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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年8月号

東京2020パラリンピック競技大会
日本代表選手の選手育成・強化の実績と今後の方針

中森邦男

はじめに

リハビリテーションスポーツから始まったパラリンピックは、回数を重ねるごとにエリート化が進み、オリンピック招致にパラリンピック開催が含まれた2008年北京大会を契機に、その競技力は格段に向上し、オリンピック同様に国を挙げての強化が不可欠な状況になった。表1は、最近の夏季パラリンピックの3大会の各国のメダル獲得状況を示したもので、金メダルおよび総メダルとも上位国のメダルの集中が進んでいることが分かる。日本選手の成績は、2009年以降、競技団体に対する強化費が大幅に増額されたにもかかわらず、2004年のアテネ大会を境に、2008年北京大会、2012年ロンドン大会とメダル順位を大きく下げている。これは近年のパラリンピックを主催する国が、オリンピック同様の選手強化の成果が現れたものである。

表1 上位10か国のメダル獲得状況〔3大会比較〕

No 国名 2012 2008 2004
No No
1 中国 95 71 65 231 1 89 70 52 211 1 63 46 32 141
2 ロシア 36 38 28 102 8 18 23 22 63 11 16 8 17 41
3 イギリス 34 43 43 120 2 42 29 31 102 2 35 30 29 94
4 ウクライナ 32 24 28 84 4 24 18 32 74 6 24 12 19 55
5 オーストラリア 32 23 30 85 5 23 29 27 79 5 26 38 36 100
6 アメリカ 31 29 38 98 3 36 35 28 99 4 27 22 39 88
7 ブラジル 21 14 8 43 9 16 14 17 47 14 14 12 7 33
8 ドイツ 18 26 22 66 11 14 25 20 59 8 19 28 31 78
9 ポーランド 14 13 9 36 18 5 12 13 30 18 10 25 19 54
10 オランダ 10 10 19 39 19 5 10 7 22 27 5 11 13 29
上位5か国の獲得率(%) 45.5     40.8   45.2     39.5   34.5     31.6
参加国数 164 146 135
24 日本 5 5 6 16 17 5 14 8 27 10 17 15 20 52

1 日本パラリンピック委員会(JPC)の強化の取り組み

JPCは、図1に示すとおり、パラリンピックへの日本選手団の派遣を中心とした強化事業から、2004年のアテネパラリンピック以降、さまざまな選手強化事業を実施してきた。選手強化の大きな柱は、競技団体が実施する強化事業(強化合宿の開催、海外大会への派遣など)の実施で、2005年から本格的に実施し、2014年度は総額6億3千万円となり年々増額をすることとなった。第2の柱は、メディカルチェック、メンタルの強化と栄養サポートからはじめた医科学情報サポートで、現在、これらに加えコンディショニング、映像技術、フィットネスチェック、バイオメカニクスの領域で競技団体の強化を支えている。これらのサポート事業は、年々この事業に対する競技団体の理解が進み、取り組む競技団体が増加している。

図1 JPCによる強化事業の整備状況
図1 JPCによる強化事業の整備状況拡大図・テキスト

2 パラリンピックでメダルを取るための戦略

日本パラリンピック委員会は、東京2020パラリンピック競技大会の日本代表選手団のメダル目標は、金メダルランキング7位で22個の金メダル獲得を目指している。2012年のロンドンパラリンピックは、夏季20競技504の金メダル種目が実施されており、この中で陸上競技166種目、水泳148種目が実施され、全体の50パーセント以上を占めている。続いて自転車81種目、卓球29種目、パワーリフティング20種目と続き、パラリンピックでの金メダルを数多く獲得するためには、これら競技のうちメダル獲得の可能性のある種目(クラス別)を選定する必要がある。

リオデジャネイロ2016パラリンピックは、表2のとおり、22競技に4350人の選手による競技が予定されている。

表2 リオデジャネイロ2016パラリンピック実施競技および競技別参加選手数一覧

No 競技名 男子 女子 性別無
1 アーチェリー 80 60 0 140
2 陸上競技 660 440 0 1100
3 ボッチャ 0 28 80 108
4 カヌー 30 30 0 60
5 自転車 150 80 0 230
6 馬術 0 78 78
7 サッカー 5-a-side 64 0 0 64
8 サッカー 7-a-side 112 0 0 112
9 ゴールボール 60 60 0 120
10 柔道 84 48 0 132
11 パワーリフティング 100 80 0 180
12 ボート 48 48 0 96
13 セーリング 0 11 69 80
14 射撃 100 50 0 150
15 水泳 340 280 0 620
16 卓球 174 102 0 276
17 トライアスロン 30 30 0 60
18 バレーボール 96 96 0 192
19 車椅子バスケットB 144 120 0 264
20 車いすフェンシング 52 36 0 88
21 ウイルチェアーラグビー   0 96 96
22 車いすテニス 56 32 16 104
合計 4350

(1)ターゲット種目の選定

特に個人競技の陸上競技と水泳は、1人の優秀な選手が4個、5個の金メダルを獲得しているケースが多く見られ、メダル獲得数を高めるためには、クラス別、男女別の競技記録を分析し、複数のメダル獲得の可能性のある選手を集中して強化することが必要である。同様に他の競技においても、同様に分析、強化種目の設定が必要である。そして、強化種目に日本選手が存在するか、その選手が競技力向上の可能性があるのか見極める必要がある。

(2)ターゲット競技の選定

パラリンピックにおける団体競技の活躍は、選手団の士気を高めることとともに、メディアの関心も高く、多くの報道により国民の注意を引き、国民のパラリンピックに対する関心を高めることにつながる。団体競技はチーム練習と海外チームとの試合を増やすこととあわせ、チーム戦略を立て、パラリンピックに向けた長期強化計画、強化方針が必要である。

(3)選択と集中強化

東京2020パラリンピックで、金メダルランキング7位達成のためには、前記で選択された個人競技や団体競技の選手に対し、強化費用と強化スタッフおよび医科学の支援を集中することが重要である。このために、6年後の東京2020パラリンピックで活躍できる選手を選出し、集中した強化ができる指定強化選手制度の仕組みを早急に立てる必要がある。

(4)強化選手の環境整備

選手が社会生活として、強化活動に専念できる環境の実現のため、強化選手雇用プログラムを実施し、企業に選手の雇用とあわせ強化活動をサポートしていただく仕組みを構築する。また、選手が身近な場所で、強化活動ができる練習環境の整備のため、公共スポーツ施設、企業や学校のスポーツ施設などで強化活動ができるように仕組みを推進する。

(5)競技団体の基盤整備

競技団体の組織運営の基盤整備のため、法人格の取得、事務所の設置(競技団体共通事務所も含め)、専従事務員(競技団体共通職員も含め)や強化コーチの雇用などを支援する仕組みを構築する。

3 東京2020パラリンピックに向けた事業

2014年4月1日より、障がい者スポーツの政府所管が厚生労働省から文部科学省に移ったことで、障がい者スポーツの政府施策が大きく前進することとなった。選手強化関連の事業の中で、オリンピックで実施されてきたもので、障がい者スポーツで取り扱われなかった事業を積極的に取り入れ、選手強化が大きく推進できるよう関係省庁や関係機関と連携をとり、事業実施を提案しているところである。

表3

1) JPC事業の充実

1.選手強化対策事業(JPC運営委員会・JPC強化委員会)
2.総合大会派遣事業(パラリンピックやアジアパラ競技大会およびデフリンピックなど)
3.国際会議の誘致(IPC理事会・IPC総会・IF会議等)
4.国際競技団体競技役員等活動支援事業
5.国際資格取得事業

2) 競技団体による選手強化環境の充実

1.加盟競技団体が実施する指定強化事業の充実
2.競技団体(NF)基盤強化事業
3.ナショナルコーチ制度の策定
4.育成強化事業の実施
5.強化拠点事業の設置(地域拠点/競技別)
6.強化拠点事業へのコーチ設置
7.JPC指定強化選手制度の制定
8.海外コーチ招へい事業

3) JPCによる加盟競技団体・選手のサポート

1.医・科学・情報サポート事業の充実
2.メディカルチェック・フィットネスチェック事業の充実
3.競技用具研究開発の実施
4.国際大会の積極的な招致と開催
5.選手発掘事業(継続)の実施

※下線は新規事業の提案

4 まとめ

日本のスポーツの環境は、表4のとおり、2011年スポーツ基本法の成立、2015年のスポーツ庁設置構想と、より豊かなスポーツ環境を目指し前進している。障がい者スポーツもこの流れに乗り遅れず、劇的に変化し豊かなスポーツ環境の実現を目指していかなければならない。そのためには、東京2020パラリンピック競技大会が成功すること。そして、パラリンピック終了後には、障がい者が身近な場所でスポーツに参加できる環境と、前記した日本を代表する選手がパラリンピックなどの国際大会で大活躍できる選手強化の進んだ環境づくりを、今後の取り組みに含めていきたい。

表4 障がい者スポーツの最近の動き

2011. 6 スポーツ基本法成立 JPSAに民間から協会会長を迎える
2012. 3 スポーツ基本計画公表 障がい者スポーツが含まれる
2013. 3 日本の障がい者スポ-ツの将来像の発表 2030年の目標設定
2013. 7 東京2020オリパラ開催決定 歴史的大事業の開催
2014. 4 スポーツ行政の一体化 厚生労働省から文部科学省へ
2015 スポーツ庁の設置構想  

(なかもりくにお 公益財団法人日本障がい者スポーツ協会日本パラリンピック委員会事務局長)