音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年9月号

当事者からの評価

地方農村部における重たい課題

頼尊恒信

204、191、479、730、728、604、4496、1257、529、4758。この数字は、私が住んでいる滋賀県湖北地域(長浜市、米原市地域)の北陸線の近江塩津駅から米原駅までの2012年度の1日平均旅客乗車人員数を順に並べた数である。「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(以下、「バリアフリー新法」と表記)の移動等円滑化の目標である1日当たりの平均的な利用者数が3000人以上の駅は、観光地でもある長浜駅と新幹線との結節駅である米原駅の2駅しかない。この3000人以上の駅は、「平成32年度までに原則としてすべてについて、段差の解消、視覚障害者の転落を防止するための設備の整備等の移動等円滑化を実施」されることになっている。しかし、湖北地域のその他の駅々は、3000人以下なので、「地域の実情に鑑み、利用者数のみならず、高齢者、障害者等の利用の実態を踏まえ、可能な限り実施」されることになっている。さまざまな要因の中で北陸線10駅中、6駅がバリアフリー化されているが、残りの4駅については、目途が立っていない。

私の住んでいる北陸線の木ノ本駅から隣の高月駅と余呉駅の双方の駅間距離は、ともに約4キロ弱ある。この距離は、大阪の梅田駅と難波駅の駅間とほぼ同等といえる。大阪の地下鉄の駅間であれば、4駅分の距離がある。また、東京や大阪などのように付近に別の路線が並行して走っていない。ダイヤにしても、ラッシュ時を除いて、長浜駅以北は1時間に1本しか列車が走っていない。長浜駅と米原駅以外は、無人駅か無人時間がある駅である。そのような関係上、「乗って増やそう湖北のダイヤ!」と長浜市の都市計画課交通対策室がキャンペーンを行わなければいけない現状がある。

このような環境の中で生活していると、自然とローカル線の駅に関心が高くなってくる。私自身も研究の一環として、全国の地方都市や農村部に出かけることが少なくない。その中で強く感じることは、京阪神地区からの直通列車(新快速)の乗り入れが始まったことにより、ホーム改修が必要となり、他の地区より、まだバリアフリー化が進んでいるということである。ところによれば廃線の危機にある路線もある。

私は、大阪で生まれ、学生時代を京都と熊本で暮らし、就職のために湖北の地に移り住んだ。そのような経験上、政令指定都市の交通の便の良さは身に染みている。都心部は、どんどんバリアフリー化されていく。湖北地域に移り住んで分かったことは、バリアフリー化だけではなく、路線の存続等を市民の一人として訴え続けなければいけない地域がかなり多くあるということである。そのような地域は、高齢化率も高いといえる。つまり障害者や高齢者という交通弱者でも、居住地によって、その障壁(バリア)が次第に解消されていっている地域もあれば、減便や廃線や廃路線という語句に敏感にならなければいけない地域が存在するということである。バリアフリー新法は「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進」を謳った法律であったはずである。しかし現実には、高齢化率が高い地方農村部は、移動円滑化が計られることより、現状を維持することに大きな力を割かねばならない現状がある。

減便や廃線とまで言わなくても、無人駅や無人時間がある駅が地方農村部はいうまでもなく、関西の都市部にも広がっている。あるローカル線同士の結節駅では、昼間だけしか駅員が常駐しておらず、バリアフリー化された乗り換えルートがあるにもかかわらず、駅員が居ないという理由で乗り換えができない時間があり、迂回路を利用せざるを得ないという事態が起きている。

バリアフリー新法の施行から8年が経った今日であるが、地方都市や地方農村部では、湖北地域のように駅舎の改良が進んだ地域がある一方で、駅の人員削減が進んでいる地域も少なくない。旧法である交通バリアフリー法が成立した当初、このような都市部と農村部との格差が、こんなにも広がるとは誰が想像できたことだろうか。

「格差社会」という言葉をよく聞くが、バリアフリー化の問題も例外とはならなかったようだ。本来、バリアフリー化において移動等を円滑化し、格差を減らしていこうという目的で成立した法律によって新たに生まれた格差。この格差をどのように解消していくことができるかについては、あまり議論がなされていない。都市圏在住の人々が中心となってバリアフリー化を議論してきたことによる結果が、この「格差」として明確に現れたのではないか。

現状を悲歎していても話が進む訳ではない。私たち地方農村部の住人にとって、限られた予算や社会資源の中で、取り残され、格差が広がっていく現状をどのように改善していくのかを考えることは、その土地を愛し住み続けようとするための必須条件となっている。

私自身も、この「格差解消への問い」について、決定打と呼べる回答を持ち合わせているわけではない。しかしながら、両手をこまねいて、ただ時が経つのを呆然と見守っていることだけはしたくはない。何とかして打開しようと思えば思うほど、複雑な課題が山積している。実際に湖北地域には限界集落がいくつもあり、長浜市旧木之本町地域以北では、人口流出に歯止めがかからない現状がある。そのような地域において、公共交通機関のバリアフリー化を含めて地域をどのように再構築していくのか、大がかりな将来設計が必要となっている。

地域の再構築という重たい課題ではあるが、それは実に考え甲斐のある課題でもある。これからも「地域づくり」という課題を考えつつ、1日1日を生きていきたいと強く願っている。

(よりたかつねのぶ NPO法人CILだんない事務局長)