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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年10月号

広島大学における障害のある学生への支援の現状と課題
~最近の動向を中心に~

山本幹雄

はじめに

広島大学では、「すべての学生に質の高い同一の教育を保障する」ことを基本理念として、障害がある学生(以下、障害学生)に対して、アクセシビリティに関する合理的な配慮・調整・支援を行なっている。大学教育における「アクセシビリティ」としては、施設・設備や情報へのアクセス・利用しやすさだけではなく、授業をはじめとする学習機会への参加しやすさ・学びやすさが重要になる。

しかしながら、大学で学ぶ学生は多様化しており、視覚や聴覚や運動機能に関する障害だけでなく、脳の障害や精神疾患など、多様な障害や不自由に起因する修学上の困難が知られるようになってきている。大学院生や社会人学生や留学生の中にも配慮や支援を必要とする学生が増えてきており、大学における障害学生の支援ニーズは多様化とともに高度化の傾向にあると言える。視覚情報や音声情報に関わる情報アクセシビリティや、移動円滑化や介助などの物理的アクセシビリティだけでなく、社会的スキルに関わるケア、言語や文化や制度に関わるケア、医療的なケアや精神的ケアなど障害学生支援の文脈は多岐にわたってきている。

日本学生支援機構が全国の大学等(大学・短期大学・高等専門学校)に対して行なっている実態調査の報告書によれば、全国の大学等に在籍する支援障害学生(学校に支援の申し出があり、それに対して学校が何らかの支援を行なっている障害学生)の数は年々顕著に増加しており、今後も増加傾向は続くものと考えられる。

障害種別に見ると、ここ数年、視覚・聴覚・言語・肢体不自由に関しては大きな増加はないが、発達障害やその他(知的、精神など)の障害の増加が著しい。発達障害をはじめとして、「その他」という分類からも分かるように、以前は障害学生支援の文脈につながりにくかった支援ニーズの顕著な増加が最近の傾向である。

本稿では便宜上、視覚・聴覚・言語・肢体不自由に関する支援ニーズのことを「従来型ニーズ」と呼び、それ以外の障害による支援ニーズのことを「潜在型ニーズ」と呼ぶことにする。

広島大学における支援体制と人材育成の取り組み

広島大学では、平成10年に障害学生の支援に関する大学規則を定め、平成12年度から現在も行なっている障害学生に対するPDCA型一貫支援を開始した。平成13年度には支援室(現アクセシビリティセンターの前身)および支援関連授業を開設、平成18年度からアクセシビリティリーダー育成プログラム(ALP)を開始し、恒常的なアクセシビリティ推進やアクセシビリティに関する人材育成にも力を入れている。

身体等に障害があり、修学上の不自由や困難が予想される学生は、所属する学部や大学院に対して支援の申請を行うことができる。大学規則で、「障害学生が志望又は所属する学部、研究科又は専攻科(以下、所属学部等)が主たる責任を持つものとする。」「アクセシビリティセンター会議は、関係部局間の調整を行うものとする。」と定め、責任の所在と全学的な調整について明記している。全学的な調整機関であるアクセシビリティセンター会議は、各学部等から選出される支援委員(教員)および専門委員(有識者、関係部局教員等)で構成される。

関係教職員には、支援委員名で「配慮願い」が配布される。「配慮願い」には、相談窓口として支援委員とアクセシビリティセンターの連絡先が記されている。ノートテイクや点訳、支援機材の手配等は、所属学部等を支援する形でアクセシビリティセンターが行なっている。大学が責任を持って支援を行う範囲は、オンキャンパスが原則となるため、オフキャンパス対応については、地域や社会資源との連携が必要になる。

支援障害学生が利用する支援の内容にはさまざまなものが考えられるが、大学生活や授業で本人と直接関係する学生や教職員など「直接的な関係者」による配慮だけでなく、ノートテイカーやガイドヘルパー等の「特別な支援者」を要する支援内容も少なくない。「潜在型ニーズ」に対しても、ノートテイカーやTA(Teaching Assistant)などの人的サポートが必要になるケースが増えており、人的サポートに対する需要増を想定した取組が必要である。

平成18年度から広島大学で開始したALPは、「教育課程」「資格認定」および資格取得者を対象とした「インターンシップ」「キャンプ」で構成される人材育成・活用プログラムである。

「教育課程」は、オンライン講座×2で構成される「第1教育課程」と、実習×2+講義1+演習1で構成される「第2教育課程」からなる。実習の科目名は「障害学生支援ボランティア実習」といい、本学に在籍する障害学生の修学支援活動を行う実習科目である。「資格認定」は2級AL資格と1級AL資格があり、資格認定試験を例年12月に学内で実施している。1級AL認定試験の受験要件は第1教育課程の修了、1級AL認定試験の受験要件は第2教育課程の修了としている。

認定試験に合格すると広島大学の推薦を経て、AL育成協議会から資格認定がされる。AL育成協議会は、平成21年度に発足した産学官連携による協議会で事務局を広島大学アクセシビリティセンター内に置いている。平成26年度現在の協議会会員は、全国6大学3企業1行政機関であり、平成25年度は、全国5大学2企業でALPが実施された。

広島大学では、ALPを核とするさまざまなアクセシビリティ推進事業を行なっており、ALPで育成された人材は、教育課程や資格取得者の学内インターンシップの一環として「特別な支援者」としても活躍している。ALPには、学生だけでなく教職員もチャレンジすることができるため、ALPがアクセシビリティに関するFD・SDの役割も果たしている。

広島大学における「潜在型ニーズ」と支援の現状

広島大学で支援体制が整備され、本格的にPDCA型一貫支援がスタートしてから今年度で15年目になる。身体等に障害があり支援を申請する学生のうち視覚・聴覚・運動機能に関するものは、それぞれ5、6人程度でこの15年間安定しているが、ここ数年は、「潜在型ニーズ」のウェイトが顕著に増加してきており、全体的な支援申請数も増加傾向にある。

「潜在型ニーズ」には、コミュニケーション特性に関する内容、ソーシャル・スキルに関する内容、注意特性や記憶特性に関する内容、精神的ケアに関する内容、感覚過敏に関する内容、アレルギーや体調不良時への対応に関する内容、性別の取り扱いに関する内容等が含まれる。就職支援や学習支援や一時的な支援等、目的や期間を限定した支援ニーズも増えており、支援の申請を経ない事案も増えている。

「潜在型ニーズ」がある学生の中には、過剰な配慮や支援に対して抵抗感を抱いている学生も少なくない。特に、コミュニケーション上の配慮が必要な学生の場合、「配慮願い」の内容に、過剰な配慮に対する抵抗感や自然な対応に関する配慮を盛り込むことが多い。また、ストレスやオーバーワークへのケアも「配慮願い」の内容に盛り込まれることが多くなっている。定期面談などの日常的なサポートに加えて、あらかじめ保健管理センターや地域の医療機関に学生をつなげておくと、予防的な対応が円滑になる。

広島大学では、支援の申請や相談があった学生で、精神的ケアや医療的ケアが必要になる可能性がある場合は、あらかじめ保健管理センターに顔つなぎを行い、地域の医療機関に主治医を見つけておくことを薦めている。

「潜在型ニーズ」では、「移行支援」がより重要になってきている。「移行支援」には、高校から大学へ進学してくる際の「入学移行支援」と、進学や就職につなげる「卒業移行支援」がある。入学直後は、環境も大きく変わり、オリエンテーションや履修登録などの重要な行事が待っている。

「従来型ニーズ」の場合は、入試の段階で支援ニーズを把握でき、支援の申請→合格後相談→配慮願いの送付といった手順を踏んで、ばっちり対応できるケースが多いが、「潜在型ニーズ」のある学生は、行事の直前や直後に支援ニーズが明らかになることも少なくない。正規のプロセスを経ていては、対応が間に合わないため、手続きが前後することもある。具体的な支援申請や支援ニーズの表面化がなくても、あらかじめ多様な学生が修学していることを想定した対応を検討しておく必要がある。

「従来型ニーズ」がある学生の進学や就職は比較的円滑であるが、「潜在型ニーズ」がある学生の就職支援には課題が少なくない。無事就職できたとしても、就労環境に適応できずに退職するケースもある。大学内で対応できることには限界があり、特に就労支援においては、社会資源や企業との連携強化が必要になってきている。広島大学でも、就労支援事業所と連携した取組みを開始し、就労支援における学内外の連携体制の整備を図っているところである。

課題とこれからの取り組み

大学内で完結する対応には限界があり、社会に開かれた形での取り組みがより重要になるものと考えられる。たとえば、日常的な介助が必要な学生や医療的ケアや精神的ケアが必要な学生に対しては、オフキャンパス対応の在り方に課題がある。たとえば、ソーシャル・スキルに関する困難がある学生の就職支援には、就職後のケアも含めて課題がある。また、ノートテイクやガイドヘルプなど人的支援に対しては、これまでALPを核とする取り組みで対応してきたが、たとえば、フィールドワーク等学外で行われる授業への対応には課題がある。これらの状況を踏まえると、地域資源や企業との連携が重要になってくるものと考えられるが、一大学の支援ニーズだけでは、持続的な連携につながりにくい内容のものもある。取り組みを持続可能なものにしていくためには、ある程度のスケールが必要である。

そこで、広島大学では、広島地区・中国地区の大学・初等・中等教育機関や地域の専門機関や福祉資源や企業と協力して、地域ネットワーク(UE-Net 広島・中国)の構築を進めている。UE-Net 広島・中国では、地域の初等・中等・高等教育機関の支援ニーズを集約することと、地域の教育機関・専門機関・福祉機関の知的・人的・物的支援リソースをシェアすることによるスケールメリットを見出していくこと(支援リソース・シェアリング)と、初等教育から社会までの滑らかな接続を図ることを目的に掲げている(図1)。

図1 UENET広島・中国と支援リソース・シェアリングの概念図
図1 UENET広島・中国と支援リソース・シェアリングの概念図拡大図・テキスト

もう一つの課題として、国際化対応が挙げられる。広島大学でも国際化・グローバル化の取り組みを進めており、今後、障害のある留学生の支援ニーズ増加が予想される。日本人の学生に対して行なっている支援の枠組みがそのまま適用できるものも少なくないが、言語の問題もあり、情報支援や社会資源の活用においては、現行の支援体制では対応が困難になるケースも想定される。多様な障害のある留学生の修学を想定した取り組みが必要である。

多様化する障害学生の支援ニーズに対して、アクセシビリティを担保していくためには、過度な負担なく可能な合理的支援の選択肢を増やしていくことが必要である。現時点では対応できている支援方法であっても、経済的な負担や人的な負担が大きな支援や、支援の質の担保が難しい支援内容については、国際化対応も念頭において、支援方法や支援体制を見直していく必要がある。

(やまもとみきお 広島大学アクセシビリティセンター准教授)


【参考文献】

1.平成25年度(2013年度)大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書/日本学生支援機構

2.アクセシビリティリーダー育成協議会HP/https://al-pc.jp/web/

3.広島大学アクセシビリティセンターHP/http://www.achu.hiroshima-u.ac.jp/