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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年9月号

“新法”を具体的にするために

五十嵐真幸

平成23年の春、北海道旭川市のバス会社、旭川電気軌道(株)に電動車いすを利用する男性からある要望が持ち込まれた。

「路線バスを利用して友人に会いに行こうと思っている。介助者がいなくても乗車できるだろうか」

同社では以前、三輪または四輪の一人乗り電動車両「シニアカー」による乗車を断ったことがあり、この時の担当職員は「電動」と聞いて、このシニアカーと同じものと早とちりし、結果的に、この男性の要望を断る判断を下した。

男性は「公共交通機関として、何か違うのではないか」と感じ、北海道の外郭団体である「上川圏域障がい者が暮らしやすい地域づくり委員会」に相談し、バス会社を交えてあらためて協議することになった。

こうした一連の話を聞き、「電動車いすについて誤解があるのではないか」とピンと来た人たちがいた。同委員会の委員でもある只石幸夫会長をはじめとした、NPO法人カムイ大雪バリアフリー研究所の仲間たちだ。

旭川電気軌道は早速、障がい当事者も加わる同研究所のアドバイスを受け、23年の9月に北海道運輸局旭川運輸支局などの協力も得て、同社春光営業所で座学を含め、白杖の方や車いすの方への対応方法などを学ぶ「バリアフリー教室」を開催した。

さらに翌年3月、旭川市障害者福祉センター「おぴった」を会場に車いす利用者を含めた、より実践的な「勉強会」が持たれ、車いす利用者と直接やりとりや関わりを続けているうちに、実用の車いすは一人ひとりタイプが違い、固定するフックの位置が違うことなどを理解した。

また、車いす利用者自身が日ごろ、「乗車に時間がかかるため、ほかの乗客に申し訳ないという気持ちが強く、障がい者の多くが路線バスの利用を躊躇している」という現状も知った。

旭川電気軌道は、もともと日本で初めてノンステップ(低床)バスの大量導入に踏み切るなど、バリアフリーについての理解が深い企業だが、今まで障がいのある人たちと接する機会が少なかった。「障がいをもつ方たちと実際に接することによって、実にさまざまなことが分かった」と同社運輸課の矢野寿典課長は述べている。

こうした経験を踏まえ、平成24年、あらためてノンステップバスに40台のスロープを用意し、これで81台すべてのノンステップバスが車いす対応となり、より大きく前進した体制を整備した。

一方、カムイ大雪バリアフリー研究所や旭川市内の高等教育機関で組織する旭川ウェルビーイング・コンソーシアムなどの協力を得て開催している「バリアフリーおもちゃ博」で、2年連続関わり、昨年は「バリアフリーバス」を運行し、子どもたちにバリアフリーに対する理解を深める活動にも関わっている。

平成25年6月に「障害者差別解消法」が成立した。今回の旭川電気軌道と障がい当事者が直接関わるなかで次々生まれた新たな活動は、この法律をより現実的に具体化する意味で示唆に富む事例といえるのではないだろうか。

(いがらしまさゆき 特定非営利活動法人カムイ大雪バリアフリー研究所)