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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年9月号

当事者からの評価

弱視者にとっての「交通バリアフリー」とは?

並木正

私たち弱視者問題研究会は、視覚障害者の7割以上と言われる弱視者の生活環境の改善や福祉の向上を目指し、活動している当事者を中心とする団体です。一言で弱視者といってもその見え方は十人十色。視力や視野、色覚、明暗に対する順応性などさまざまな視機能が一人ひとり異なります。また、加齢により視機能が低下している高齢者も増えており、交通機関や道路上の安全性や利便性を考える上で、見えにくさに配慮することは今後ますます重要になってくると考えられます。そこで本稿では、現在の弱視者が感じている移動に伴う不便さと私たちが求める解決策についてまとめてみます。

1 駅や公共交通機関に関するバリア

弱視者にとっての安全性という観点では、点字ブロックの色の問題があります。弱視者は点字ブロックを足の裏で確認するのではなく、目で確認することが多いのです。したがって、一時大変流行した床地の色と同様に塗装された点字ブロックは大変不便なものでした。基本的には黄色が望ましいのですが、周囲がクリーム色のように黄色に近い色の場合は点字ブロックが視認しづらくなります。屋内で常時一定の明るさが保てる場合は、点字ブロックをこげ茶色のような黒っぽい色にするか、点字ブロックの両端を濃い色で囲むなどコントラストがはっきりするような配慮が必要と考えています。

また近年、節電のため駅の照明なども一部消されているところがありますが、場所によっては暗くなり過ぎて、歩行に不安を感じる弱視者もいます。一方で、羞明のある弱視者にとっては「節電でちょうど見やすくなった」というケースもあり、弱視への配慮の難しさも感じているところです。階段や通路の明るさは「○○ルクス以上○○ルクス以下」というように暗すぎず、また、明るくなり過ぎないような基準が必要ではないかと思います。また明るい所があったり、暗い所があったり、まだら状態になっているのも見づらくなります。

それから、私たち弱視者が駅を利用する時に表示が見つけられず右往左往することがあります。特に、複数の鉄道会社が乗り入れているターミナル駅や構内に商業施設(いわゆる駅ナカ)がある駅などは表示方法にバラつきがあり、お店の看板や商品案内に埋もれてしまうことがあります。また、目を近づけて見ることができないような高い位置に設置されていることもあります。サイン表示はできる限り目の高さに設置し、コントラストのはっきりした視認しやすい文字で示していただけるような配慮を希望しています。

利便性の観点では、音環境の問題が挙げられます。鉄道によっては、駅に到着する前に「間もなく○○駅に到着します」というアナウンスがなく、ドアが開いて、ホーム上の放送ではじめて目的の駅に到着したことに気付くことがあります。

また、障害者には鉄道やバスを利用する時に運賃の割引制度がありますが、この割引の基準が鉄道事業者ごとに違うため、戸惑うこともよくあります。重度の障害者が単独で鉄道を利用する時、ある鉄道会社によっては、一駅区間でも半額になり、別の鉄道会社では、100キロ以上の区間乗車ならば半額になるといったようなケースです。これは慣れていれば分かるでしょうが、旅行先など初めて利用する鉄道では全く分かりません。さらに介助者を伴う時には、首都圏ではICカードを使えば有人改札での精算が可能になりましたが、その他の地域では、今でも半額切符を2枚買わなければなりません。子ども用Suicaのように、半額だけ引き落とされるICカードを発行し、障害者でもスムーズに改札が通過できるようになることを望んでいます。

2 道路上を歩く時のバリア

自動車を運転できない弱視者にとって目的地まで安全に、なおかつ確実に歩いていくことは日常生活の中でとても大切な要素です。しかし、たとえば横断歩道を渡る時、道路の反対側にある歩行者用信号が見えないことがあります。夜は信号が光りますので、見やすいのですが、昼間で日差しが強い時はほとんど信号が変わったことを確認することができません。このことはあまり知られていないように思います。この対策として、横断歩道の手前で見ることができるLED付き音響装置(補助信号機)などが開発され、実際に一部の自治体で設置されはじめています。音響信号やエスコートゾーンの整備と共に見やすい信号についての環境整備も求められるところです。

音響信号についても課題があります。大きな道路を横断する時やスクランブル交差点では、あまり音響信号が有効な誘導手段にはなっていません。警察庁が定めている現行のスピーカーの設置高さの基準の3.3メートル程度というのをもっと低くし、指向性の強い音を出してもらえれば、音を目標に容易に横断することができるようになり、効果的に機能が発揮できると思います。

弱視者は五感をフル活用し、時にはカンを頼りに、目的地にたどり着くようにしています。それでも案内板がよく分からなくて予定の時間に到着できないことがありますし、通路の下り階段の段鼻に目印がなくて、ヒャッとすることがあります。

多くの方の知恵を集めて、より安全で、確実に目的地に到着できるように環境整備されることを望みます。

(なみきただし 弱視者問題研究会代表)