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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年10月号

障害のある学生の修学支援に関する文部科学省の取組

文部科学省高等教育局学生・留学生課

1 はじめに

我が国の高等教育段階(大学、短期大学、高等専門学校)においては、障害のある学生の在籍者数が急増しており、独立行政法人日本学生支援機構(以下、「機構」という)の調査(注1)によると、その数は平成20年度に6,235人であったのが、平成25年度には13,449人となり、実に5年間で2倍以上に増加しています。この数字を障害種別で見ると、特に発達障害のある学生の数が同じ期間に299人から2,393人と約8倍に増加し、極めて顕著な伸びを見せています。

障害者支援に関する国内外の動きに目を向けると、障害者についての初めての国際条約である「障害者の権利に関する条約」が平成18年12月に国連総会にて採択され、我が国も、平成19年9月に署名をしました。同条約の第24条には、「締約国は、障害者が、差別なしに、かつ、他の者との平等を基礎として、一般的な高等教育(中略)を確保する。このため、締約国は、合理的配慮が障害者に提供されることを確保する。」と、高等教育段階での障害者の修学支援に関することが盛り込まれています。我が国では、平成26年1月の同条約に関する批准書の国連への寄託を経て、同年2月に効力が発生することになりました。

この批准書の国連への寄託に先立ち、我が国における関連法令の整備が進められました。その主なものとして、平成23年8月の「障害者基本法」の改正法の施行があります。この改正法の第4条では、「社会的障壁の除去は(中略)、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない。」とされ、障害者の権利に関する条約に記載のあった合理的配慮という考え方が取り入れられました。

また、平成25年6月には、障害者基本法第4条に規定された「差別の禁止」を具体化し、それが遵守されるための具体的な措置等を規定した「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(障害者差別解消法)が制定されました。この法律では、障害者基本法における「合理的な配慮」の提供が、国公立の大学・高等専門学校を含む国や地方公共団体等においては「法的義務」、私立の大学・高等専門学校を含む事業者においては「努力義務」とされました。さらに、今後、内閣府を中心に策定される予定の、政府としての障害を理由とする差別の解消に向けた施策の基本的な方向等を示した「基本方針」に基づき、国公立の大学・高等専門学校を含む国や地方公共団体等においては「国等職員対応要領」を策定し、私立の大学・高等専門学校を含む事業者においては主務大臣により「対応指針」が示されることとなります。

このように、障害のある学生の数が急増していることと、国内外の関連法令の制定・施行によって、これらの学生への合理的配慮の提供が義務化されることに伴い、各大学等における障害のある学生の受入れや修学支援体制の整備が、これまでになく強く求められることとなりました。

これらの近年の国内外における状況を踏まえ、文部科学省では、平成24年6月に「障がいのある学生の修学支援に関する検討会」(以下、「検討会」という)(注2)を発足させ、同年12月に検討の結果を「障がいのある学生の修学支援に関する検討会報告(第一次まとめ)」(以下、「第一次まとめ」という)として取りまとめました。以下、本稿では、本検討会及び第一次まとめの概要に加え、文部科学省と機構が行う障害のある学生の修学支援のための主な取組についてご紹介します。

2 障がいのある学生の修学支援に関する検討会

本検討会は竹田一則筑波大学大学院人間総合研究科教授を座長とする、障害のある方々を含む計15人の大学・高等専門学校、障害者団体、企業の関係者を構成員とし、多様な観点、立場からの意見が示されました。全9回の会合では、各構成員からの報告や、構成員同士の意見交換に加え、大学や企業からのヒアリングも実施しました。第一次まとめでは、機構の調査に基づく大学等における障害のある学生の現状について述べたのち、合理的配慮の対象範囲、合理的配慮の考え方、国・大学等の関係機関が取り組むべき短期的課題、中・長期的課題等についての検討結果を盛り込み、最後に今後の取扱い・課題について提言をしました。

障がいのある学生の修学支援に関する検討会構成員

 石川准 静岡県立大学国際関係学部教授
 巖淵守 DO-IT Japan事務局長
 大島友子 日本マイクロソフト株式会社技術統括室マネージャー
 近藤武夫 東京大学先端科学技術研究センター講師
 白澤麻弓 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター准教授
 鈴木慶太 株式会社Kaien代表取締役
 高橋知音 信州大学教育学部教授
◎竹田一則 筑波大学大学院人間総合科学研究科教授
 殿岡翼 全国障害学生支援センター代表
 中野泰志 慶應義塾大学経済学部教授
 広瀬洋子 放送大学学園教授
 福永博俊 長崎大学工学部電気電子工学科教授
 松尾秀樹 佐世保工業高等専門学校教授
 吉永崇史 富山大学学生支援センター特命准教授
 渡辺崇史 日本福祉大学健康科学部准教授

五十音順 ※◎は座長

(1)大学等における合理的配慮の対象範囲

第一次まとめでは「学生」の範囲を大学等に入学を希望する者及び在籍する学生、科目等履修生・聴講生等、研究生、留学生及び交流校からの交流に基づいて学ぶ学生等も含むとし、「障害のある学生」の範囲を「障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にある学生」としました。

また、学生の活動の範囲を「授業、課外授業、学校行事への参加等、教育に関する全ての事項」を対象とし、教育とは直接に関与しない学生の活動や生活面への配慮は、一般的な合理的配慮として本検討の対象外としました。

(2)大学等における合理的配慮の考え方

合理的配慮は、大学等が個々の学生の状態・特性等に応じて提供するものであり、多様で個別性が高いものであることから、その内容すべてを網羅して示すことが困難なため、大学等において提供すべき合理的配慮の考え方を以下のとおり項目別に整理しました。

1.機会の確保:障害を理由に修学を断念することがないよう、修学機会を確保することが重要。また、教育の質を維持することが重要。

2.情報公開:障害のある大学進学希望者や学内の障害のある学生に対し、大学等全体としての受入れ姿勢・方針を示すことが重要。

3.決定過程:権利の主体が学生本人にあることを踏まえ、学生本人の要望に基づいた調整を行うことが重要。

4.教育方法等:情報保障、コミュニケーション上の配慮、公平な試験、成績評価などにおける配慮の考え方を整理。

5.支援体制:大学等全体として専門性のある支援体制の確保に努めることが重要。

6.施設・設備:安全かつ円滑に学生生活を送れるよう、バリアフリー化に配慮。

(3)関係機関が取り組むべき課題

大学等及び国や独立行政法人等の関係機関が取り組むべき課題を短期的課題と中・長期的課題に分け、以下のとおり整理しました。

なお、ここで示すもの以外は合理的配慮として提供する必要がないというものではなく、個々の学生の障害の状態・特性や教育的ニーズ等に応じて配慮されることが望まれます。

また、本検討会においては、教育とは直接に関与しない学生の活動や生活面への配慮については、大学等において提供すべき合理的配慮の対象ではないものとしましたが、以下の整理を踏まえて、各大学等において判断することが望まれます。

1.短期的課題

○各大学等における情報公開及び相談窓口の設置

・各大学等は、受入れ姿勢・方針を明確に示し、広く情報を公開することが必要

・相談窓口の統一や支援担当部署の設置が必要

○拠点校及び大学間ネットワークの形成

・国は、優れた取組を実施し、近隣地域の大学の支援体制向上に積極的に寄与する大学等を地域における拠点校として整備することが重要

2.中・長期的課題

◯大学入試の改善

◯高校及び特別支援学校と大学等との接続の円滑化

◯通学上の困難の改善

◯教材の確保

◯通信教育の活用

◯就職支援等

◯専門的人材の養成

◯調査研究、情報提供、研修等の充実

◯財政支援

(4)今後の取扱い・課題

第一次まとめの最後では、障害のある学生の修学支援に関しての今後の取扱い・課題について、下記のとおり述べています。

○すべての学生や教職員への理解促進・意識啓発を行うことで、各大学等の受入れ体制の温度差をなくすことが重要であり、現時点における一つの指針として活用されるよう本報告を取りまとめた。

○今後、各大学等の状況等を踏まえ、大学等における種々の事例・知見を蓄積しつつ、さらに具体的な検討を進めていくことが必要。

○また、本報告で整理した合理的配慮の考え方についても、他の分野における状況や支援技術の進展等に応じ、見直しを図ることが必要。

○その他、合理的配慮決定において合意されない場合の解決手段、通学等の課題については、引き続き検討。

3 文部科学省及び機構の取組

文部科学省では、これまで述べた検討会の他にも、大学等の学生支援を担当する教職員が参加する会議等の場で、障害のある学生支援の現状と大学等に求められることについて紹介し、また、各大学の設置形態に合わせて関連予算を手当てする等、各大学等の取組の充実を促しています。

機構においては、毎年「障害のある学生の修学支援に関する実態調査」を行い、各大学等の実態を把握・分析するとともに、以下のような研修会やセミナー等を開催し、大学等における障害のある学生の修学支援の充実に資することとしています。すでに終了しているものもありますが、参加を希望される方々においては、機構のホームページで詳細を確認することができます。また、これら以外にも、さまざまな取組を実施していますので、同じく機構のホームページをご覧ください。

◯障害学生支援ワークショップ

・平成26年8月29日(金)、於:東京都

・概要:大学等の担当教職員が課題として抱える個別事例について、専門的な見地を持つファシリテーターの助言を得ながら、参加者同士が意見交換を実施するワークショップ。平成26年度は発達障害のある学生の修学支援をテーマに実施。

◯障害学生支援実務者育成研修会

・平成26年8月18日(月)・19日(火)、於:東京都
 平成26年8月21日(木)・22日(金)、於:大阪府 他

・概要:講義・演習形式のカリキュラムにより、障害学生支援の実務者を育成するための研修会。基本的な知識の修得や対応の向上等を図ることを目的とした基礎プログラムと、障害学生支援を担当する教職員個々の専門的知識の向上や実践面の向上を図ることを目的とした応用プログラムに分けて実施。

◯体制整備支援セミナー

・平成26年11月5日(水)、於:宮城県
 平成26年11月10日(月)、於:北海道

・概要:障害者差別解消法の施行に向け、各大学等の管理者・実務担当者等の理解促進・普及啓発を図ることを目的とするセミナー。来年度以降は順次他のブロックで実施する予定。

4 まとめ

本稿でご紹介した第一次まとめが出された後も、我が国の障害者施策に関してはさまざまな動きや進展があり、大学等が対応すべき事柄も複雑化しています。各大学等においては、検討会での議論及び第一次まとめ等を活用しつつ、すでに所属する障害のある学生や、入学を希望する障害のある生徒・学生一人ひとりのニーズ等を踏まえ、これらの学生の修学支援のための取組の推進及び体制整備が、喫緊の課題として求められています。


注1:「障害のある学生の修学支援に関する実態調査」独立行政法人日本学生支援機構ホームページ
http://www.jasso.go.jp/tokubetsu_shien/chosa.html

注2:「障がいのある学生の修学支援に関する検討会」文部科学省ホームページ
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/24/12/1329295.htm