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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年8月号

列島縦断ネットワーキング【岡山】

誰もが安心して暮らせる街づくり
~おかやま入居支援センターの取り組み~

井上雅雄

おかやま入居支援センターでは、高齢者や障がい者、刑余者、虐待を受けた人といった、地域に住まいを確保するのが困難な人たちを支援しています。平成25年度末までの5年間で、約160件の相談がありました。うち約90件を支援し、安定的な地域生活となるよう見守ってきました。

ネットワークで支える

平成20年、岡山県精神保健福祉センターの所長から弁護士に、「精神障がい者の方々が地域で生活をする際、賃貸住宅の連帯保証人が見つからなくて困っている」という相談がありました。岡山県精神科医療センターからも、精神障がい者の退院時の入居先について不動産仲介業者に相談がありました。入院治療をする必要性は低くなっているのに、帰る家がないために退院できない「社会的入院」の問題です。

相談を受けて、まずは全国で同様の問題への取り組みがあるか調査をしました。次に、障がいのある方が地域のアパートなどで生活するためには大家さんにも入居者にも安心してもらわなくてはと考え、勉強会を始めました。そのなかで、「入居希望者本人を支える支援のネットワークをつくり、必要に応じてNPOが連帯保証人になる」という支援の仕組みが考案されました。それまで、医療・福祉・行政の連携はありましたが、その支援の輪に不動産仲介業者と財産管理者、さらにコーディネーター役のNPOを加えたことがこの仕組みのポイントです。

おかやま入居支援センターは、この仕組みの趣旨に賛同した専門職によって立ち上げられました。平成20年11月に団体の設立総会を行い、平成21年3月にNPO法人となりました。法人の役員(理事・監事)は、弁護士・司法書士・税理士・精神科医・社会福祉士・精神保健福祉士・行政書士・宅地建物取引主任者で構成されています。

広がる活動

もともと精神障がい者の支援から始まった活動でしたが、徐々に対象が広がりました。現在では刑余高齢者、高齢のホームレス、発達障がい者、虐待を受けた人など、これまで地域で暮らすことが難しいとされてきた人たちをネットワークで支援しています。安定した地域生活となるよう見守り、トラブルを予防し、異変があった時も深刻化する前に対応しています。

平成23年9月からは、単身者向けアパートを二室借りて、シェルターとして運営を始めました。緊急に住まいが必要な障がい者、高齢者、虐待を受けた人などの支援に活用しています。

平成24年6月には、サロン(交流スペース)を開設しました。テーブルと椅子、飲み物などを用意し、利用者同士がくつろいで会話などを楽しめる「居場所」として運営しました。

平成26年4月からサロンは休止していますが、入居支援とシェルター運営の活動を続けています。

社会を変えていく

当初は「障がい者に部屋を貸したくない」と言う大家さんがほとんどでしたが、ネットワークによる支援の仕組みや、障がい者は長期入居が見込めることなどを説明した結果、部屋を貸してくれる人も出てきました。

かつて個人しか連帯保証人になることができなかった岡山県営住宅や岡山市営住宅に対しては、NPOから行政へさまざまな提言をしてきました。その結果、条例改正によりNPO法人も賃貸借契約の連帯保証人になることができるようになりました。また、(一財)高齢者住宅財団の保証事業では、かつて対象外だった生活保護受給者も事業を利用できるようになりました。

一方、入居支援の仕組みには、課題も見え始めました。入居時点の支援だけでは不十分で、継続的な見守りを充実させなくてはならないこと、そのための体制を作らなくてはならないことが、明らかになってきています。

社会的孤立の問題

退院し、アパートを借りて通院や通勤をする生活をしていても、休日に行く場所がない人や、仕事帰りに寄る場所がない人がいます。また、アルコール依存症や、セルフネグレクト(自分自身の世話を放棄して身体が不衛生になったり、室内に大量のものがたまったりする)状態の人は、はたからは支援が必要に見えるにもかかわらず、支援を拒む傾向があります。支援ネットワークを組み、地域の賃貸住宅に入居できたとしても、それだけでは社会的に孤立してしまいます。

社会的に孤立した状態では、病状が悪化しても医療機関を受診しなかったり、再犯をしてしまったり、最悪の場合には、誰にも看取(みと)られず亡くなって何日も経ってから見つかるという孤立死も起こります。平成25年に入居者の一人が孤立死したことは、入居時点の支援だけでは不十分であることを浮き彫りにしました。入居支援活動に加えて、社会的孤立の防止活動を法人のミッションとして再確認したところです。

今後の展開

もともと入居支援・社会的孤立防止事業は、収益を上げることを目的としていないため、活動資金は現在の事業収入では到底まかなえません。今のところ、活動資金は岡山県の事業委託金、各種助成金、補助金、寄附に頼っている状態です。寄附の増額のお願いなどの働きかけと、活動資金をまかなえる収益事業の立ち上げをしたいと考えています。

また、現在は支援するすべての案件について理事の中から担当者を決めています。担当理事制では、理事一人あたりの担当数やエリアを拡大すると、案件一つあたりの見守りの回数は減ります。逆に、頻繁に訪問したり電話をしたりすれば、多くの案件を担当することはできません。理事に代わり、NPOで各案件の担当者として支援の実務に当たる人材が必要です。

さらに、ネットワークによる入居支援の仕組みを、全国で使える普遍的なものにしたいと考えています。現在、おかやま入居支援センターで支援できる範囲は岡山県内に住む人だけです。平成26年度は、高知県と鹿児島県で同様に住宅確保の問題に取り組んでいる2団体とともに、情報交換や入居支援の仕組みの改善点の検討、関係機関への提言などをする予定です。今後、全国各地で誰でも取り組めるような入居支援活動とするための、基盤となればと思います。

誰もが安心して暮らせる街づくり

おかやま入居支援センターは、「誰もが安心して暮らせる街づくりの一翼を担うこと」を目的に掲げています。歳をとっていても若くても、障がいがあってもなくても、さまざまな生きづらさを抱えていても、誰もが安心して暮らせる街づくりのため、これからも活動していきます。

(いのうえまさお NPO法人おかやま入居支援センター理事長)


公式ホームページ
http://okayama-nyukyoshien.org/