音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年3月号

障害者権利条約「言葉」考

「無差別」

川島聡

無差別(nondiscrimination)とは、差別が無いことであり、障害者権利条約(以下、権利条約)の文脈では、障害者が差別されないこと、障害差別が禁止されていることを意味する。無差別を非差別と言う場合がある。

権利条約は障害差別を禁止し、いたるところで差別という言葉に言及しているが、無差別という言葉自体を用いているのは2か所のみである。まず、「一般原則」と題する3条に「(d)無差別」と記されている。無差別は、尊厳や自律や参加等とともに、条約全体に適用される原則のひとつをなすということである。また、5条の見出しには「平等及び無差別」とある。本条は、合理的配慮や「特別の措置」にも言及している。

従来、国際人権法(学)は、無差別に直接差別と間接差別の禁止を含めてきた。この二つは「従来型差別」とも言われる。ある種の「特別の措置」(割当雇用制度など)は、障害者を優遇する措置なので、〈無差別に反する概念〉だと言われることがある。しかし従来、国際人権法は「特別の措置」を、歴史的構造的差別の被害者集団の「事実上の平等」の達成に必要な措置だと捉えて、〈無差別の外にある概念〉ではあるが〈無差別に反する概念〉ではない、としてきた。なお、この「特別の措置」はポジティブ・アクションなどと呼ばれる。

以上のことは、権利条約にもあてはまる。ただ、権利条約は「合理的配慮の否定」(合理的配慮義務の不履行)という新しい概念を導入した。従来、国際人権法では、合理的配慮の概念と「特別の措置」の概念との区別が曖昧で、前者は後者の一種だとみなされることもあった。しかし、権利条約は、「合理的配慮の否定」の禁止を〈無差別の内にある概念〉として明確に位置付けた。「合理的配慮の否定」という新型の差別は「配慮型差別」とも言われる。

まとめれば、権利条約にいう「無差別」とは、「従来型差別」(直接差別と間接差別)と「配慮型差別」の禁止を意味する。直接差別とは、障害自体(視覚障害)に基づき区別等をすることによって、障害者(視覚障害者)に機会の不平等をもたらすことを意味する。間接差別とは、障害関連事項(盲導犬)に基づき区別等をすることによって、障害者(視覚障害者)に機会の不平等をもたらすことを意味する。「配慮型差別」とは、広い意味でのルール(口頭発言の方針)の変更をしないことで、障害者(発声障害者)に機会の不平等をもたらすことを意味する。

(かわしまさとし 東京大学客員研究員)


障害者差別の概念

  相手側Xの行為 障害者Yへの影響
従来型差別 直接差別 障害自体に基づき区別等をするというルールの適用 機会の不平等
間接差別 障害関連事項に基づき区別等をするというルールの適用
配慮型差別 上記ルールの不変更(上記ルールの例外の不設定など)

出典:拙稿「代読裁判と権利条約」川崎和代・井上英夫編著『代読裁判―声を失くした議員の闘い』(法律文化社、近刊)