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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年6月号

さっぽろ地域づくりネットワーク
ワン・オールの取り組み

大久保薫

はじめに

「さっぽろ地域づくりネットワーク ワン・オール」は、平成25年7月に札幌市が設置した『基幹相談支援センター』(障害者総合支援法第77条の2)である。この『基幹相談支援センター』は新しく提起された事業であり、先進的な取り組みがある一方、全国ではその位置づけや活動内容等模索中である。私たちもまた、走りながら考えているのが実態である(*1)

札幌市の障がい者相談支援事業

人口194万人の札幌市には、市から委託された障がい者相談支援事業所が18か所存在する。当初は障がい別(知的障がい、身体障がい、精神障がい)に設置されていたが、相談支援事業の一般財源化、支援費制度、障害者自立支援法の成立等を背景にしながら、バラバラだった相談支援事業が「札幌市障がい者相談支援事業」として一本化されていった。この過程で力を発揮したのは、平成18年に設置された札幌市自立支援協議会であった。ワン・オールは19番目の委託相談支援事業として誕生した(*2)

基幹相談支援センターができるまで

札幌市が基幹相談支援センターの設置目標を平成25年度に定めたことを受け、自立支援協議会相談支援部会と札幌市担当課において、市としての基幹相談支援センターのあり方(目的、内容、組織、運営、予算等)を検討する場を設けることになった。当初は基幹相談支援センターをイメージすることができず、他都市の先進事例から学びはじめた。その後も論議を進める中で、先進地や札幌市と同じ政令市の取り組みを視察するなどした(参考にさせていただいた地域:堺市、帯広市、長野県上小圏域、川崎市、さいたま市等)。

約半年間の論議を経て、1.国が基幹相談支援センターの機能として示した「総合的な相談支援」「専門的な相談支援」「権利擁護」「虐待防止」等は、すでに、区役所の相談機能や18か所の委託相談支援事業所および市内に複数か所ある就業・生活支援センター、自閉症・発達障がい支援センター等で担えている。2.しかし、市の相談支援の現状を考えればこれら以外にも足りない機能はあり、それらの機能を担うために、新たに基幹相談支援センターを設置する意味はあると結論づけた。

開設してまだ間もないが、動き出してみて分かったことは、形を作ることから入らず、地元にとって基幹相談支援センターのあり方とは何か、あれこれ論議したプロセスが重要だったと感じている。

札幌市基幹相談支援センターの骨格

(1)基幹相談支援センターの機能

あり方検討会の論議を通して、センターの設置目的を「相談支援機関等の後方支援と地域生活支援の体制づくり」とし、6つの機能(1.委託相談支援事業の後方支援、2.計画相談支援の推進、3.地域相談支援の推進、4.障がい当事者による相談支援活動の支援、5.自立支援協議会の事務局業務、6.その他)を整理した。

(2)基幹相談支援センターの運営

高い中立性、公平性が求められることから、運営のあり方も大きな論点であった。先進事例を参考に新しい法人を作り、そこに既存の委託相談支援事業所等が合流していくことも検討されたが、既存にせよ新設にせよ、その法人の中立性を担保するためには第三者機関を設置する必要があると結論づけた。

現在、札幌市および自立支援協議会で構成された「札幌市基幹相談支援センター運営委員会」が設置され、5人の委員により基幹相談支援センターの業務全般を審議していただいている。この運営委員会が、この事業の根幹を握っているといえる【図】。

図 札幌市基幹相談支援センターの運営体制
図 札幌市基幹相談支援センターの運営体制拡大図・テキスト

開設からここまでの取り組み

(1)受託法人の決定

平成25年5月、札幌市により基幹相談支援センター受託法人の募集(プロポーザル方式)が行われた。その結果、ひとつの社会福祉法人が選定され、市からの委託を受けることになった。基幹相談支援センターの必要人員を確保するため、受託法人から別法人へ再委託が行われ、現在は、受託法人職員の他2法人から職員2人が出向してきており、合計4人で業務を担っている。

(2)名称の決定

「障がい者(児)やその家族が地域で安心して生活できる地域支援体制の構築」(市要綱第1条)を目的に設置されたことを受け、名称を『さっぽろ地域づくりネットワーク ワン・オール』とした。また、相談支援事業所等と対等、並列的な関係を構築していくためにあえて「基幹」という文言をはずした。

(3)市の相談支援事業の課題解決

基幹相談支援センターの業務はあり方検討会で論議されてきたが、より具体的に取り組むべき事柄を明らかにするために、手始めに、相談支援に関わる課題抽出と解決策を検討することにした。そのために、市内のすべての委託相談支援機関、区役所相談支援担当者、北海道が設置する圏域相談支援機関、地域生活定着支援センター、生活困窮者自立促進支援委託事業所、弁護士会等を対象に訪問等による聞き取り調査を行なった。

調査結果から495項目の悩みや課題が出されたが、それらを3つのカテゴリー(1.事業の枠組み〈委託費、機能強化、人員配置など〉、2.支援の枠組み〈開所時間、待ち時間、登録、書式、報告書、計画相談との関係整理など〉、3.相談員の資質〈専門性、研修、技術力向上、若手育成など〉)に分けて整理し、現在も札幌市と協働しながら解決策(原案)を作成し、相談支援部会等に提案しながら具体的な解決を図っているところである。

(4)個別の相談支援

原則的に、個別の相談支援は行わないとしてきたが、数か月の取り組みを通して、1.市外からの転入に伴う相談で居住する区が決まっていないケース、2.地域生活定着支援センターから依頼のあった特別調整等のケースの場合は、個別の相談支援を実施することに修正し、これらのケースの相談に応じている。なお、これらの個別相談は一定の支援の後、最寄りの区の委託相談支援事業所に引き継ぐこととしている。

(5)自立支援協議会事務局

市の自立支援協議会事務局として、全体に関わる仕事(全体会、運営委員会、街の課題整理プロジェクト、相談支援部会)の事務局機能を担いつつ、市内10区で活動している地域部会(区ごとの自立支援協議会)に分担して顔を出している。これらを通じて、全体的な課題を見つけている最中である。

おわりに

子どもの日に『すべての子どもに本の喜びを』のテーマで開かれた「世界のバリアフリー絵本展」を訪れる機会があった。障がいのあるさまざまな子どもを含め、すべての子どもに豊かな本を届けようという世界各国の意欲に胸を打たれた(*3)

翻って、矯正施設から退所予定だが、諸事情から居住する場所を決められない障がいのある彼、彼女の相談が寄せられる。彼、彼女の影に、刑を科せられる前も科せられた後も、障がいに加え、彼らの辛い身の上が垣間見える。彼、彼女の幼い頃に、この絵本展のテーマに基づいたような何らかの支援があれば、また違った人生を歩めたのかもしれないと想像する。

法に触れてしまった障がいのある人を巡って、弁護士会との有志的なつながりが基幹相談支援センターの誕生により組織的な関わりに移行し、並行して、従来なかった地方検察庁等との連携を模索する動きも出てきた。ワン・オールが誕生した意味があったといえる。しかし、この分野に限っても、表に出てきていない課題は山積している。

基幹相談支援センターの役割は、見過ごされてきた、あるいは見過ごされそうな街の課題に、きちんと目を向けることではないかと感じている。

(おおくぼかおる さっぽろ地域づくりネットワーク ワン・オール センター長)


【注釈】

(*1)基幹相談支援センターの実態と在り方に関して、長野県相談支援専門員協会が平成26年3月に、厚生労働省の調査研究報告書としてまとめている。
http://www7.ueda.ne.jp/~siensent/file/kourousyou1-2.pdf

(*2)札幌市障がい者相談支援事業所ガイドブック
http://www.city.sapporo.jp/shogaifukushi/tiikijiritusien/tiikijiritusien.html

(*3)世界のバリアフリー絵本展2013
http://www.bf-ehon.net/archives/944