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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年3月号

災害対策基本法の改正と今後の展開

内閣府政策統括官(防災担当)付

1 災害対策基本法見直しの経緯

政府では、未曽有の被害をもたらした東日本大震災の教訓を踏まえた災害対策法制の見直しとして、1.大規模広域な災害に対する即応力の強化、2.大規模広域な災害時における被災者対応の改善、3.教訓伝承、防災教育の強化等による防災意識の向上等を内容とした「災害対策基本法の一部を改正する法律(平成24年法律第41号。以下「第一弾改正」という。)」を制定いたしました。

その後、第一弾改正の残された課題や、防災対策推進検討会議の最終報告書(平成24年7月31日)等を踏まえ、更なる災害対策法制の見直しについて検討を進め、平成25年4月12日に「災害対策基本法等の一部を改正する法律案」を閣議決定、同15日に国会に提出いたしました。

本法案は、衆参両院での審議を経、平成25年6月17日に全会一致をもって可決・成立、同21日に公布されました。(「災害対策基本法等の一部を改正する法律(平成25年法律第54号。以下「改正法」という。)」)

2 改正法の概要

改正法は、1の通り、防災対策推進検討会議最終報告書等を踏まえたものであり、その概要は以下の通りです。

1.大規模広域な災害に対する即応力の強化等

・災害緊急事態の布告があったときは、国民生活の維持・安定を図るための措置等の政府の方針を閣議決定し、これに基づき、政府が一体となって対処するものとすること。

・災害により地方公共団体の機能が著しく低下した場合、国が災害応急対策を応援し、応急措置を代行する仕組みを創設すること。

・大規模広域災害時に、臨時に避難所として使用する施設の構造など平常時の規制の適用除外措置を講ずること。

2.住民等の円滑かつ安全な避難の確保

・市町村長は、学校等の一定期間滞在するための避難所と区別して、安全性等の一定の基準を満たす施設又は場所を、緊急時の避難場所としてあらかじめ指定すること。

・市町村長は、高齢者、障害者等の災害時の避難行動に特に配慮を要する者(以下「避難行動要支援者」という。)について名簿を作成し、本人からの同意を得て地域防災計画に定める民生委員等の避難支援等の実施に携わる関係者(以下「避難支援等関係者」という。)にあらかじめ情報提供するものとするほか、名簿の作成に際し必要な個人情報の内部利用及び外部に対して情報の提供を求めることができることとすること。

・市町村長は、防災マップの作成等に努めること。

3.被災者保護対策の改善

・市町村長は、緊急時の避難場所と区別して、被災者が一定期間滞在する避難所について、その生活環境等を確保するための一定の基準を満たす施設を、あらかじめ指定すること。

・災害による被害の程度等に応じた適切な支援の実施を図るため、市町村長が罹災証明書を遅滞なく交付しなければならないこととすること。

・市町村長は、被災者に対する支援状況等の情報を一元的に集約した被災者台帳を作成することができるものとするほか、台帳の作成に際し必要な個人情報を利用できることとすること。

・災害救助法について、同法の所管を厚生労働省から内閣府に移管すること。

4.平素からの防災への取組の強化

・「減災」の考え方等、災害対策の基本理念を明確化すること。

・災害応急対策等に関する事業者について、災害時に必要な事業活動の継続に努めることを責務とするとともに、国及び地方公共団体と民間事業者との協定締結を促進すること。

・住民の責務に生活必需物資の備蓄等を明記するとともに、市町村の居住者等から地区防災計画を提案できることとすること。

・国、地方公共団体とボランティアとの連携を促進すること。

以上が改正法の概要になりますが、「防災と障害者」というテーマに関連の深い事項として、2において記述した避難行動要支援者名簿を活用した避難支援等及び3において記述した避難所等における生活環境の確保があり、以下、これらの事項について記述いたします。

3 避難行動要支援者名簿の作成・活用について

1.避難行動要支援者名簿の作成・活用について規定した趣旨

市町村においては、かねてより「災害時要援護者名簿」等の名称で、改正法の避難行動要支援者名簿に類似する名簿が整備されてきましたが、東日本大震災に際して、当該名簿を有効に活用し、要支援者の命を救うことができた一方、作成後の名簿の活用について十分でない事例も見受けられたところです。

これらを踏まえ、名簿を作成するだけでなく、作成した名簿を適切に活用し、避難行動要支援者の生命・身体を災害から保護することをその趣旨として、本改正法において避難行動要支援者名簿制度を創設しました。

2.避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針

この改正法を受け、その事務に係る取組方法を示すものとして、内閣府では市町村を対象とした「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」(平成25年8月)を作成しました。

本取組指針の中でも、特に、改正法において新たに義務付けられた内容に関連する事項として盛り込まれている主なものは、以下の通りです。

a.避難行動要支援者名簿の作成・活用

関係部局等が把握している要介護高齢者や障害者等の情報を把握したうえで、要介護状態区分、障害支援区分、家族の状況等を考慮して避難行動要支援者の要件を設定し、名簿を作成する。その上で、市町村担当部局が避難行動要支援者本人に郵送や個別訪問など、直接働きかけることにより、平常時から名簿情報を避難支援等関係者に提供することについて説明し、同意が得られた場合は、実際に当該避難行動要支援者に係る名簿情報を避難支援等関係者に提供する。また、避難支援に必要となる情報は適宜更新し、関係者間で共有する。

b.発災時等における避難行動要支援者名簿の活用

平常時から名簿情報を避難支援等関係者に提供することに同意した避難行動要支援者については、名簿情報やその活用により策定した個別計画に基づいて避難支援等を行うこととなる。

また、現に災害が発生し、または発生するおそれがある場合であって、避難行動要支援者の生命または身体を保護するために特に必要があるときは、市町村は、名簿を外部に提供することに同意していない避難行動要支援者の名簿情報であっても、避難支援等関係者等に名簿情報を提供できることとされており、こういった場合にも、避難行動要支援者名簿を有効に活用し、可能な範囲で避難支援等が行われることが期待される。

4 避難所等における生活環境の確保について

1.避難等所における生活環境の確保を規定した趣旨

東日本大震災において、多数の被災者が長期にわたる避難所生活を余儀なくされる状況の中、被災者の心身の機能の低下や様々な疾患の発生・悪化が見られたこと等が課題となりましたが、これらを踏まえ、改正法により、市町村は避難所等における良好な生活環境の確保等に努めることとされました。

2.避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針

改正法を受けた取組を進めるにあたっての参考となるよう、内閣府において、市町村を対象に「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」(平成25年8月)を作成しました。

本取組指針は、平常時における対応、発災時における対応をそれぞれ示していますが、高齢者、障害者等の要配慮者への支援については、主に、以下のような事項を盛り込んでいます。

a.平常時における対応

平常時から市町村の防災関係部局、福祉関係部局及び保健衛生関係部局が中心となり、「避難所運営準備会議(仮称)」を開催し、要配慮者や在宅者への支援も視野に入れて連携し、災害時の対応や役割分担などについて決めておく。また、要配慮者のために特別の配慮がなされた福祉避難所を指定する。

b.発災後における対応

福祉避難所の管理・運営にあたっては、避難者の生活状況等を把握し、ホームヘルパー等の派遣等、避難者が必要な福祉サービスや保健医療サービスを受けられるよう配慮する。また、障害児者等の避難者に対しては、情報提供を行う際に、状態に応じて伝達の方法を工夫する。

5 おわりに

今後、市町村を中心に、改正法を踏まえての様々な仕組み作りが実施されますが、行政職員だけでなく、要支援者またはそのご家族、地域のボランティアの方など、様々な立場の方にこうした取組へのご協力をお願いいたします。