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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年6月号

伊賀市社会福祉協議会における相談支援の取り組み

寺田浩和

伊賀市社会福祉協議会の紹介

伊賀市は旧上野市を中心に周辺の5町村が合併し、平成16年11月に誕生した。人口は約10万人弱、65歳以上の高齢者の割合が約30%。東西に30km、南北に40kmの縦長で面積は広く、全体の約60%が森林となっていて、どこにでもある田舎である。

市町村合併に伴い誕生した伊賀市社会福祉協議会(以下、社協)は、本所と5支所、福祉サービス総合センターを拠点として活動を展開している。特に、権利擁護や相談支援、福祉教育に注力し、各種サービスの開発を行なってきた。在宅福祉サービスの充実にも取り組んでおり、重度の障がい者宅を小規模多機能型居宅介護施設※1として借用、経営をしている。

社協では、地域住民一人ひとりがその人らしく自己実現を図りつつ暮らすことのできる地域社会を実現すべく、さまざまな取り組みを行なってきた。各種のサービスを提供する個別支援と地域住民の活動を支援することで自発的な住民参加(有償、無償を含む)、さらには、個人が抱える課題を地域全体の課題として、住民参加で解決する地域の福祉力を強化する取り組みの両方を行なってきた。それは必ずしも一方方向の支援ではなく、支援を必要とする人も参加することで双方向に支援が展開することに特徴がある。「お互い様」や「持ちつ持たれつ」の地域づくりを目指して日々活動している。

社会福祉協議会が行う計画相談とは

社協は、平成24年4月1日から指定特定および一般相談支援事業を行なっている。また障がい者支援として、就労定着支援や精神障がい者の当事者活動(ピア活動)支援などを展開している※2

計画相談業務を展開する人員として、2人の相談支援専門員(社会福祉士)を配置している。社協は伊賀市社会福祉協議会基本理念に則り、地域の福祉力の向上、住民参加による課題解決や地域の仕組みづくりを実践している。

図 伊賀市社会福祉協議会 基本理念拡大図・テキスト

支援の特徴は、常に地域生活を意識し、誰もが愛着のある住み慣れた地域で暮らすためにコミュニティーソーシャルワークの実践により、いかに、地域住民を巻き込んで自立支援計画を組み立てることができるかを考えている。現在、120件の計画相談支援を行なっている。

サービス等利用計画の利点として

まずは、純粋に本人の希望や思いを実現することに専念できるようになったと感じる。頭では本人中心であると理解しているが、改めて計画に本人の希望を落とし込んでみると、私たちは本人を中心に何をしなければならないか明確になった。ただし、本人の真のニーズをしっかり把握することは難しい。

私は人間のコミュニケーション手段で、一番言語コミュニケーションが信用できないと思う。本人のうわべの言葉だけでなく、支援者は様子や雰囲気から本人の気持ちを全身を使って取り込まなければならない。支援者の本気度とスキルが問われている上に、本人との信頼関係がしっかりと構築されていなければ計画は上滑りをしてしまう。計画という紙だけの付き合いでは駄目で、毎日の信頼関係の積み重ねが一番大切であると改めて気付いた。また、地域情報やサービスの情報など個人で知ることは難しいが、計画相談支援により適切な情報が適切なタイミングで届けられるようになった。

二つ目として、本人の思いのもとで計画によって関係機関が連携し、質の高いチーム支援の提供が可能となってきた。今までは、一人の支援をする時に医療や福祉、司法、地域と領域の違う支援者が連携するのは困難であったが、計画が地図、もしくは通訳となり領域を超えての連携が取りやすくなった。よく、支援者は集まったが支援の方向性がバラバラでチーム支援が機能しないありさまを見ることがある。私はそれを群れと呼んでいる。単なる集まりでは意味がない。本人の思いに寄り添い、支援計画により同じ目標を目指す。チーム○○を作ることにしている(○○は当事者名)。

三つ目は、本人のニーズの実現を目指す上で必要なサービスや地域に資源が存在しない状況に頻繁に遭遇する。まさに社協が目指す個別課題の解決から地域の課題へ発展させ、自立支援協議会等で検討し、地域の充実へ結び付けることができるようになった。支援者(専門職全般に)は、フォーマルなサービスを利用したり、結び付けることは得意だが、地域住民の活用といったインフォーマルサービスの活用や、新たなアイデアの実現などは不得意である。計画相談支援は、自立支援協議会や地域を巻き込んで新しいことを考える良い機会を与えてくれている。

実際の取り組みとして

本人の思いに寄り添う取り組みを第一としている。

伊賀市に、伊賀昴会という就労継続支援B型とグループホームを展開している社会福祉法人がある。社協ではサービス等利用計画と伊賀昴会の個別支援計画を連動させ、本人の夢の実現を後押ししている。当方からの働きかけで、定期的に計画相談について昴会の職員と勉強会を開催している。私たちの役割は適切な計画を作成し、本人の自立支援を行うことである。スキルアップすることで本人の可能性を広げ、本人の人生の選択肢を一つでも多く提示することである。伊賀昴会以外にも世界は広がっている。本人の夢の実現のための自立支援を展開していくことを共通理解とした。昴会の個別支援計画作成のアドバイスを行い、個別支援計画作成会議にも参加し助言している。

昴会のB型太陽作業所から、NPO法人めぐみの会A型事業所ぱとなへのステップアップが実現している。正直、法人を跨(また)ぐステップアップの実現は利害関係もあり難しい。まさに、計画相談という中立公平な立場が間に入る意義がそこにあると思う。

太陽作業所在籍中にもかかわらず、A型事業所ぱとなは本人のために、支援会議などへ快く参加し、本人のモチベーションを高める支援を行なってくれた。計画相談支援が入ることで本人の夢の階段を一段上り、次は、A型から就労へというさらなる夢に向かってチーム支援を行なっている。

さらに、社協の相談支援専門員は自立支援協議会に積極的に参画している。障がい者が地域生活を送るためには、実際に地域で生活をする市民の理解があるかないかで大きく状況は変わってくる。残念ながら、地域の無理解で地域生活が脅かされることは少なくない。自立支援協議会で検討し、障がい者の正しい理解を目的に、民生委員と障がい者の交流会を実施している。実際に、障がい者と交流することで「誤解していた」など肯定的な意見を多くいただいた。

三重県は9圏域に分かれていて、伊賀市は隣の名張市と伊賀圏域(人口18万)を形成し、伊賀圏域障がい福祉連絡協議会を伊賀保健所が事務局として運営している。取り組みの一つとして「途切れの無い支援」をテーマに、25年度は教育委員会と協働し、福祉と現場の教師との話し合いの場を持つことができ、教師の思いや福祉制度について話し合うことができた。26年度も継続して議論を進めている。

相談員の資質向上を目的に、スーパーバイザーを迎え、特定相談支援事業所や市町担当者が集まり事例検討会を始めたところである。

最後に

計画相談はいまだに当事者や家族への周知は不十分で、市町関係や特定相談支援事業所の疎通もこれから構築していく部分が多い。課題を挙げるときりがないが、多くの特定相談支援事業所には、相談員が一人しか配置されずに孤立奮闘を強いられている仲間が多いのが現状である。ただ、私たち相談支援専門員は自己研鑽に励み、関係機関と協働し、地域開拓を行う。当事者の自己実現や地域啓発を行なっていくことにより、計画相談が無くてはならないものになっていくと信じている。

(てらだひろかず 伊賀市社会福祉協議会(上野支所)地域福祉部)


※1 小規模多機能型居宅介護施設。四肢マヒの重度の障がいのあるオーナーの自宅をデイサービスセンターとして借用してきた。平成24年、通所だけではなく、訪問や泊りも可能な「しらふじの里」として開所。

※2 日常生活自立支援事業や若者サポートステーション、福祉後見サポートセンター、訪問介護事業所など障がい者の地域生活を応援する機関や事業を多く運営している。