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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年5月号

フォーラム2014

日本障害フォーラム(JDF)
障害者権利条約批准記念特別フォーラム

原田潔

はじめに

2014年3月10日、衆議院第一議員会館多目的ホール(東京都千代田区)で、日本障害フォーラム(JDF)障害者権利条約批准記念特別フォーラムを開催した。

JDFは2004年の設立以来、障害者権利条約の推進に取り組んでおり、国連本部での権利条約特別委員会への参加、日本政府との意見交換、障害者制度改革への対応などを民間の立場から行なってきたが、これらの活動は一貫して、2005年に超党派で設立された「国連障害者の権利条約推進議員連盟」との連携の下に行なってきた経緯がある。今回の記念すべき特別フォーラムも、同議員連盟と共催させていただくことなったが、このことは「私たち抜きに私たちのことを決めてはならない Nothing about us without us」という権利条約の精神からも特筆すべきである。

またJDFは、2011年の東日本大震災の発生以降、被災障害者総合支援本部を設置するとともに、被災三県に被災地支援センターを開設し、被災障害者の支援と関係各方面への提言などを行なっている。これまで折に触れ、議員会館で活動報告会を開催してきたが、このたびのフォーラムは、第四次の報告会にも当たる。

2014年、JDFは設立から10年を迎える。この節目の年が、奇しくも権利条約批准元年となった。この条約を日々の暮らしに活かしていくため、今後ともより一層の取り組みが求められるが、今回のフォーラムは、このことを参加者一同で再確認することを一つの目的とした。

なお、東京でのフォーラムの開催と前後し、北海道(3月8日)、熊本(同16日)、富山(同29日)でも、批准記念フォーラムが、各地域組織とJDFとの共催で開かれた。

また本フォーラムは、これまでのJDFの権利条約を推進する活動と同様、キリン福祉財団、損保ジャパン記念財団、ヤマト福祉財団のご支援により開催されたことを、感謝とともに申し述べたい。

【第一部】

以下、特別フォーラムの開催内容を、プログラムごとに振り返ってみたい。

第一部は、午後1時から1時30分まで、批准記念セレモニーの位置づけで、国連障害者の権利条約推進議員連盟総会として開催した。同議員連盟は前述のとおり2005年の設立以来、条約交渉の過程と採択・発効、国内での制度改革など主要な機会に総会を開催し、条約推進の原動力となってきた。

まず議連会長である高村正彦衆議院議員、嵐谷安雄JDF代表、議連顧問である横路孝弘衆議院議員の挨拶のあと、出席した議連役員らの紹介があった。会長等の挨拶では、日本が国内法を整備してから批准を行なった経緯について、「仏を作ってから魂を入れるのではなく、魂が入ってから仏を作った」という例えを用いながら紹介するとともに、批准で終わりではなく、条約の精神と当事者の声を法制度の中に入れていく重要な段階に入ったので、これからもご一緒に頑張っていきたいとの意向が表明された。

次に特別ゲストとして、ベルギーの国会議員でろう者のヘルガー・スティーブンス氏より挨拶があり、条約の意義と、とりわけ手話・言語に関わる権利について触れながら、条約の実施に向けてこれからの活動が大切であるとの発言があった。

そのあと、外務省の新美潤・総合外交政策局審議官・国連担当大使、ならびに内閣府の岩淵豊・大臣官房少子化・青少年対策審議官より、国の取り組み等についての報告があった。

【第二部】

第二部は、午後1時45分から3時まで、「批准への期待と課題」をテーマにパネルディスカッションを行なった。第一部の議連総会に対し、第二部のパネリストは障害者団体を中心に構成し、民間の立場から今後の取り組みを協議する内容とした。パネリストは、森祐司・JDF政策委員長/日本身体障害者団体連合会常務理事、久松三二・JDF幹事会副議長/全日本ろうあ連盟事務局長、藤堂栄子・日本発達障害ネットワーク副理事長、三宅祐子・福祉新聞編集部次長で、コーディネーターは、藤井克徳・JDF幹事会議長が務めた。

各パネリストからは、それぞれ条約批准の評価、課題、期待、そして社会に広めていくための方策などについて発言があった。

森氏からは、JDF設立以降の条約に関わる取り組みについて、特に2009年に法整備のないまま批准されようとした国の動きに待ったをかけた経緯などを含めて振り返るともに、今後は障害分野だけでなく、社会全体を巻き込んだ大きな動きを作っていかなければならないという視点が述べられた。

久松氏からは、「アクセシビリティ」の考え方について特に言及があり、各地の手話言語条例の動きも例示しながら、言語とコミュニケーション手段の選択の権利はいわゆる「福祉サービス」の増進だけでは保障されないという視点や、障害を環境との関わりの中に捉える社会モデルの考え方が重要であることなどが述べられた。

藤堂氏からは、社会の認知がまだ及ばず、制度の谷間にあると言える発達障害にもスポットライトを当てる権利条約への期待が述べられるとともに、今後は条約を通じてさまざまな障害者のことを多くの人に知っていただき、誰もが当たり前に生きていける社会を目指したいと述べられた。

三宅氏からは、マスコミの立場から、これまで障害当事者の目線に立って条約のことを伝え記録としてきたことや、特に関心の高い読者層を通じて条約を広めていきたいと願っていることが述べられるとともに、また障害当事者には、条約についてより多く社会で取り上げるよう、さらに声を挙げてほしいとの意見が述べられた。

まとめとして、藤井氏からは、多くの議員の間でもぜひこの条約の認識を広めてほしいとの発言のあと、「締約の 前と後との暮らしぶり 転機にせねば 1月20日」という自作の句が紹介され、今後への決意表明とした。

【第三部】

第三部は、「東日本大震災から3年、いま求められるインクルーシブな復興」をテーマに、JDF被災障害者総合支援本部第四次報告会を兼ねて開催した。

JDFでは前述のように、被災地での支援活動と並行し、これまで十一次にわたる国への要望を含め、各方面への提言を行なっている。特に、東日本大震災では、障害者の死亡率が住民全体の2倍であったとの報告を踏まえ、権利条約を指標としたインクルーシブな社会への復興は一貫して提起しているところである。

まず、日原洋文・内閣府政策統括官(防災担当)、ならびに松岡由季・国連国際防災戦略事務局(UNISDR)駐日事務所代表(代読)より来賓挨拶をいただいた。災害対策基本法の改正、10月13日の国際防災の日(2013年は障害をテーマに実施)、2015年3月に仙台で開催される国連防災世界会議などに触れながら、障害者などすべての人を含む防災の重要性がそれぞれ述べられた。特に松岡代表の代読メッセージでは、本誌2014年4月号でも掲載された、昨年の国際防災の日に行われた世界の障害者と支援者へのアンケート調査が言及された。

次に、JDF、日本財団、CS障害者放送統一機構が共同制作したドキュメンタリー映画「生命のことづけ 死亡率2倍 障害のある人たちの3.11」のダイジェスト映像が紹介されたあと、リレートークが行われた。

リレートークでは、まず被災地自治体より、3月11日を控えご多忙な中、岩手県陸前高田市企画部まちづくり戦略室の佐々木敦美主査、宮城県南三陸町保健福祉課の佐藤正文補佐から発言いただいた。

佐々木氏からは、震災と津波の被害を映像で振り返ったあと、「ノーマライゼーションという言葉のいらないまちづくり」をテーマに進めている復興の取り組みについて、JDFの支援活動との関わりも交えてお話しいただいた。東京オリンピック・パラリンピックに向けて国が大きく動いているが、被災地の復興が置き去りにされることなく、2020年には世界に誇れる日本の姿を見せたいとの言葉が印象的であった。

佐藤氏からは、町の沿革、震災での被害状況、その後の支援と復興の取り組みなどが紹介され、障害者支援に関しては、JDFを含む支援団体による意見交換会が自立支援協議会に引き継がれ、取り組みが続けられていることなどが述べられた。課題はなお山積しているが、町長以下、早期の復興を信じ、一歩一歩進んでいるので、引き続き支援を願うとの言葉があった。

次に、関係団体からの発言があった。今回は、JDFの3つの支援センターのほか、障害関係団体にとどまらず、日ごろからJDFが連携させていただいている幅広い団体から発言いただいた。

以下に発言者を記すと、日本財団国際協力グループ長の石井靖乃氏、難民を助ける会東北事務所長の加藤亜希子氏、ジョイセフ企画・マーケティング課長の宮原敬子氏、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン東日本大震災復興支援事業部副部長の宮原敬子氏、JDFみやぎ支援センターの株木孝尚氏、JDF被災地障がい者支援センターふくしまの白石清春氏・橋本紘二氏、JDF被災障がい者支援いわて本部の藤井公博氏、同いわて支援センターの栗田誠氏、障がい者自立センターかまいし理事長の山田昭義氏である。誌面の都合でそれぞれの発言を詳述することはできないが、特に避難所では妊婦の姿が見当たらなかったとの発言や、子どもを防災支援の客体ではなく主体者として位置づけるべきだとの発言は、障害者とも共通する事柄であり、今後とも誰もが安心して暮らせるインクルーシブな防災と復興を実現するため、さらに連携していく必要を感じた。

最後に、第二部から引き続きコーディネーター役を務めた藤井氏より、防災・復旧・復興、そして社会の新生といったすべてのステージに障害当事者が参画することの大切さと、障害者権利条約が、社会のありようを考えるうえでの基礎となるべきだとの見解が述べられ、フォーラムが閉会した。

(はらだきよし 日本障害者リハビリテーション協会企画課、JDF事務局)