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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年8月号

2020東京パラリンピック成功のために

仲前信治

昨年9月7日の開催決定以降、東京での2020年オリンピック・パラリンピック開催に向けた準備は着々と進んでいる。

一つの組織で二つの大会を開催

東京大会は、オリンピック・パラリンピック競技大会を一つの大会組織委員会が準備・開催する。2008年の北京大会以降、オリンピック開催都市はオリンピックに続いてパラリンピックを開催することが義務化されている。東京大会は、オリンピックとパラリンピックの期間を通じ、世界的なスポーツの祭典として継続性を持った一体的な運営を行うことを大会組織委員会のあらゆるレベルの職員において徹底する。計画段階から、オリンピックの直後にパラリンピックを開催する前提として準備を行うことで、両大会に共通する準備の効率化を図るとともに、両大会の移行期間(トランジション)に発生する作業を最小限にする。

【現在までの主な準備の歩み】

1月 IPCオリエンテーションセミナー開催:東京都、JOC、JPC、競技団体から約200人参加
東京大会組織委員会の設立
3月 ソチパラリンピック開催
森喜朗会長他が視察
第1回理事会開催
4月 パラリンピック計画課の設置
5月 IPC本部(ドイツ)での大会準備に関する実務会議
6月 IOC調整委員会でパラリンピック準備状況を報告

パラリンピック・インテグレーション

前述のように、両大会の準備を一体的に行うことにより、パラリンピックの大会準備・運営にはオリンピックと同等の質が確保されることとなる。一方で、オリンピックの準備とは異なる、パラリンピック独特の要素を大会計画や運営において明確にし、適切な対応を計画に反映させることが重要である。

たとえば、車いすや杖を使って移動する選手が、競技会場の地下1階の選手更衣室に行く、と想定すると、移動手段として、階段の他にエレベーターやスロープ等をきちんと整える必要があるし、地下1階の更衣室前までやってきたとして、入り口の扉は自動式?押すのか?引くのか?横引きか?、入り口のドアの取っ手の形状は?、入り口の幅は何センチ必要か?段差があっても大丈夫か?、といったことが、その競技に参加する選手がどういう障がいをもっているのかを計画段階からしっかりと想定し、考えられる会場での行動がスムーズに行えるよう検討されなければならない。

また、各国やパラリンピックで実施される競技の国際団体から大会に来日する関係者、そして何より観客にも、障がいをもつ人々は多数含まれる。これらの人たちが大会中にどのような活動を、いつどこで行うのかを十分に理解し、適切な環境を提供する必要がある。これらパラリンピックに必要な準備を、大会のさまざまなサービスにおいて横断的に検討していく体制として、東京大会組織委員会では「パラリンピック計画課」を設置した。

パラリンピック計画課は「輸送」「宿泊」「選手村」「式典」等、さまざまな担当部署がパラリンピックの準備を進める支援や確認を行うことにより、オリンピックの開催準備にパラリンピック開催の要素が可能な限り統合(インテグレート)され、かつパラリンピックの独自性や、運営上の配慮が反映されるよう取り組む。

今後の開催準備の流れ

東京パラリンピックの開会式まで残り2216日(7月31日時点で)、約6年間どのような準備を進めていくのかを簡潔に紹介する。

★6~2年前 実行計画の作成

立候補の際に作成した開催計画を基に、大会に関するさまざまな実行計画を作成していく。輸送、選手村運営、会場整備といった大会運営に直結する活動はもちろん、オリンピック・パラリンピックがより多くの人々に認知され、関心を高めてもらうための活動(エンゲージメント)、大会スポンサーの募集やスポンサー活動の具体的活動(マーケティング)、全世界に大会のテレビ放映を行うための活動(ブロードキャスト)など広範囲にわたる。また、大会の運営に携わることで得られる経験と知識は何にも代えがたいものである。2016年に開催されるリオパラリンピック大会には、大会中の視察はもちろん、東京のスタッフがリオ大会の組織委員会に出向して実地で経験を積む、といったことも必要であろう。

★2~1年前 テストイベント(大会)の開催

パラリンピックは22の競技の世界選手権を、同時に、同じ開催地で行う以上の複雑な運営を求められるうえ、失敗は許されない。運営計画がうまく機能するのか、さまざまな方法で事前に検証するが、最も実際の想定に近いものがテストイベントである。テストイベントでは、競技運営はもちろん、観客や選手団の輸送、荷物の運搬、宿泊、開催スタッフ間の連携やトラブル発生時の指示命令系統の対応の的確さと迅速さ等、テストは多岐にわたる。テストイベントの反省事項について原因と対策を検討し、実行計画の見直しを行う等して、大会本番に備える。

★2~1年前 大会ボランティア募集~トレーニング

オリンピック・パラリンピックでは約8万人のボランティアが、あらゆる場面で大会の運営を支え、リードする。選手や観客等にとっては最も身近な「大会の顔」となる存在であり、ボランティアとの一つ一つの関わりが選手や観客にとっての「東京の印象・思い出」を形作る。ボランティアの活躍の場面は多岐にわたるが、そのフィールドで必要なスキルや要件を備えているか、事前の研修に参加ができるか等、きちんとした選考と準備が行われる。

また、オリンピック・パラリンピック両大会に関わるボランティアは、最大で2か月以上もの時間を提供することになる。こういったボランティアを多数確保するには、募集の情報提供のタイミングや方法、応募受け付け方法等も含め、早期から計画を立てて確実に運営していかなければならない。

★1年前 観戦チケットの販売

東京大会では約300万枚の大会観戦チケットを販売する計画である。パラリンピックではより多くの、幅広い層の人々に障がいのある選手の卓越した能力を間近で見て、感じてもらうことを重視している。このため、オリンピックに比べると低価格でチケットを販売する。また、オリンピックのチケットが手に入らなかったスポーツファンが、パラリンピックの観戦に殺到する、という状況も想定される。大会組織委員会は、チケットの種類、金額、販売の開始日、購入方法等について、十分な周知の時間を確保し、かつ適切な手段を講じて、平等、公平なチケット購入の機会の提供に努めなければならない。

大会成功の鍵は? エンゲージメント:他人事から自分事へ

いうまでもなく、大歓声に包まれる満員の会場で、選手たちが最高のパフォーマンスを見せて競い合う姿を、迫力のある映像を通じて、世界中の多くの人々が、リアルタイムで共有する60日間となることが大会の成功の前提となる。さらに、日本国内での大きな盛り上がりには、日本人選手の活躍が不可欠である。

日本選手の活躍に国中が熱狂、一喜一憂する大会にするには?我々一人ひとりが、日本選手のことを、その競技のことを、ライバル選手のことを、何が勝利のカギを握るのかを、何がその選手をその競技に、パラリンピックでの勝利に駆り立てるのかを知り、そしてなぜ自分が、その選手の活躍を願い、勝敗の行く末を見届けたいのかが、観戦する一人ひとりにとって、「自分の関心事」になっていなければならない。

世界でも有数の安定した社会基盤を持つ日本において、多くの人々は障がいのある人の存在を知っているが、身近なことと感じていないのかもしれない。けれども、たとえば少し自分の家族や友人など周りをみれば、何らかの障がいをもっている人はいるものだし、自分自身も予期せぬ事故や病気で障がいをもつこともある。

スポーツは、言葉や文化の違い等、さまざまな違いを超えて多くの人と人とをつなげ、絆を強く結びつけていく力に満ち溢れる、人間のコミュニケーションの素晴らしい形だと思う。大会がより多くの人々の関心事になり、どれだけの交流や協働が生まれ、積み重ねられるか。これこそがパラリンピックの成功の鍵であると考える。また、交流や協働が東京のみならず日本各地に広がり、東京大会終了後も脈々と引き継がれていき日本全体が、障がいやその他、個々人のもつさまざまな特徴や違いを温かく包み込む成熟した社会へと変化を遂げることを期待したい。

(なかまえしんじ 一般財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会大会準備運営部パラリンピック計画課課長)