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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年3月号

平成26年度障害保健福祉関係予算について

片桐公彦

はじめに

今回の障害保健福祉関係予算は、全体の予算案は1兆5,019億円で、対前年度比プラス1,037億円(+7.4%)となっているが、障害福祉サービス関係費で見れば9,534億円でプラス844億円(+9.7%)と、今回も1割近い伸びを確保している。多くの政府予算が減額されている中で、この伸び方は「尋常ではない」というのがもっぱらの評判だ。たしかにどこの予算を見ても毎年1割ずつ伸びている分野というのは他にない。これを「これまでが少なかったのだから当然だ」と見るか「よくここまで伸ばしているな」と見るかで、今回の関係予算の風景は変わってくるようにも思うが、みなさんはいかがだろうか?

ちなみに私は後者の立場であり、政府の障害福祉予算の積み増しへの意欲を感じつつ「この先も伸び続けていくだろうか?」という憂いにも似た印象を持っている。

地域での暮らしを支える視点から

昨年は「障害者の地域生活の推進に関する検討会」が開催された。平成26年度に向けて「重度訪問介護の対象拡大」「グループホーム・ケアホームの一元化」「小規模入所施設を含む地域における障害者の居住支援のあり方についての検討」の三つの柱についての議論がなされた。結論として、重度訪問介護については「区分4以上で知的・精神障害があり行動上著しい困難を有する者」が対象者として定義され、これに伴い、行動援護を居宅内においても利用可能とし、専門的な支援者によるアセスメントを経た上で重度訪問介護へと移行していく流れが示された。

グループホームについては「介護サービス包括型」と「外部サービス利用型」が創設され、サテライト型も新たに認められ、一人暮らしの可能性が示された。地域における居住支援のあり方については、「一つの建物におけるグループホームの設置数に関する特例」が示された。これらの議論の結果がどのように26年度予算に反映されたかどうか、詳細を読み取ることはできないが、個別支援の可能性を重度訪問介護の対象拡大、行動援護の居宅内での利用拡大、グループホームのサテライトに見出した一方で、都市部の障害者の重度化・高齢化、家族の高齢化も見据えた規模を拡大した住まいの類型への模索がなされるのが平成26年ということになる。

概算要求の段階で目を引いたのは、「障害者の潜在力発揮プログラムの推進(「全員参加の社会」の構築に向けて)」という項目である。最終的な予算の中ではこれらの項目は消えてしまっているものの、全体の予算案の中に溶け込ませている。大きく分けて「障害者就労の支援」「障害者の可能性を広げるための環境の整備」がここに含まれており、就労支援事業所やグループホームの整備(平成25年度補正予算148億円の中での対応となった)、発達障害者支援、相談支援といった障害者の地域生活において重要な項目に関する予算が盛り込まれているところは特筆すべき点である。

地域生活支援事業の憂鬱(ゆううつ)

多くの関係予算は伸び続けているものの、地域生活支援事業の予算は自立支援法時代から伸び悩んでいる。平成18年当時は400億であったが、平成26年度予算では462億となっている。多くの重要なメニューが地域生活支援事業に盛り込まれているが、この予算では、都道府県や市町村としては足りないと言わざるをえない。

平成18年から、多くの重要な事業は地域生活支援事業においてメニュー化される場面が増えているが、その財政的な基盤が市町村に委ねられているところから大きな負担増になる。義務的経費の市町村負担もかなり逼迫(ひっぱく)してきているという実情を聞くと、地域生活支援事業の予算の膨らみは抑えたいところが市町村の本音だろう。魅力的なメニューが示されるが、市町村としては「付き合いきれない」という声も聞こえる。地域生活支援事業の予算についても、義務的経費と同じように、10%ずつとは言わないが、現在のペースよりもかなり頑張って伸ばしていかなければ、市町村のサービス格差はすでに「別の国」かのように大幅に広がっている。

他分野の予算にも目を向けると…

障害保健福祉関係の予算からは話は外れるが、文部科学省の「特別支援教育関係予算」は平成26年度において大幅に増額している。内訳を見ると「早期からの教育相談・支援体制構築事業」(拡充)「学習上の支援機器等教材活用促進事業」(新規)「インクルーシブ教育システム構築事業」(拡充)「自立・社会参加に向けた高等学校段階における特別支援教育充実事業」(新規)などかなり充実した内容が並ぶ。関係者として歓迎すべきニュースである。

さらに、文化庁予算でみれば「戦略的芸術文化創造推進事業」「地域と共働した美術館・歴史博物館創造活動支援事業」の中で、障害者の芸術文化の支援のための予算が盛り込まれている。さらに「メディア芸術の創造・発信」の中の「アニメーション映画製作支援事業」では、バリアフリー映画のための字幕作成予算が盛り込まれた。

現代の障害のある方の暮らしは本当に多岐に渡っている。厚生労働省の関係予算だけでなく、他の分野にも目を向けていくべきだと思う。そんなふうに予算を眺めてみると、福祉サービスだけで障害のある方の暮らしは豊かにはならないのではないか。そんなメッセージを感じた次年度予算である。

(かたぎりきみひこ NPO法人全国地域生活支援ネットワーク事務局長)