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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年5月号

視覚障害者とスマートフォン

荒川明宏

視覚障害者は情報障害者です。その情報を補うために広く活用されているのがパソコンでしょう。当然、パソコンを使える人は情報量が多くなり、生活の質を向上させることができるでしょう。

そこに新たに登場したのが「スマートフォン」ではないでしょうか。「スマートフォン」は、携帯電話が多機能になったという考え方もありますが、逆にパソコンが手のひらに乗るようになり、電話もかけられるようになったという考え方もできます。

情報障害者と言われる視覚障害者は、より身近な所で情報を取得できるようになることが、「情報障害」を少しでも改善できるようになるのではないでしょうか。

このように考えると、パソコンが小さくなったと言える「スマートフォン」は、まさに視覚障害者にとってとても重要な情報機器と言えるのではないでしょうか。

現在、視覚障害者が利用可能なスマートフォンはiPhoneをはじめ、らくらくスマートフォン、そして、通常のandroid4.2以上のOSを登載しているスマートフォンです。つまり、国内で出荷されているほとんどのスマートフォンを視覚障害者は利用可能と言えます。今までは「音声に対応したものがない」といったハード面の問題があったわけですが、その問題はなくなり、ハード面から見ても「ユニバーサル」になったと言えるのではないでしょうか。

それでは、視覚障害者がスマートフォンが使えるとどのような恩恵を得られるのでしょう。私が使用して、便利だと思ったことをいくつか紹介します。

ホテルで財布を落とし、お札をばらまいてしまいました。が、お札認識アプリを起動して、千円札、五千円札などを識別し、あまり時間をかけずに正しい順番に戻すことができました。エアコンの状態が分からなくなった時、ラインのビデオ通話を使い、ボタンとモードを確認してもらい、自分の好きな設定に戻すことができました。

ビジネス書関係はあまり朗読されていません。そこでkindleストアで本を購入し、音声で聞くことができました。近所のお店を読み上げさせる機能を利用して歩くことにより、どのようなお店があるかを知ることができ、次に出かける時の参考になりました。

これは余計なことですが、好きな野球中継をどこでも聞くことができてとても便利です。まだまだあげればいろいろな使い方があるでしょう。一部で可能になっていますが、エアコンの温度調整やテレビの録画など、これからさまざまな便利な機能が現れると思います。いずれ銀行のATMの前に立ち、自分のスマートフォンでのみ操作をするとお金が引き出せたりする、なんていう時代が来るかもしれません。

このようなスマートフォンですが、視覚障害者が触ってすぐに使えるといったものではありません。視覚障害者には点字が必要だからと言って、点字盤と点筆を視覚障害者に与えただけでは、点字の読み書きができるようにならないのと同じことが言えるでしょう。

私は福岡や秋田、札幌などでスマートフォンの講習会をしてほしいと講師の依頼を受け、行いました。その時の講習内容は1.スマートフォンには本当にボタンがないことを知ってもらう。2.スマートフォンを使えるようになるとどのようなことができるのか私が実演する。3.実際に触ってもらい、電話をかけるまねごとと、簡単な文字入力をしてもらう。といった内容で行いました。短時間の講習では「使えるようになること」を目的にすることは残念ながらできません。そこで、使えるようになったら自分なら何をしてみようかという「夢」を持ってもらうこと、そして、簡単な数字入力などで「慣れれば使えるかも」とちょっとした希望を持ってもらうことを大切にしています。自分で「やりたい」と思うことが、まずは上達の近道だからです。

そして、「習うより慣れよ」という言葉のとおり、どんなに学習を積んでも、決して使えるようにはなりません。講習会では必ず「購入したら1週間は後悔をしますよ。ただそれから先は、少しずつ使えるようになるでしょう」と話しています。そして、1か月に一度ショップに行き、触らせてもらい、2、3か月後に購入してはどうでしょうかとアドバイスしています。それでも気の早い人はいるもので、何人かの人は帰り道に機種変更を行い、私の所に連絡してきます。

会社では、実際にスマートフォンの個人レッスンや体験会を行なっています。それらを教えて行く中で感じたことを紹介したいと思います。

私も言われたことですが、見えない人は当然、スマホの画面を見ません。耳で聞くようになります。そうすると、スマホを耳に近づけるように持ってしまい、まっすぐには持っていません。左から右へのフリックは、左斜め上から→斜め下へのフリックになってしまいます。当然、本人は気づきません。それと同じように、電話のキーパッド画面で1の右は2、3となりますが、斜めに指を動かすため、1、5、9のように触ってしまいます。初めて表示させる画面は左から右へ、そして、次の段の左から右へと満遍なく画面を触り、画面構造を理解してもらうようにします。しかし、この満遍なく触るということが難しく、画面の左を触らないために目的の物が探せないといったことが起きています。

スマートフォンはパソコンと違い、覚えることはほとんどありません。大切なのは順番に画面を触り、目的のアイコンをダブルタップするだけです。この要領を視覚障害者がマスターできると、今後、世の中に登場するタッチパネルの専用機のユニバーサルに大きく貢献するのではないでしょうか。

(あらかわあきひろ 株式会社ラビット代表取締役)