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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年7月号

障害者権利条約「言葉」考

「合理的配慮」

金政玉

障害者権利条約(以下、条約)の第2条(定義)において「障害に基づく差別とは、障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限」であり、「障害に基づく差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む。」と定められている。

この文脈の前者は、人種、民族的または社会的出身、性、門地等の自然権である人間としての属性を事由とする差別の禁止、つまり「○○を理由とする差別をしてはならない」という不利益取扱いの禁止(不作為の原則)を踏まえたものである。

後者は、「あらゆる形態の差別」に「合理的配慮の否定を含む。」ことによって、従来の差別概念に新しい概念を導入したことになる。この背景には、国際的な障害者差別禁止法制の広がりがあったことは言うまでもない。

この新概念の特徴は、障害のない人との平等性を確保するためには、従来の「不作為の原則」だけでは不十分であり、社会生活の個々の具体的場面で必要となる障害の特性やニーズに対して、相手方(事業者等)の配慮がなければ実質的な平等は担保できないという具体的必要性に基づいている。

続く同条の「合理的配慮」に関する定義では、障害者の人権及び基本的自由の行使のための「必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。」とされている。

相手方に「過度の負担を課さない」とはどういう場合を指すのか、主に二つの点から判断される。一つは、経済的・財政的コストとの関係で、相手方の業務の内容や公共性、不特定性、事業規模、技術的困難の度合い等が挙げられる。もう一つは、相手方の業務遂行(サービス等)に著しい支障が生じるかどうかという点である。

いずれにしても、「作為義務の原則」(特定の場合に必要とされる配慮)を差別の定義に加えて実質的平等を確保しようとすることは、差別の概念構成においては画期的な成果であり新しい地平に到達したことを意味している。それは、第3条(一般原則)の「差異の尊重並びに人間の多様性」「機会の均等」とも密接に対応している。

最後に、障害者差別解消法(2013年制定)との関連で重要なことは、本人がどのような配慮が必要かを相手方(事業者等)に伝え(本人が困難なときには家族や支援者も可)、本人と相手方が、変更や調整による配慮について話し合い、お互いの了解点を見つけ出すことである。また、過度な負担があるときには、相手方はその理由を理解できるように説明する努力が大切とある。こうした相互理解の積み重ねによって、お互いを尊重し合える共生社会の実現に一歩一歩近づいていくことが求められる。

(きむじょんおく 明石市福祉総務課障害者施策担当課長(前内閣府障害者制度改革担当室政策企画調査官))