音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年7月号

フォーラム2014

準備開始!第3回アジア太平洋CBR会議

上野悦子

はじめに

2015年9月1日から3日まで、東京の京王プラザホテル(新宿区)で、第3回アジア太平洋CBR会議(以下、CBR会議)を開催することになった。主催は、CBRアジア太平洋ネットワークとその事務局のあるアジア太平洋障害者センター(APCD)。日本のホスト団体は、JANNET(障害分野NGO連絡会)とその事務局のある公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会である。参加人数は600人を想定している。

第1回は2009年にバンコクで、第2回は2011年にマニラで開催された。その間、2010年にはマレーシアでアジア太平洋CBR大会、2012年にはインドのアグラで、第1回CBR世界会議が開かれた。このようにCBR会議はここ数年、活発に開かれている。

また、CBRアジア太平洋ネットワークは2009年の第1回CBR会議で設立され、現在、36の国と地域が参加しており、日本ではJANNETが加盟している。

CBRからCBIDへ

CBRは、途上国に住む障害のある人とその家族の生活の質の向上を目指して1980年代から実践されてきた。2006年に採択された障害者権利条約の影響を受け、2010年にCBRガイドラインがWHO、ILO、UNESCOなどにより発表された。権利条約の原則である、参加とインクルージョンがCBRでも重要な要素になっている。同ガイドラインでは、貧困削減のためCBRが障害のある人とその家族の社会的包摂を目指すことが示され、用語にはCBID(コミュニティにおけるインクルーシブ開発)が使われるようになった。

2015年は歴史的に重要な年

第3回CBR会議が開催される2015年は、多くの意味で世界的にも重要な年となる。まずは、世界の開発の枠組みが変わる年である。2000年に発足したMDGs(ミレニアム開発目標)は、2015年に最終年を迎え、ポストMDGsの議論には環境問題が統合され、SDGs(持続可能な開発)も目指すことになった。これまで別々に議論されてきた持続可能な環境と開発課題の両方を見据えていこうという内容である。

2015年の国連総会では、2016年からの世界に共通する開発のフレームワークが採択される。大きな目的は貧困削減である。障害分野の最大の関心事は、国連の開発の枠組みのポストMDGsとSDGsに障害の視点がきちんと盛りこまれ、取り組まれることである。

2015年はもうひとつの、しかし共通する課題として、2015年3月に仙台で開催する国連防災世界会議で、兵庫行動枠組みの改訂が採択されることがある。この二つの国際的な動きに共通する課題のひとつは、強靭なコミュニティの構築である。災害に強く、災害が発生しても回復力のあるコミュニティづくりは普段の暮らしの中での人との関わり、地域のあり方を左右する。まさに、CBIDへの取り組みと重なる。

CBIDの理念とその実現のためのツイントラックアプローチが重要であることは分かってきた。ツイントラックアプローチとは、個人およびコミュニティを含む周囲への働きかけのことで両方が大事だといわれているが、実効性があるかどうかについて、具体的な事例から学ぶ時期に来ていると言える。

CBIDを学ぶ

JANNETでは、CBRガイドラインを読み込む勉強会を2011年と2012年に開催した。ガイドラインは7つの冊子で構成され、かなりの量があるが、CBRマトリックスだけを見ていても、中身がよく分からない。CBRガイドラインを仲間たちと一緒に読む込むことで理解に対する自信がついたと言える。この間に日本障害者リハビリテーション協会では、CBRガイドラインの日本語訳を進め、合計で27人の方々にボランティアで翻訳に携わっていただき、2014年1月にCD版が完成した。監修は高嶺豊さんに引き受けていただいた。CBRマトリックスが示しているのは、社会的包摂を包括的に見る視点である。

2013年には、CBRマトリックスを使うワークショップを2回(7月は名古屋で、10月には東京で)開催した。その結果、次のことが分かった。CBRマトリックスの使い方として、個人、事業所、地域の現状を見ることができる。さらに、現状を改善するために、次に何をしたらよいかを把握するのに利用できる。事業所内での議論の際にも使える。今のマトリックスに足りない要素がないかチェックしてみる。というように、使い方はさまざまである。CBRマトリックスを囲むことで話し合いが進む、という興味深い体験もした。

CBIDの事例収集

CBRアジア太平洋ネットワークでは、CBIDの事例集を作成して、CBR会議で紹介することになった。事例から何がつかみ取れるか、それは国際的にも共通することなのか、今後さらに調べて明らかにしたい。国内の事例集作成事業には、日本財団から助成していただいた。事例収集では、各国の国内選考で選ばれた事例をアジア太平洋での選考に持ち込むという方法がとられている。

日本国内では、JANNETを中心に募集したところ、7事例集まった。沖縄のNPO法人いけま福祉支援センター(高齢化社会と地域おこし、民泊事業等)、東近江市のチームチャッカ(森林の保全という地域課題と障害のある人の就労を結びつける)、一宮市ののわみ相談所(ホームレスの人たちへ支援、学習会開催から支援者への進展を支える)、名古屋市の一般社団法人草の根ささえあいプロジェクト(社会的孤立に対する活動、アウトリーチ、調査も実施)、和歌山市の社会福祉法人麦の郷(精神障害のある人への生活・就労支援)、福島県泉崎村の社会福祉法人こころん(地域の資源を活用して精神障害のある人の暮らしや仕事を支援)、岩手県田野畑村のNPO法人ハックの家(支援される人と支援者の区別がなく、地域にあるものを使う、震災後の外部とのつながり)である。

国内事例の審査員には地域福祉、地域づくり、海外と国内の両方に携わる人、コミュニティ開発に関わる人などさまざまな分野の方にお願いした。7事例にはそれぞれ特徴があり、優劣をつけられるものではないが、アジア太平洋の選考には一つしか推薦できないため、審査に当たった方々は大変苦労された。結果として、日本代表に選ばれたのは、草の根ささえあいプロジェクトの猫の手バンク事業である。選考の理由は、CBRマトリックスを使用して活動を分析することが他の事例より先行していたこと、調査の実施により、活動を分析して、アプローチを生み出していること、連携の必要からネットワーク化が進んでいること等が評価された。アジア太平洋地域の事例もまもなく出そろう。

猫の手バンクのベースとなる支援項目
図 猫の手バンクのベースとなる支援項目拡大図・テキスト
草の根支えあいプロジェクト「猫の手バンク」の活動をCBRマトリックスで分析。この中で3つの活動を行なっていたことが分かった

第3回CBR会議で達成したいこと

前述したが、具体的な事例を示すことである。お互いに事例に学び、事例から得られる重要なエッセンスを伝えあい、国際的な開発政策を押し上げることに貢献したい。事例を分かりやすく伝えるため、文書化することで国際協力を行う分野の人に伝え、国内にも影響を与え、さらに海外と日本国内の行き来が活発になるだろう。

5月31日に実行委員会(結果的には準備会議)を開催し、出席者にCBR会議への期待を聞いてみた。多くの人が、CBIDへの理解が国内で広まることを挙げた。また、実効ある各国の取り組みを知りたい、日本の国際協力関係者にCBIDを理解してもらう機会としたい、日本の地域福祉に影響を与えたい。さらに、日本と海外の事例をつなげたい、日本と海外がつながる場づくりにしたい、楽しい・面白い会議という意識が浸透するとよい、という多様な意見も出された。

おわりに

海外の参加者をお迎えする準備は始まっている。日本と海外がお互いに影響し合い、日本の地域と海外の地域が交流できる機会になるように力を合わせて取り組みたい。来年の9月には、日本国内だけでなく海外からも多くの方にご参加いただきたい。

(うえのえつこ 日本障害者リハビリテーション協会国際課、第3回アジア太平洋CBR会議事務局長)


CBRガイドラインの日本語訳のサイト:http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/intl/un/CBR_guide/index.html