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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年4月号

発達障害者支援法と支援体制の整備状況

日詰正文

はじめに

「発達障害者支援法」で定義している「発達障害」とは、脳機能の発達が非定型であるという特性を持っており、また、その特性が低年齢から現れるものとして知られている。しかし、「発達障害」のある脳の機能は現時点ではまだしっかりと解明されていないし、障害の特性も一人ひとり異なる現れ方をしているので、とらえどころがない障害といわれることが多い。それでも、少しずつ発達障害の特性を前向きに受け止めて暮らす当事者や家族、発達障害の特性への配慮をごく自然に日常生活の中でできる人は着実に増えている。この契機になったのが「発達障害者支援法」である。本稿では、この発達障害者支援法を起点にして進められてきた発達障害者支援について紹介する。

発達障害者支援法が施行される前

かつて、発達障害は「親の育て方に原因がある」とされ、家族だけが責任を背負わされる時代があった。やがて、発達障害は脳機能の障害であるとの知見が広まるなか、次第にさまざまな立場の者が役割を分担しながら、発達障害のある者を支援するように変わってきている。

たとえば、昭和55年には知的障害児施設の種類として自閉症児施設(医療型、福祉型)が制度化され、全国に数か所の病院や福祉施設が専門的な対応を行い始めた。平成5年の強度行動障害者特別処遇事業の開始により、全国に対応できる福祉施設が広がり始めた。平成14年の自閉症・発達障害者支援センター運営事業の開始(平成14年)により、病院や福祉施設以外の相談機関が整備され始めた。

このような経過があって、できるだけ生涯の早い時期から早期発見、発達支援を行い、その後の保育、教育、労働などの分野においても支援を継続させていく必要性が高まり、超党派の議員立法により「発達障害者支援法」が制定された(平成16年12月成立、平成17年4月施行)。

発達障害者支援法

発達障害者支援法は25条からなる法で、全体は4つの章に分かれている。

第1章「総則」には、この法律の目的、発達障害の定義、国及び地方公共団体の責務、国民の責務が書かれている。特に、「発達障害」に関する「定義」については重要で、この後に改正されたり成立した具体的なサービスに結びつくための法律に発達障害が明記されることにつながっている。

第2章「児童の発達障害の早期発見及び発達障害の支援のための施策」には、児童の発達障害の早期発見等、早期の発達支援、保育、放課後児童健全育成事業の利用、就労の支援、地域での生活支援、権利擁護、発達障害者の家族への支援について書かれている。これらにより、ライフステージを通してさまざまな分野において関係者が当事者意識を持って発達障害に取り組む展開につながっている。

第3章「発達障害者支援センター等」には、発達障害者支援センターの設置と運営、専門的な医療機関の確保について書かれている。このことにより、専門的な支援や関係者同士の相互協力が、全国のどこでも提供される環境が整備されている。

第4章「補則」では、民間団体への支援、国民に対する普及及び啓発、医療又は保健の業務に従事する者に対する知識の普及及び啓発、専門的知識を有する人材の確保等、調査研究、大都市等の特例について書かれている。これは、第2章や第3章における取り組みが適切に行われるために必要となる社会全体の理解、支援に携わる者の人材育成、研究やモデル事業の実施などにつながっている。

発達障害者支援法が施行されてから

(制度上の位置づけの変化)

・障害者基本法(平成23年改正)をはじめ、障害者自立支援法(平成22年改正、現在の障害者総合支援法)、児童福祉法(平成22年改正)、障害者虐待防止法(平成24年施行)、障害者雇用促進法(平成25年施行分)、障害者差別解消法(平成28年施行)等における障害者の定義に含まれることが明記され、また、精神障害者保健福祉手帳、障害児福祉手当、国民年金・厚生年金保険等の申請用診断書様式や認定基準において、発達障害に関する項目が新たに追加された(平成23年改正)。これらの結果、発達障害が各種の支援やサービスの対象となるという位置づけが明確になっている。

(国の取り組み)

・普及及び啓発、情報発信の拠点として、発達障害情報・支援センター(平成19年に国立障害者リハビリテーションセンター内に設置)、発達障害教育情報センター(平成19年に独立行政法人国立特別支援教育総合研究所内に設置)を設置し、WEBサイトの開設やパンフレット作成(「災害時の発達障害児・者支援エッセンス」など)の活動を行なっている。また、都道府県等の自治体の福祉分野の担当者を対象にした発達障害者支援関係報告会を開催し、最新の研究やモデル地域の実践、国の施策の動きなどを紹介しているが、平成25年度からは文部科学省との共催により新たに教育分野の担当者も対象としている。

・専門的な人材育成は、福祉分野については国立障害者リハビリテーションセンター、保健や医療分野については独立行政法人国立精神・神経医療研究センター、教育分野については独立行政法人国立特別支援教育総合研究所において、都道府県の指導的な立場の者を対象に専門的な研修を行なっている。また、発達障害と関係の深い行動障害について、さまざまな福祉サービスの現場の職員が知識を持つことが重要であることから、強度行動障害者支援者研修の指導者養成を独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園において、都道府県の指導者向けに行なっている。

・調査研究については、学術的な厚生労働科学研究、民間団体等との協力による障害者総合福祉推進事業による調査、都道府県等の自治体による発達障害者支援開発事業を行い、その中で得られた知見を地域の支援体制において活用できるものとして紹介し、都道府県等が実施する場合に国が財政的な補助を行なっている(たとえば、M―CHATやPARS(広汎性発達障害日本自閉症協会評定尺度)等のアセスメントの普及、発達障害の育児経験者によるペアレント・メンターの活動についてはすでに実施。平成26年からは、親自身が発達障害の育児に自信を持つためのペアレント・トレーニングや当事者の適応力を高めるためのSSTの実施など)。

(都道府県の取り組み)

・発達障害者支援センターは全都道府県、指定都市(67自治体)に設置されており、平成24年度の実績では、年間に約6.5万人の相談/発達支援、就労支援を行なっている。近年は、19歳以上の当事者や家族からの相談が目立って増加しており、成人期の支援体制の整備が重要な課題となっている。

・平成24年度の実績では、都道府県等の関係者が集まり、市町村体制整備状況に関する調査をもとに対応を検討する委員会の開催(51自治体)、アセスメント・ツールの普及(20自治体)、ペアレント・メンターの養成などの家族支援(32自治体)を取り組んでいる。

(市町村の取り組み)

・平成24年度の実績では、市町村が発達障害等に関する知識を持った専門員を確保し、健診、つどいの広場、保育所・幼稚園・児童館等を巡回し、支援スタッフや家族に対し、発達障害の特性の気づきなどを支援する巡回支援専門員整備事業が全国113か所の市町村で実施されている。今後は、平成26年度から体制整備の中で明示するペアレント・トレーニングの普及により、発達障害児の育児のコツを身近な市町村で学べる体制の整備が進められる。

・市町村独自のさまざまな取り組みの工夫もされており、世界自閉症啓発デー・2014シンポジウムでは、3つの市町の首長から「やさしい街づくり」について紹介されている。

(参照 http://www.worldautismawarenessday.jp/htdocs/

支援体制の整備に関わる最近の知見から

(長期的な予後)

発達障害のある人が自分自身の特性を理解し、得意な分野を生かして学び暮らす道筋を見つけて安定した生活を送る場合も多い。しかし、その一方で、困難な状況に陥り、学校の対応だけでは改善しないことも時としてあり、福祉等が対応を引き継ぐこともある。以下は、現在把握されている知見の一部であり、教育と福祉等の双方が協力して取り組まなければならない課題である。

○良好な社会参加につながるポイント

発達障害児が成人期になった後の生活は、状態像によってさまざまだが、以前に比べると町の中にある会社に勤め、町の中にあるグループホームに住む人が増えている。もちろん家族と一緒に暮らす人や入所施設に住む人もいて、それぞれが自分に合った環境を選ぶというスタイルが少しずつではあるが定着してきている。どのような要因が良好な社会参加につながるのだろうか?

平成19~21年度厚生労働科学研究「ライフステージに応じた広汎性発達障害者に対する支援の在り方に関する研究」(主任研究者:神尾陽子)では、全国の自閉症スペクトラムの診断を受けている成人の養育者に対するアンケートの中で「現在の生活を、全体としてみたときに、職場や学校など家庭外で、どの程度うまく参加して暮らしていると思いますか?」と尋ねた結果(回答数405)をまとめている。その結果によると、「言語発達が良好でも、それだけでは充実した社会参加が保障されないこと」が明らかになった。一方、「早期介入、父親の育児協力、支援を継続することの重要性」が、良好な社会参加につながる要因であったとしている。

○学齢期に目立つこと

平成24年10月から施行された障害者虐待防止法により行われている都道府県、市町村の対応状況(平成24年10月1日~平成25年3月31日のデータを集計)が平成25年11月に公表された。市区町村に寄せられた通報のうち、実際に虐待事例であると判断された数は、養護者によるものが1,311件で被虐待者数は1,329人、障害福祉施設従事者によるものが80件で被虐待者数は178人あった。この被虐待者数のうち、行動障害がある者に対する虐待は、養護者によるものが26.9%、障害福祉施設従事者によるものが22.7%であったことから、行動障害の存在が、障害者虐待につながりやすい一つの要因であると考えられる。行動障害への対応が困難となる状況については、どのようなことが把握されているのだろうか?

平成24年度障害者総合福祉推進事業「強度行動障害の評価基準等に関する調査」(実施主体:全日本手をつなぐ育成会)では、知的障害者入所施設・通所施設を利用する強度行動障害者47人(16~31歳)の養護者に対して、行動障害の発生以降の経過や家族の支援ニーズについて聞き取り調査を行なった結果をまとめている。

その結果によると、行動障害が最も激しかった時期については、中学校および高等学校(あるいは特別支援学校中等部および高等部)に在籍している時期であり、卒業後に状態像が急激に改善していた。卒業後に行動障害が急激に減るのは何らかの年齢的要因なのか、学校環境の問題なのか、高等学校(特別支援学校高等部)の教育を受けない児童生徒との比較データがないため明らかではないが、卒業後に行動障害のある児童生徒を受け入れた福祉事業所の職員の印象によれば、早期からコミュニケーション訓練や余暇支援、薬物療法などの予防的アプローチを行うことで、強度行動障害の重篤化を予防できるのではないかとしている。

○学齢期には見逃されやすいこと

前述したように、全国の発達障害者支援センターにおいて、特に19歳以上の相談の増加が著しく目立っている。その多くは、療育や診断を受けておらず「自分には発達障害の特性があるのではないか」「家族の発達障害について相談したい」「職場の部下が発達障害ではないかと思うが、どのように指導したらよいか」といった内容である。19歳以上になって初めて相談に訪れる人たちは、どのような経過を過ごしてきたのだろうか?

平成19~21年度厚生労働科学研究「思春期のひきこもりをもたらす精神科疾患の実態把握と精神医学的治療・援助システムの構築に関する研究」(主任研究者:斎藤万比古)では、分担研究者の近藤が5か所の精神保健福祉センターの「ひきこもりケース」で、調査実施期間に本人が相談に来所した152件について診断を行なった結果をまとめている。

その結果によると、診断が確定できた125件(152件中の82.2%)のうち41件(125件中の33%)が知的障害や発達障害であることが明らかになった。さらに、これらの発達障害の診断がついた人は、18~20歳ごろをピークに「ひきこもり」が開始されるが、周囲への迷惑行為が少なく、教師など家族以外の関係者から相談・受診を勧められることが少ないために、それまで療育や特別支援教育などの支援を受けたことが少ない。しかし、ひきこもり状態の広汎性発達障害者の乳幼児期の発達歴では、PARSの「何でもないものをひどく怖がる」という項目に「はい」と答えるケースが、ひきこもりではない広汎性発達障害者に比べて、極めて多いという特徴に注目することで、ひきこもりの予防ができるのではないかと考えられている。

つまり、「何でもないものをひどく怖がる」背景にある、周囲から気づかれにくい感覚の過敏さや不器用さなど(神経発達の問題)をまず周囲や教師が理解し、感覚刺激に配慮された環境、何をしたらよいか分かりやすい指示、苦手さをどのように補えばよいかというアイデアなどを児童生徒に対して提供するとともに、発達障害のある人自身が感じている自己不全感や被害的な解釈を丁寧に取り上げ、少しずつ対処できるように支援していくことが、早期から(当然学校でも)重要なポイントであるとしている。

(相談機関の連携)

発達障害の相談はどのように行われているのか。家族や当事者が発達障害の特性が気になる段階から、障害に関する知識を日常的に使いこなせるようになる段階までを4段階に整理した研究報告があるので紹介する。

平成20~22年度厚生労働科学研究「青年期・成人期の発達障害に対する支援の現状把握と効果的なネットワーク支援についてのガイドライン作成に関する研究」(主任研究者:近藤直司)では、「診断以前」「診断後に障害者手帳の交付を受ける前」「障害者手帳の交付を受けた後」「障害者としての配慮を周囲に依頼した後」の4つに分け、関係機関同士の連携について整理している。

○診断以前:いわゆる身近な相談機関における相談。市町村の保健センター、子育て支援センター、保健所、児童相談所、福祉事務所、保育所、学校、教育委員会、ハローワーク、ジョブカフェ、地域若者サポートステーション、医療機関といった障害を必ずしも看板に掲げていない部門が該当する。関係者の連携は、発達障害であるという前提では行わない。

○診断後に障害者手帳の交付を受ける前:障害福祉サービスの申請に関しては(身体障害者以外は)障害者手帳の所持が必須の要件ではないため、さまざまな障害福祉サービスをこの段階から利用している。児童発達支援などの障害児通所支援事業所、発達障害者支援センターや相談支援事業所、障害者職業センター、医療機関等が該当する。関係者の連携は、発達障害であるという前提で行うようになる。

○障害者手帳の交付を受けた後:障害者雇用制度を利用して企業に障害者として就労することができるが、障害者であることを雇用する企業内で開示してない場合は、相談機関同士の連携は制限される。

○障害者としての配慮を周囲に依頼した後:ほとんどの障害福祉サービス機関と連携できる。

(情報の引き継ぎ)

さまざまな関係機関が情報を共有し、支援を引き継ぐための手段として「文書化されたもの」が活用される。「文書化されたもの」には、家族が中心になって活用するものと、教育や福祉等の機関が制度上作成することになっているものの2つがある。

○サービスを使う前:平成23年度障害者総合福祉推進事業「サポートブックの活用実態に関する調査」(実施主体:WEコラボ研究会)では、教育と福祉と保護者にまたがる情報共有の手段として、全国の自治体の多くが「サポートブック」に注目し、独自に工夫を始めていることを紹介している。また、「サポートブックは、本人に適切な支援を届けるとともに保護者をエンパワメントするためのツールであることを念頭に置き、基本的には保護者が保持、記入、活用するスタイルが良い」「サポートブックは、障害者自立支援協議会や要保護児童対策協議会など地域全体で活用に関する共通認識を持てるようにし、普段から教育と福祉、保護者の協議の場で活用するのが良い」との指摘もしている。

○サービスを使うようになってから:平成24年4月に、文部科学省の特別支援教育課と厚生労働省の障害福祉課の連名事務連絡「児童福祉法等の改正による教育と福祉の連携の一層の推進について」において、「放課後児童デイサービスの創設を踏まえて、放課後の過ごし方について教育と福祉と保護者が十分に協議すること」「保育所等訪問支援の創設により就学前の支援方法を引き継ぐために訪問支援員が小学校に訪問すること」「学校に通いながら障害児通所支援事業所等を利用する場合には、障害児通所支援事業所の児童発達支援管理責任者と教員の双方の作成する計画が相乗的な効果をあげられるように努める」ことが示されている。

おわりに

本稿では、発達障害者支援法によって制度的に整備されてきたこと、調査研究等によって見えてきたことを紹介した。発達障害がある人の生活上の困難さについてさらに社会全体に理解が広まり、適切な対応がどこでも提供できるようになるためには、引き続き、このような取り組みを続けていかなければならないと考えている。

(ひづめまさふみ 厚生労働省障害保健福祉部障害福祉課発達障害対策専門官)