音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年3月号

提言 自然災害と障害者

災害は精神障がい者にどのような影響をもたらしたか

渡部裕一

東日本大震災の発災により、被災地のライフラインは寸断され、私たちはしばらくの間、水や食料はもちろん、情報の確保すらままならない生活を余儀なくされた。公共交通機関の利用は制限され、ガソリンの入手も困難な状況が続く。昼夜絶え間なく発生する余震に人々の平穏は脅かされた。

そのような被災後の生活環境の激変は、とりわけ精神障がいや精神疾患をもつ人々にとって深刻な影響をもたらした。交通機関の寸断やガソリン不足は精神科医療機関への通院を困難にし、それによって生じる服薬中断は再発への深刻なリスクとなり得る。見ず知らずの人たちと避難所で過ごさねばならない日々は、多くの当事者にとって精神的負担となった。

2013年に仙台市が行なった調査によると、多くの当事者は避難所に避難しておらず、情報の少ない中での生活を余儀なくされていたこと、避難所で過ごした人たちも人の多さにストレスを感じるとともに、不眠などの問題を抱えていたことが明らかとなった。さらに、災害時要援護者登録制度の存在を知っていると答えた当事者は全体の1割以下と低く、依然として、災害時の支援にはたどり着きにくい状況下にあることが分かる。あの当時、筆者が訪れたいくつかの避難所では、負担は感じつつも穏やかに過ごしている方が多い印象を受けていた。その実情が大きく異なっていたことを3年近く経った今になって知ることとなった。

このたびの東日本大震災では、精神の障がいや疾患をもつ方々にとっての避難所で過ごすことの難しさ、医療や生活に関する情報の届きにくさなど、いくつかの課題が浮き彫りとなった。同時に、顔馴染(なじ)みのスタッフや気心知れた仲間とのつながり、立ち寄れる居場所の存在を心強く感じたとする声も多かった。

これら教訓を踏まえると、災害発生時には地域に点在する福祉サービス事業所などが、近隣の当事者が立ち寄れる場となり、医療機関や生活情報などを発信することは、その特性を生かした有効な支援と考えられる。今後の災害対策のあり方を考える上で、その役割に対する更なる検討が求められる。常日頃の関係性の良し悪しが、発災時には一層色濃く浮かび上がる。平時から各方面とのつながりを大切にし、地域に開かれている福祉サービス事業所は、災害発生時においても必ずや地域の貴重な存在になり得ると考えている。

(わたなべゆういち 原クリニック/みやぎ心のケアセンター)