音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年5月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

第2回信託セミナー開催

寺島彰

2014年3月7日(金)、公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会主催の第2回信託セミナーが開催されました。セミナーのプログラムは表1のとおりです。このセミナーは、昨年9月27日に開催された、第1回信託セミナーに引き続いて行われました。

表1 第2回信託セミナープログラム

15:00-15:05 開会挨拶
15:05-15:50 「障害をお持ちの方を支援する信託」
一般社団法人信託協会審議役板倉敏先生
「特定贈与信託と後見制度信託の業務の実際」
三菱UFJ信託銀行調査役櫨原大輔先生
15:50-16:00 質疑応答

第1回信託セミナーは、会場が満席になるほどの盛況で、セミナー終了後のアンケートにおいても評価は高かったのですが、信託できる財産はどのくらいからか、利用するのにどのくらい費用がかかるのか、といった具体的な話を聞きたいという要望が多く出されましたので、第2回セミナーでは、実際に、信託業務にあたっておられる三菱UFJ信託銀行からも講師に来ていただきました。今回のセミナーも30人定員を超えてキャンセル待ちが出る状態でした。

本稿では、そのセミナーでお話いただいた内容をご紹介します。

信託制度は、「委託者が信託行為(契約、遺言等)によってその信頼できる人(受託者)に対して金銭や土地などの財産を移転し、受託者は委託者が設定した信託目的に従って受益者のためにその財産(信託財産)の管理・処分などをする」制度です。

たとえば、知的障害のある人の両親や祖父母などの親族が、その人の将来の生活のために自分たちの死後もその人が生活費を受け取れるようにと考えて金銭を信託銀行に信託したとすると、信託銀行は親族の希望するように、その人に対して、銀行口座に3か月に1回ずつ生活費を振り込んでくれるというような制度です。

この場合、重要なことは、信託銀行(受託者)は、信託法により善良な管理者の注意をもって(善管注意義務)、忠実に信託財産を管理しなければならず、また、信託財産に属する財産と、受託者個人の財産や他の信託財産とは分けて管理しなければならないとされていますので、安全確実に財産を贈与することができるということです。

障害者に関連のある信託制度には、特定贈与信託と後見制度支援信託があります。

[特定贈与信託]

特定贈与信託は、昭和50年の相続税法改正により創設された重度の心身障害者(特別障害者)に対する贈与税の非課税措置を活用するために制度化されました。平成25年の相続税法改正では、中軽度の知的障害者と精神障害者(特別障害者以外の特定障害者)も対象に加えられました。対象となる障害者全体を特定障害者と呼びます。

特定障害者の親族等の個人(委託者)が金銭等の財産を信託銀行等に信託します。信託銀行等は、信託された財産を管理・運用・処分し、特定障害者(受益者)に生活費や医療費として金銭を定期的に交付します。原理的には金銭を交付すれば信託財産は減っていくということになります。

三菱UFJ信託銀行では、交付の回数は、年1回、2回、4回のうちからどれかを選択することになっているとのことです。

通常、親等の委託者が子どもに財産を贈与すると贈与税がかかりますが、この信託を利用すると、特別障害者の場合は6,000万円まで、特別障害者以外の特定障害者は3,000万円まで非課税になります。

特別障害者とは、表2のとおりです。特別障害者以外の特定障害者とは、表3のとおりです。

表2 特別障害者の範囲

1.精神上の障がいにより事理を弁識する能力を欠く常況にある者または児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センターもしくは精神保健指定医の判定により重度の知的障がい者とされた者

2.精神障害者保健福祉手帳に障害等級が1級である者として記載されている者

3.1級または2級の身体障害者手帳保有者

4.特別項症から第3項症までの戦傷病者手帳所有者

5.原子爆弾被爆者として厚生労働大臣の認定を受けている者

6.常に就床を要し、複雑な介護を要する者のうち、精神または身体の障がいの程度が上記1または3に準ずるものとして市町村長等の認定を受けている者

7.精神または身体に障がいのある年齢65歳以上の者で、その障がいの程度が上記1または3に準ずる者として市町村長等の認定を受けている者

表3 特別障害者以外の特定障害者

1.児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センターまたは精神保健指定医の判定により中軽度の知的障がい者とされた者

2.精神障害者保健福祉手帳に、障害等級が2級または3級である者として記載されている精神障害者

3.精神または身体に障がいのある年齢65歳以上の者で、その障がいの程度が上記1に準ずる者として市町村長等の認定を受けている者

特定贈与信託の信託期間は、受益者である特定障害者の死亡の日に終了します。また、信託終了時の残余財産は、その相続人または受遺者に交付されます。信託する際に、ボランティア・障害者団体や社会福祉施設等を指定しておくと、残余財産を寄付して他の障害者のために活用することもできます。

特定贈与信託の信託財産の運用は、後見制度支援信託とは異なりますが、三菱UFJ信託銀行では、この信託の性格から、安定的な運用を行なっているとのことです。

[後見制度支援信託]

後見制度支援信託は、近年の認知症者の増加等から注目されている後見制度を支援するための信託です。特別な法律に基づく制度ではありませんが、後見制度による支援を受けている被後見人(本人)の財産管理のために信託を活用するものです。

後見制度支援信託の大きな特徴は、家庭裁判所が必要と判断した場合に発行する指示書に基づき、後見人が受託者との間で信託契約を締結することです。受託者である信託銀行等は、被後見人の金銭について信託を受け、後見人が手元で管理する預貯金口座に一定額の送金を定期的に行うなどを行います。

この制度を利用できるのは、法定成年後見制度および未成年後見制度の被後見人で、法定成年後見制度の被保佐人・被補助人や任意後見制度の本人は、利用できません。また、信託できる財産は金銭のみとなっています。

後見制度支援信託を利用すると、後見人が管理する預貯金口座を除き、金銭は信託銀行等が管理しますので、本人以外の第三者が勝手に預金を引き出したりするなどはできません。

信託財産の運用は、元本補てん付の指定金銭信託で安定的に運用されます。また、預金保険制度の対象にもなっています。

信託期間は、本人が死亡するまでです。残余財産は相続人に相続されます。

信託報酬がどのくらいかということについては、信託銀行等により異なるとのことですが、三菱UFJ信託銀行は、管理報酬は無料です。

また、信託金額は、三菱UFJ信託銀行では1,000万円以上1円単位となっているとのことです。

(てらしまあきら 浦和大学教授、日本障害者リハビリテーション協会参与)