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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年9月号

ワールドナウ

障害インクルーシブ防災
:ポスト兵庫行動枠組(HFA2)に向けて

可児さえ

去る6月24日(火)から26日(木)まで、バンコクで行われた第6回アジア防災閣僚会議は、2015年3月に仙台市で行われる、第3回国連世界防災会議に向けた準備会議の一環として行われた。2015年より20年間または30年間1)にわたって施行される新しい世界防災行動枠組、また2015年以降の持続可能な開発戦略に対して、兵庫行動枠組(2005―2014)では全く触れられなかった社会的な問題、たとえば、障害者の地域防災活動への直接参加や高齢化への対応、女性の防災・災害マネジメント活動へのさらなる参加などを求めて、現在、NGOや市民団体が活発に活動している。

DiDRRN(障害インクルーシブ防災ネットワーク)2)は、グローバルに活動する防災専門の国際NGOと障害分野に特化したNGO、また、アジア太平洋地域の当事者団体(障害NGO)が関わり、2012年に設立された。現在は、2015年に開催される第3回国連世界防災会議に向けて障害インクルーシブな防災・災害マネジメントに関する啓発活動を行なっている。

また、アジア太平洋地域の途上国13か国3)を中心に、障害者参加型地域防災計画のモデル事業や、特別学級への防災教育教材の開発、緊急時の障害者に対する救命支援のトレーニングを自治体や軍で行うなど、障害当事者だけでなく、政府や自治体、各医療・教育機関とも協働しながら、インクルーシブな防災政策の啓発活動も行なっている。

2012年以前は、障害分野の人たちは防災に対する関心や取り組む優先順位が低かったが、「アジア太平洋障害者の「権利を実現する」インチョン戦略」の目標7(障害インクルーシブな災害リスク軽減および災害対応を保障すること)や、東日本大震災後のデータ(障害者の死亡率が障害のない人の2倍4)により、障害と防災の関係の重要さや2015年以降長期にわたって推進される「持続可能な開発ゴール(SDG)」との関連性への関心が高まってきている。せっかく投資しても度重なる災害で開発努力が無になるケースも多く、持続可能な開発は気候変動への取り組みも含めて、災害リスクの軽減が欠かせないという論調が主流になってきている。

しかし世界の主流な開発分野では、女性や子どもの権利に比べ、障害者の権利に対する認識はまだ低く、特に途上国では、まだまだ平常時から障害者が防災政策に参画する権利を認めるケースはまれである。災害時は皆が一斉に「被災者・困窮者」になるため、障害者は救援対象の「その他大勢」としか認識されない場合が多く、避難の遅れや避難後の苦労は絶えない。そのため、障害者が平常時から主体的に政策レベル、地域防災レベルに参加するのはとても大切なことなのだが、その機会を得ることは難しい。

アジア太平洋地域は自然災害が最も多く、世界中の障害者の60%がアジア太平洋地域に住んでいると言われている5)。その多くは開発途上国で、中でも障害者とその家族は特に貧しく、貧困ラインを下回っている場合が多い。平常時でも行政の支援がほとんど期待できないこのような地域では、近所単位での防災準備が望ましい。大きな「まち」単位では、机上で計画を立てても、実際の緊急時には障害者の支援には手が回らず、結局、家族または近所単位で行なっているのが現実である。

このような現状の中で、障害者とその家族が積極的に地域の防災準備活動等に参加できるか否かは、日ごろどのようにコミュニティーに受け入れられているかにかかっている。どんなに軍が優秀でも、政府機関が準備に手を尽くしていても、災害発生から数時間という生死を分ける時間に動けるのは、やはり「お隣さん」なのである。これは日本でも同様であろう。

このように考えると障害インクルーシブな地域防災は、CBRにつながっているように思える。どんなにアクセシビリティが整備されようとも、そこに「人とのつながり」がなければ、緊急時には救える命も救えない。「人が人を救う」これは、先のアジア防災閣僚会議の分科会で発表した、世界盲ろう者連盟事務局長の福田暁子さんの言葉である。

このように考えると、アクセシビリティが絶望的な途上国であってもできることはある。現在、マルティーザ・インターナショナルが、ベトナム中部47村で行なっている障害インクルーシブな地域防災のモデルは、まさに「CBR的防災」である。村の障害者やその家族が全員参加して作ったハザードマップを基に、村が洪水に遭った際の避難警告を出すタイミング、その手段(ろう者や高齢者の世帯には直接警報を伝えるなど)、早期避難支援を村長やその他の代表者たちと一緒に考える。各村にボランティアのレスキューチーム(消防団のようなもの)を作り、いろいろな障害をもった人たちのニーズに沿った応急処置やコミュニケーションの方法を習い、村の災害対策プランに反映させる。川の中でのボートを使った救命の演習では、肢体不自由の人も自ら水に飛び込み、「救命される」練習に参加するなど、「参加型実践」が両者(障害者と援護者)にとって有益であることが分かった。障害者もまさに老若男女もそれぞれが、自分たちができることに気づき、自ら避難警告を近所に伝える側に回ったり、積極的に村の災害対策委員会のメンバーになったり、そのプロセスを通して村全体のエンパワメントになったように思う。

最近、行なったプロジェクト評価で印象に残った言葉を、以下に紹介する。

“先日、村の寄り合いに、ある障害者の男性を招待するのをつい忘れてしまった。翌日、その男性が家に来て、「何で呼んでくれなかったんだ」と私に文句を言った。こんなことは以前はなかったことだ。確かに彼ら(障害者)の中で何かが変わってきている”(ソイ バン トランさん、クァンナム州ドンホア村のレスキューチームメンバー)。

誰にも頼られず、誰にも頼れないという思いで暮らしていた人たちが、この活動を通して、自分たちが参加する権利を知り、また自分たちができることを知り、行動していく。受け取るだけではなく、与えることにより地域全体が活力を得ていく、これが「コミュニティー・レジリエンス」(地域の底力・回復力)ではないだろうか。このような草の根レベルの活動から徐々に成果が広がり、現在は、中央政府でも「インクルーシブ防災」は認識され、今後は、ベトナムの国レベルの政策に加えていく予定である。

国際的なレベルでも、DiDRRNは日本財団やリハビリテーション・インターナショナル(RI)、インターナショナル・ディスアビリティ・アライアンス(IDA)、ESCAPなどと連携、協働しながら2015年の大事な節目に向けて活動している。

来年の国連世界防災会議を主催する日本政府は、東日本大震災で障害者の死亡率が健常者の2倍以上であったという経緯も踏まえてか、障害インクルーシブな防災に理解を示し、先日、ジュネーブの準備会議で提出された政府声明書で、障害者と防災に関してはっきりと言及した。日本は障害者権利条約に批准したばかりだが、国連世界防災会議では、仙台の会場をどこまでバリアフリーにできるか、会議内容の情報アクセシビリティをどうするのかなど、大きな課題が残されている。今後6か月の動きにぜひ注目していきたい。

(かにさえ マルティーザ・インターナショナル所属インクルーシブ防災アドバイザー、DiDRRNメンバー)


【注釈】

1)2014年8月現在は、まだ何年間の施行になるのか決まっていない。今回は前回よりも長く20~30年と言われている。

2)www.didrrn.net

3)ベトナム、タイ、インドネシア、フィリピン、ミャンマー、パキスタン、バングラデシュ、フィジー、バヌアツ、トンガ、ソロモン諸島、キルバス、サモア

4)http://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/youengosya/h24_kentoukai/2/6_1.pdf

5)ESCAP Fact Sheet, page 11, http://www.unescap.org/esid/psis/FactSheets.pdf