「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年4月号
ワールドナウ
JICAボランティア事業における“障害と開発”分野の傾向
土橋喜人・荒柾文・渡邊雅行
1 背景
独立行政法人国際協力機構(JICA)では、ボランティア事業を実施している。概要は、以下のとおり。
「JICAボランティア事業(以下、当該事業)は日本政府のODA予算により、独立行政法人国際協力機構(JICA)が実施する事業です。開発途上国からの要請(ニーズ)に基づき、それに見合った技術・知識・経験を持ち、「開発途上国の人々のために生かしたい」と望む方を募集し、選考を経て派遣します。」(JICAのHPより)
当該事業では、開発途上国の障害者の支援を行う活動である“障害と開発”の分野でも、多くのボランティアが派遣されてきている。
2 JICAボランティア事業の実績について
この“障害と開発”分野の当該事業の実態について、これまでは内閣府発行の「障害者白書」等で、「リハビリテーション関連7職種(以下、リハ7職種)」(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、ソーシャルワーカー、鍼灸マッサージ師、福祉用具(旧義肢装具・製作)、障害児・者支援(旧養護))の数字を持って、当該事業の障害と開発に関する貢献について示してきていた。
その実態について、リハ7職種およびリハ7職種以外の職種についての分析を行なった。その結果については、2013年秋に開催された国際開発学会において、土橋・渡邊・荒報告「JICAボランティア事業における“障害と開発”のメインストリーミング」(発表は土橋)を行なった。その手法とは、過去5年間(10期)にわたるJICAデータベースを用いて「障害」に関連する用語(26語)を含むボランティア派遣要請件数と関連職種等を分析するものであった。
3 研究成果
1.10%を占めている
当該事業に関する過去の派遣実績について、過去10回の実績1)(要請数15,437件、二次合格者数6,647人)を調べた。
このうち、障害と開発に関する要請数を調べたところ、図1のとおりとなった。要請に占める割合は、過去10回の平均で、全障害と開発職種で約10.1%であった。そのうち、リハ7職種が6.6%、その他障害と開発職種が3.5%を占めていた。これは、この分野でのニーズが高いことを示している。
図1 全要請数に占める全障害と開発職種の割合(%)
(拡大図・テキスト)
それらのリハ7職種とその他の職種との比較については、若干の変動はあるものの、平均すると、要請段階で65:35、二次合格段階で70:30となっており、ほぼ変わっていない。
まとめると、当該事業の約10%のボランティアが障害と開発に関係する要請で派遣されており、そのうち約3分の1がリハ7職種以外の職種による要請で派遣されていることになる。
2.リハ7職種以外の職種の多様さ
前述の傾向があるが、その中で、どのような職種が多く派遣されているのか、分析を行なった。10期(10募集期)分をまとめた数字での比較を行なった。
まず、要請数については、リハ7職種以外では、5位の青少年活動、6位のPCインストラクター、7位の体育2)、が目立つ。これらの職種においては、それぞれの専門性があれば、対応できるものとなっている。健常者向けと障害者向けの職種の分割までは行なっていないため、必要かつ可能な場合には何らかの技術・専門的な支援(後述)をボランティアに施し、活動を潤滑に行えるような支援を行なっている。
表1 要請数:障害と開発上位20職種(2008-2012)
1 | 300 | 養護 |
2 | 207 | 理学療法士 |
3 | 179 | 作業療法士 |
4 | 114 | ソーシャルワーカー |
5 | 81 | 青少年活動 |
6 | 77 | PCインストラクター |
7 | 36 | 体育 |
8 | 31 | 障害児・者支援 |
9 | 31 | 村落開発普及員 |
10 | 31 | 手工芸 |
11 | 24 | 言語聴覚士 |
12 | 22 | 服飾 |
13 | 16 | 義肢装具・製作 |
14 | 15 | 鍼灸マッサージ師 |
15 | 12 | プログラムオフィサー |
16 | 11 | 野菜栽培 |
17 | 11 | 小学校教諭 |
18 | 10 | 木工 |
19 | 10 | 看護師 |
20 | 9 | 音楽 |
3.技術補完研修によるサポート
当該事業では、派遣資格を満たす技量を持ち合わせているものの、その技術を補完する研修が必要とされた場合に、技術補完研修を行うことがある。
「研修の有無は職種によって異なり、期間も数日から6ヶ月間になります。88%の方がこの技術補完研修を受けたことで不安が軽減されたと答えています。」(JICAのHPより)
リハ7職種とその他障害と開発職種で調べたところ、前者の実施率は3%程度であったが、その他障害と開発職種では53%であった。その他障害と開発職種においては、その内容については、障害者施設での研修を行うことが多く、障害者に接したことがなくてもサポートする体制があることを示す。
実際に技術補完研修を受けた障害と開発の関係職種の受講生の報告書からの分析では、リハ7職種以外の職種では、気付きが多く、現地での不安が軽減したという感想がほとんどである。それまで障害者と触れ合う機会が少ない受講者が多く、障害者との接触の機会を設ける意味でも、これらの技術補完研修の成果は十分にあるといえる。
4 JICAボランティア事業に参加する方法:障害と開発の要請の探し方
実際に、障害と開発分野に関するボランティアに参加するにはどうすればよいのかについて説明する。
リハ7職種については、従来どおり、各専門資格を取得して応募する必要がある。概要については、以下のサイトにてご確認いただきたい。平成24年春募集から、140字程度で各職種についての説明を公表している。
JICA→JICAボランティア→青年海外協力隊/シニア海外ボランティア→職種・要請を見る→職種の説明
http://www.jica.go.jp/volunteer/application/seinen/job_info/description/
また、その他障害と開発職種については、左上の図にある「要請情報検索」のサイトから、「フリーワード」検索の機能を使って、要請を検索することができる。募集形態(青年海外協力隊、シニア海外ボランティア、日系青年ボランティア、日系シニア・ボランティア)によって、サイトが異なるのでご注意いただきたい。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で左上の図はウェブには掲載しておりません。
前述の研究分析原データでは、最もヒットしたキーワードは以下のとおり。ただし、個別要請によって内容が異なることにご留意いただきたい。
頻度の高いキーワード(上位15位):障害、障がい、知的、聴覚、身体、CBR、特別支援、視覚、自閉症、不自由、精神、装具、ろう、盲、インクルーシブ。
個別の要請が特定できたら、要望調査票の「配属先の規模・事業内容」「要請理由・背景」「予定されている活動内容」を確認して、ご自身の専門性に合ったものであるかどうかを判断して、応募をご検討いただきたい。
5 まとめ
前述のとおり、今回の研究分析の結果、当該事業における障害と開発分野の要請の割合は約10%を占めることがわかった。そして、要請されている職種もリハ7職種以外のものも、障害と開発分野の要請の3分の1を占めており多様である。そして、それらのリハ7職種以外の要請に派遣されるボランティアのための技術補完研修も一定程度、充実している。
今後、この分野についての派遣は引き続き、一定の割合を占めていくものと期待される。当該事業は、JICAの「国民等の協力活動の促進」の事業のひとつであることから、読者の皆様にもぜひ、ご自身の経験・知識・技術を活かして、ご参加をご検討いただければ幸いである。
(本稿は国際開発学会第24回全国大会で発表した「JICAボランティア事業における“障害と開発”のメインストリーミング」(土橋喜人、渡邊雅行、荒柾文)で発表された研究成果をベースに、書き直したものである。記載されている意見は、筆者の見解に基づくものであり、組織としての見解を示すものではない。)
(どばしよしと/JICA農村開発部計画調整課主任調査役(社会保障ナレッジマネジメントネットワークメンバー)、あらまさふみ/JICA青年海外協力隊事務局技術顧問,わたなべまさゆき/JICA青年海外協力隊事務局技術顧問)
【注釈】
1)過去5年間(2008年春~2012年秋の10回の募集期)のデータ(青年海外協力隊、シニア海外ボランティア、日系社会青年ボランティア、日系社会シニア・ボランティア)を対象とした。なお、二次合格後に辞退等もあるため、派遣数とは必ずしも合致しない。
2)2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まったことから、今後、同職種群への強化(健常者および障害者の競技用スポーツ)が想定される。