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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年4月号

1000字提言

「生命(いのち)のことづけ」
~障害者と3・11

大和田新

「東日本・津波・原発事故大震災」で被災した障害者の記録映画「生命(いのち)のことづけ」が完成し各地で上映されている。副題は「死亡率2倍・障害のある人たちの3・11」。この映画は、障害者の死亡率が一般住民の2倍以上であるとの事実を踏まえ、被災した障害者や、関係者の証言を元に製作されている。監督は耳が不自由な早瀨憲太郎さん(40)。「あと少しの支援があれば」と悔やむ。この映画のプロデューサーを務めた、友人のNPO法人障害者放送統一機構の梅田ひろ子さんからの依頼で私がナレーションを担当した。

冒頭は、宮城県気仙沼市鹿折(ししおり)の永沼千尋(ちひろ)くん(小学校2年生)の笑顔の写真。鹿折地区は津波と火災に襲われた。千尋くんは、いつも目の見えない両親を気遣う優しい子だった。その日千尋くんは、陸前高田市から遊びに来ていた、大好きなおばあちゃんとお母さんの手を引きながら、逃げ惑ううちに津波にのまれたとされている。

津波や火災からようやく逃れた障害者を待ち受けていたのは、さらに過酷な日々だった。避難所で心ない言葉を浴びせられた人、「迷惑をかけるから」と避難所に行かず車の中で2週間過ごした人もいた。「精神障害者はなかなか世間からの理解が得られていない。罵声を浴びせられたり、中には蹴られた人もいた」と宮城県精神障がい者連合会会長の笠神勝男さんは悔しそうに語る。

福島県いわき市久之浜の佐藤真亮(まさあき)さん(35)は、全身の筋肉が萎縮する筋ジストロフィー症のため、人工呼吸器と車椅子を使い生活していた。24時間介護が必要な状況だったが、ヘルパー不在の時に津波にのまれた。佐藤さんの最後の言葉が画面に映し出された。「もう、おわりにしましょう」。

進行役として出演しているのは目と耳が不自由な早坂洋子さん(31)。早坂さんの視力は0.04。新聞の見出しくらいは何とか見える。耳は話し声を音として認識するが、言葉としては聞き取れない。筆談か簡単な手話でコミュニケーションを取っている。

3・11、早坂さんは仙台駅で被災した。通訳介助者と一緒だったため、安全な場所に誘導してもらい、6キロの道のりを介助者と2時間歩いて帰宅した。自宅は半壊していた。映画の中で早坂さんは訴える。「今回の災害で明らかになった障害者を取り巻く問題は以前から指摘されていた。日頃からの様々(さまざま)なつながりがあれば、救えた命もあったはず。私は障害があるからといって、決して命を諦めたくない」と。

「生命(いのち)のことづけ」は音声解説と手話、字幕付き。会議の合間に見られるように時間は37分に押さえた。この映画のブルーレイディスクは自主上映会用に上映権付で1万円で販売中。問い合わせ先は、日本障害フォーラム03(5292)7628。


【プロフィール】

おおわだあらた。1955年生まれ。ラジオ福島アナウンサー。学生時代、朗読ボランティアに参加したのをきっかけに現在も障害者との交流を持っている。編成局長を経て2012年4月からは役員待遇編成局専任局長。