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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年10月号

障害学生支援と障害者差別解消法

殿岡翼

「学びたい時に 学びたい場所で 自由に学べる社会をつくる」こうした社会の実現のために私たちは活動を続けています。活動の最も重要なものの一つとして、1994年から実施してきた「大学における障害学生の受け入れ状況に関する調査」があります。今回、6年ぶり9回目となる調査結果が2013年12月にまとまりました。本稿では、この2013調査および前回調査から見えてきた分析を基に、高等教育における障害者差別解消法の実施への道を考えてみたいと思います。

回答率について

2013調査では、調査対象大学779校(大学769校・大学校10校)のうち回答は571校でした。9回実施してきた本調査で過去最高の回答数でした。回答率は73%で、おおむね4分の3の大学から回答いただいたことになります。前回と比較して回答大学が151校増加し、回答率も17ポイント上昇しました。ポイント(pt)とは、前回と今回の率(%)の差です。また、本調査は「大学の総意としての回答」を求めており、途中回答しても大学の総意(決裁)がとれず、最終的に回答に至らなかった大学もありました。

在籍状況について

発達・精神障害の在籍者数が非常に増えました。ただ、思ったほど大学数が増えておらず、在籍者数を把握できていない大学があると思われます。

視覚・聴覚・肢体障害については、障害によって在籍する大学数に大きな違いがありますが、平均人数はそれほど変わりません。

障害種別を問わず特徴的なのは、ひとつの大学に障害種別の異なる学生が複数在籍していることです。特定の大学に障害学生が集まることで、在籍者数の増加が受け入れ大学数の増加にはつながってこない傾向が依然続いています(表1)。

表1

障害種別 大学(校) 人数(人) 平均(人)
視覚 123 534 4.3
聴覚 205 905 4.4
肢体 281 1351 4.8
内部 144 524 3.6
発達 188 949 5
精神 103 602 5.8
知的 8 8 1
重複 67 120 1.8
その他 79 420 5.3
種別不明 16 34 2.1
合計 381 5447 14.3

受験可否とは?

当センターでは、受験可否を受験可・受験不可・可否未定の3種類に分類・整理しています。そして各大学の回答では、障害別に受験可否をこの3つのうち必ず択一するように求めています。ここでは、受験可と可否未定の定義について簡単に紹介しておきます。

・受験可(事前相談)

事前相談を行う大学では、受験をすでに認めているわけですから、実際に障害学生からの申し出があれば、すみやかに受験を前提とした配慮内容などの話し合いとなります。この状態が実現していることを「受験可」と定義しています。事前相談という名の下で受験の可否を判断することはありません。

・可否未定(事前協議)

事前協議は受験を認めるかどうかの話し合いが中心となります。最終的に受け入れる可能性は十分にあるが、あくまでも話し合いの結果であり、あらかじめ受験可の状況には至っていない状態とも察せられます。また、障害学生が志願のための話し合いをもちかけて事前協議を経るまで、該当する学生の受験の可否が決まっていない状態を「可否未定」と定義しています。

なお、受験不可とは、障害学生の受験を初めから全く認めていない状況と定義しています。こうした大学も日本には存在していて、現在障害者差別解消法がないために、違法とすらなりません。

2013調査における受験可否の動向

障害学生の受験可否の動向は、過去調査(2005→2008)と同様、今回も視覚・聴覚・肢体障害ともに、受験可の大学が6Pt以上減り、可否未定の大学が5Pt以上増える傾向にあります。学内支援が急速に進む一方で「受け入れられる学生」だけを受け入れようとする、大学の慎重な姿勢が浮き彫りになりました。これは、障害の状況や具体的な配慮内容を確認してから対応を検討したい、という大学の意向の現れといえるでしょう。

内部・精神・知的障害については、受験可の大学の割合が増えてきています。特に発達障害については、受験可が24Pt余りも増え、認知度が上がってきたことがうかがえます(表2)。

表2

障害種別 受験可否大学数
不可 未定
前回比 前回比 前回比
視覚 220 38% ▲6.8pt 32 6% 0.9pt 325 56% 5.8pt
聴覚 263 46% ▲7.6pt 34 6% 2.4pt 280 49% 5.2pt
肢体 285 49% ▲7.1pt 11 2% 0.3pt 281 49% 6.8pt
内部 260 45% 1.6pt 17 3% 0.4pt 300 52% ▲1.9pt
発達 255 44% 24.5pt 21 4% ▲6.1pt 301 52% ▲18.4pt
精神 179 31% 5.1pt 49 9% 0.2pt 349 61% ▲5.2pt
知的 169 29% 11.2pt 63 11% ▲1.4pt 345 60% ▲9.9pt

※受験可否大学数:577日本大学のみ、学部別に回答 ▲は「マイナス」の意味

表3

略称 実施期間 掲載書籍
2008調査 2006年12月から2007年3月 『大学案内2008障害者版』
2013調査 2012年10月から2012年12月 『大学案内2014障害者版』
調査対象 実施期間における全国すべての大学と大学校(文部科学省所管外)の計

※短期大学や高等専門学校などは対象に入っていません。

さらに、過去2回の調査を比較して受験可否の推移を分析していきます。2つの調査では、調査対象数や回答数が異なります。そのため、今回の分析では前記の両方の調査に回答した347校(表4の1)に絞って、比較しました。なお347校の学校種内訳は、国立52校、公立44校、私立249校、大学校2校になります。

表4

  2013調査 2008調査 両方の調査 2008調査のみ 2013調査のみ
回答数 571 420 1 347 59 191
無回答数 208 325 127 191 59
調査対象数 779 745  

※表中の数字は、断りのない限り学校数(大学数と大学校数をあわせたもの)です。

※新設大学や廃止・統合等の大学があり「2008のみの回答数」と「両方の調査の回答数」を足しても「2008調査の回答数」にはなりません。

差別解消法を見据えて

昨年6月、障害者差別解消法が成立しました。これは障害者権利条約の批准を前提に、「差別の禁止(差別的取り扱いの禁止)」と「合理的配慮の否定は差別(合理的配慮の不提供の禁止)」が定められています。差別的取り扱いの禁止は、もちろんすべての場面で法的義務となります。そして、小・中・高等学校・特別支援学校・大学などの学校種を問わず公立学校における児童・生徒・学生に対する合理的配慮の提供は、法的義務となります。

一方で、私立学校やフリースクールにおいては努力義務となります。なお、障害をもつ教職員に対する合理的配慮の提供は、差別解消法とともに改正された障害者雇用促進法により、公立・私立を問わず義務となります。

差別解消法の施行は2016年4月からです。公立学校が施行後は法的義務が課されるのに伴い、国公立大学の受験不可・可否未定はかなり制限されると思われます。今回は差別解消法の施行をにらみ、学校種別ごとの統計も出してみました。参考にしていただければと思います。表5~7中のカッコ書きは「合計数(国立大学、公立大学、私立大学、大学校)」を表しています。

表5

視覚障害 2013可 2013未定 2013不可
2008可 154 96(20,6,68,2) 55(12,9,34,0) 3(0,0,3,0)
2008未定 176 42(7,7,28,0) 128(12,20,96,0) 6(0,1,5,0)
2008不可 17 3(1,0,2,0) 10(0,1,9,0) 4(0,0,4,0)
2013調査の合計 141 193 13

表6

聴覚障害 2013可 2013未定 2013不可
2008可 189 123(23,8,91,1) 63(11,9,43,0) 3(0,0,2,1)
2008未定 146 38(6,7,25,0) 101(11,18,72,0) 7(0,1,6,0)
2008不可 12 2(1,0,1,0) 7(0,1,6,0) 3(0,0,3,0)
2013調査の合計 163 171 13

表7

肢体障害 2013可 2013未定 2013不可
2008可 198 133(21,8,102,2) 65(12,13,40,0) 0
2008未定 144 48(8,8,32,0) 94(11,15,68,0) 2(0,0,2,0)
2008不可 5 0 5(0,0,5,0) 0
2013調査の合計 181 164 2

全体の傾向

視覚障害を例に具体的に見てみましょう。2008調査で、受験可154校が2013調査で141校と13校減っています。しかし、内容を見てみると、両調査とも受験可は96校なのに対して、2008調査で受験可でも2013調査で可否未定になった大学が55校、逆に2008調査で可否未定でも2013調査で受験可となった大学が42校と、受験可と可否未定の大学に激しい入れ替わりが発生しており、各大学での受験の受け入れ態勢の見直しが行われているとも考えられます。

以下に記述する聴覚・肢体障害においても、受験可の減少、可否未定の増加に伴う受験可と可否未定の激しい入れ替わりは、同様の状況にあります。

受験可から可否未定に変わった大学の全体的な傾向としては、受け入れにある程度積極的であったものの、受験や在籍する障害学生の増加に学内の体制などが追いつかず、今後の入学を制限せざるを得なくなった大学などがあります。原因として考えられるのは、障害学生支援をコーディネートする人材の不足や財源不足などが上げられます。受け入れ意欲のあった大学がここで消極的な姿勢に転換してしまうのは、非常にもったいない状況です。この傾向に歯止めを掛けるため、当センターとしても今後も大学に対する丁寧な相談活動などが重要になってきます。

一方で、可否未定から受験可に変わった大学は、以前はノウハウ等が十分でなく受け入れに消極的であったものが、一人の障害学生の入学をきっかけに自信を持ち、積極的な姿勢に変わった大学が多くあります。また可否未定から受験可に変わった大学には、入試での配慮の内容なども充実してきている様子が見受けられます。

点字試験など試験時のノウハウが必要とされる視覚障害では、もともと他の障害に比べて受験可の割合が低くなっています。受験可から可否未定に変更の大学には滋賀医科大学や首都大学東京、和光大学など、伝統的に障害学生支援に取り組んできた大学が多く含まれています。大学内で各部署や教職員の先生方の支援により実践されてきたことが評価できる大学です。個別の実践の体系化が今後のポイントになるでしょう(表5)。

一方、可否未定から受験可に変わった大学は鳴門教育大学や神戸市外国語大学、沖縄キリスト教学院大学など、規模は大きくなくてもこれから支援に取り組んでいこうとする姿勢がうかがわれる大学が含まれています。小規模な大学が障害学生支援を一つの強みとして取り組んでいることも評価できます。かつては厳しい門ともいわれた慶應義塾大学や聖路加看護大学などが含まれているのはうれしいことです。

差別解消法との関連でいいますと、国立大学で受験不可であった鹿屋体育大学が受験可に変わり、国立大学の視覚障害受験不可はなくなりました。公立大学で残るのは情報科学芸術大学院大学になります。

聴覚障害は入試時の配慮はあまりないと思われがちですが、リスニングテストの評価方法など今後の課題も残っています。両調査とも受験可の大学には、宮城教育大学や群馬大学など聴覚障害学生支援の先進的な取り組みを行なっている大学が含まれています。一方、受験可から可否未定に変わった大学では、一橋大学など事前協議を行い、学内の情報保障体制が十分に取れるか確認をしてから受け入れを行う方針の大学がでてきています。また、可否未定から受験可に変更した大学では、神奈川工科大学、帝塚山大学など、以前は大学としての統一した見解がなく個別に対応していましたが、学生の卒業などを踏まえ受験可に変更し、大学入試センター試験における受験上の配慮(旧 特別措置)に準じて、手話通訳などの配慮を行うようになったという経緯があります(表6)。

差別解消法の関連では、釧路公立大学が受験不可から可否未定に変わっています。公立大学で残るのは視覚障害同様、情報科学芸術大学院大学です。

最も受験不可が減少しているのが肢体障害です(表7)。両調査とも受験可の大学には、山形大学や高崎経済大学などが含まれています。ここには大変多くの大学が含まれており、入試での配慮のさらなる充実が期待されます。受験可から可否未定に変わった大学では信州大学や岡山大学、桃山学院大学や京都産業大学などが含まれています。一方で、可否未定から受験可に変わった大学には、筑波技術大学や千葉大学、前橋工科大学や日本体育大学、大阪大谷大学などが含まれています。

差別解消法との関連では、受験不可は北海道医療大学と日本獣医生命科学大学の2校のみとなりました。また、2008調査で受験不可と答えた日本女子体育大学など5校は、すべて可否未定に変更になっています。詳細は『大学案内2014障害者版』をご覧ください。

おわりに

現在の情勢によれば、年末までには差別解消法の基本方針が障害者政策委員会の議論を経て閣議決定され、来年夏に向けて各省庁で対応要領・対応指針が策定されていきます。障害学生支援については本稿での調査結果なども踏まえて、最低でも国公立大学における受験不可が無くなるよう、対応要領に記載すべき事項(不当な差別的取扱いとなる行為の具体例・合理的配慮の好事例等、相談・紛争解決体制等)に盛り込んでいかなければなりません。

また本稿では、字数の関係で省略していますが、入学後の配慮・支援内容についても具体的なデータを基に最低限の実施ラインを明らかにすべきです。その際には、文部科学省高等教育局決定「障がいのある学生の修学支援に関する検討会」報告の水準を下回ることがないようにしなければなりません。

人は学びながら生きています。学ぶことなく生きている人は一人もいません。これが学ぶことの権利性の基礎、教育原理の根幹を成しています。「ある大学に入学してはいけない」「この学部で学ぶことは難しい」「あなたへの授業支援はできない」といった学ぶことへの制約は、生きることそのものへの制約につながっています。こうした制約を取り除いていくことが私たちの活動の使命であり、差別解消法の精神につながっていくことなのです。

(とのおかつばさ 全国障害学生支援センター代表)