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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年9月号

交通バリアフリーの推進と障害当事者団体の役割

今福義明

電動車いす使用障害者の都民の私が実際に行って見た交通バリアフリー(以下、BF)法(2000年)の効果の“光と影”を紹介する。

今から14年前の2000年(平成12年)に「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」(平成12年5月17日法律第68号)(通称・略称:交通BF法)ができた。

この法律の“光”の効果によって、電動車いす使用障害者の私は、次のように日本各地を、自由に(円滑に安全に)行けるようになった。今まで行ったことがある、また乗車したことがある地域や路線・車両をカウントすると、45都道府県(島根県、鳥取県を除く)。路線バス事業者100社。コミュニティバス129区市町村。私は、過去14年間ほぼ毎年、路線バスの低床バスやコミュニティバスに200~400回乗車できている。鉄道乗車(地下鉄・モノレール・新都市交通・路面電車・ケーブルカー・ロープウェイ含む)136事業者。旅客施設利用(駅・電停・バスターミナル・空港・港)約3000以上。また、自治体関与の交通BF法基本構想に積極的関与した区市は、新宿区・港区、茨城県土浦市は協議会委員参画、他都内7区2市、他府県2市である。

さらに過去13年間、都内乗り入れ鉄道事業者14社、主要バス事業者13社と毎年2~4時間に渡り、継続的に交通BF化改善について障害当事者団体として話し合っている。また、国交省の各部局(鉄道・バス・航空・建築)・(東京都)福祉のまちづくり係、都内9区の都市計画課とも継続的に話し合っている。

鉄道のBF化のインパクトは大きかった。駅の段差解消として、スロープとエレベーターの整備が交通BF法成立以降、格段に進んだ。都道府県の主要駅は、おおむね段差解消された。国内の全地下鉄の中で、段差解消未達成駅があるのは、東京都交通局と東京メトロだけとなっている。

日本の鉄道におけるBF課題は、次のような基盤的BF化を基軸に据えてこなかった点である。

欧米やアジアの主要鉄道事業者は、車いす乗客の第一義的BF化対策の目的として、「ホームと車両との段差と隙間」のBF化施工精度を、車いす乗客が単独で自力乗降できることに力点を置いていた。このBF化は、車いす乗客の自律移動感を満足させるものであり、社会参加意欲を促進させる効果があると考えられている。

しかし、日本は、交通BF法がありながら、こうはならなかった。日本は鉄道技術王国でありながら、前身が国鉄であるJR主導の車いす乗客等に対する特別扱い的方針に基づいていた。だから、いつまでたっても、「ホームと車両との段差と隙間」のBF化施工精度が低く、車いす乗客が単独自力乗降できないので、常に駅員の「ホーム渡り板」乗降介助が必要となる「駅員依存システム」が常態化してしまった。この「駅員依存システム」の最も不幸な効果は、さまざまな車いす乗客に対する鉄道事業者の「不接遇」「乗車拒否」の原因の温床となったことである。

路線バスは、日本独自のBF化展開をした。当初から、ノンステップバス導入のみ促進という補助金誘導策を設けておきながら、一方で、公共交通移動等円滑化基準で、低床バスという概念の中に、ワンステップバスも含めるというダブル・スタンダード政策を続けてきたことである。この結果、ノンステップバス総数の80%以上は都市部に集中し、都市部以外はワンステップバス・スロープ付バスばかりという地域間格差が生じてしまった。

この地域間格差の課題として、次のような深刻な状況が蔓延している。都市部では、ノンステップバスにBF化適合したバス停の歩道構造マウントアップ(15センチ)化がなされて、車いす乗客等の安全円滑乗降が確保された。しかし、都市部以外では、床高がノンステップバスより1段高いワンステップ床高(55センチ)となり、バス停の歩道構造は、マウントアップ(15センチ)化されるどころか、セミフラット(5センチ)化や、道路面と歩道面の同一平面位置からの急こう配過ぎるスロープ乗降を余儀なくされるようになってしまった。これは、足の不自由な高齢者やベビーカー使用者にも、乗降時、大変な不便・危険を強いていることを意味しているのである。

また国は、2020年度末に向けて、長距離バス・高速バス・リムジンバスのリフト付化整備目標を2,500台と定めている。しかし、2013年時点で、前記バスのリフト付化は調査集計中として、実質的な成果は全く示されなかったのである。

このような状況に対して、障害当事者団体は、どのような役割を持つことが求められているのであろうか?これまでにも行われてきたように、障害当事者団体の会員の交通関連バリア事象の訴えを丁寧に集約してまとめ、それを当該交通事業者、または関係行政に問題提起した後、改善に向けて協議することを継続的に行うことである。これまでは、力関係的には圧倒的に交通事業者の方が強いので、泣き寝入り的和解がほとんどだった。しかし、団体間のネットワークが強ければ強いほど、対抗的改善度合いが高い解決に至ることが分かってきている。このことからも、これまで以上に、この分野においては団体間のネットワーク化の必要性が高いと言える。

さて、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、くしくも同年は、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(平成18年6月21日法律第91号)(通称:BF新法)の2011年(平成23年)方針見直しによる目標達成年次であり、現行交通BF化実態の質量ともに、さらなるユニバーサルデザイン化、また、バージョンアップ化が大いに期待されているところである。

しかし、これまでの交通BF化の実態を概観する時、複雑な気持ちにさらされる。なぜなら、これまでに散々国も自治体も、障害当事者参画の重要性・必要性を掲げながら、過去14年間、ほとんど実質的な参画機会を設けてこなかったからである。

平成18年(2006年)10月に、千葉県で初めて制定され、その後、各地で制定されつつあるいわゆる「障害者差別解消条例」(条例の正式名称は、制定自治体によって異なる)と、2013年6月に制定された「障害者差別解消法」は、現時点では、交通BF分野の紛争事案に関しては、ほとんど効果が無さそうである。というのも、内閣府関連の同法・条例に対して、交通BF分野の紛争事案は、事業規模が桁違いに大きい公共交通事業者の意向・利害の代表である国交省事項なので、影響力が全く及ばないからだと推察されているからである。

その効果検証の事例として、鉄道や路線バス・航空機等による障害者の社会参加の機会を著しく奪う「乗車拒否」「搭乗拒否」等の人権侵害的障害者差別的事象に対して、全くと言っていいほど解決の糸口すら見出せていない。また、この悪影響効果として、本来なら、この分野における設備整備の仕様や接遇サービスのユニバーサルデザイン化のスパイラル・アップとして、大きく発展・拡充するはずであった各種公共交通移動等円滑化基準やガイドラインが、障害当事者団体の声を無視して2013年(平成25年)に作られてしまった。

また、2003年(平成15年)に、JR東日本とJR東海の首謀の下、国交省と関係学識経験者が創設した「『新幹線・特急』車両保有鉄道事業者による観光外国人障害者の電動車いす一律『乗車拒否』差別制度」の撤廃化が未解決なままである。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックを迎えるに当たり、国内のみならず、世界各国の障害者が一堂に集う競技観戦と観光において、近年の開催諸国よりは、そこそこに『おもてなし』されるとは予想できる。しかし、現実的な課題は、交通BF分野だけでも以上述べたとおり山積しており、容易に解決するとは思えない。

今後は、現状を見すえ、交通BF分野の国内的課題と、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた課題双方に注目しつつ、障害当事者団体としての力量を高めつつ、団体間のネットワークを促進していかねばならない。そして、少しずつでも改善に向けた要求と提案、たゆまぬ建設的協議を続けていくことが何より必要である。

(いまふくよしあき DPI日本会議交通問題担当)