け入れられ、かつ提供されることが必要である。

(こなかえいいち 一般財団法人全日本ろうあ連盟副理事長)