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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年4月号

1000字提言

患者たちよ、声を上げよう!

篠原三恵子

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群に対する社会の認知度は非常に低く、家族や周囲の理解を得られず、時には“詐病”とみなされ差別的な処遇を受けてきた。私たちの会は、この病気の実態を描いたアメリカのドキュメンタリー映画を翻訳し、2009年に初めて試写会を開催したのがきっかけで発足した。

それまで病名を隠して生活していた私は、友人や知人を前に自分の病気について語ることに強い恐怖を抱いたのを、今でもはっきり覚えている。それまで無数の医師や行政の方から、人格を破壊するような言葉を常に投げつけられていたからだ。寝たきりに近くなっても、専門医と呼ばれる医師から「考え方を変えれば座れるようになる」と、延々と診察室でお説教されたこともある。東北から駆けつけた若い女性の患者さんは、「人前でこの病気について話すことができる日が来るとは思っていなかった」と言って涙を流した。この涙の重さを、理解していただけるだろうか。

筋痛性脳脊髄炎の患者の4人に1人は、寝たきりに近いか、ほとんど家から出ることのできない重症患者であると推定されているにもかかわらず、障害者手帳を取得できる方は極めて稀(まれ)で、障害者総合支援法の対象からも除外されている。生きていくため、社会参加するために必要な車いすやホームヘルプも利用できず、必要な医療を受ける権利、教育を受ける権利、選挙権を行使する権利、働く権利などを保障されずに、患者たちは社会から孤立させられ、その声は今まで闇に葬られてきた。

2011年に障害者基本法が改正され、障害者に慢性疾患に伴う機能障害が含まれることになった。そして日本でも、ついに障害者権利条約が批准された。障害者手帳を取得している障害者だけが対象ではなく、難治性疾患によって日常生活または社会生活に相当な制限を受けている者も、他の人と平等に社会参加するための合理的配慮を受ける権利が認められたのだ。

障害者権利条約は、障害者を優遇したり、障害者に新しい権利を付与するものではない。憲法や人権条約で保障されている権利を、障害者にも同じように保障するためのものだ。

日本ではこの病気に対する正しい情報が普及していないため、患者たちは偏見と無理解と闘いながら、耐え難い苦痛と日々対峙しながらやっとの思いで生きている。しかしこれからは、ニーズに応じた合理的配慮を受けつつ、他の人と平等に希望を持って生きていけるよう、社会の成熟を促していかなければならない。

患者たちよ、今こそ声を上げようではないか!長年の差別と抑圧から解放される時が来たのだから。


【プロフィール】

しのはらみえこ。1990年に発症。2010年に「慢性疲労症候群をともに考える会」を発足させ、2012年よりNPO法人「筋痛性脳脊髄炎の会」理事長。