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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年10月号

障害者権利条約「言葉」考

「危険な状況における障害者の保護」

今村登

第11条 危険な状況及び人道上の緊急事態(日本政府公定訳)

「締約国は、国際法(国際人道法及び国際人権法を含む。)に基づく自国の義務に従い、危険な状況(武力紛争、人道上の緊急事態及び自然災害の発生を含む。)において障害者の保護及び安全を確保するための全ての必要な措置をとる。」

この公定訳をユニセフが作成した冊子「わたしたちのできること―It's About Ability―」では、次のように記載されている。

「障害者は、戦争、緊急事態、または嵐などの自然災害のときに、保護され、安全を約束される権利を、ほかのすべての人と同じように持っています。ほかの人たちが救出されているのに、障害を理由に避難所に入れてもらえなかったり、取り残されたりすることは、法律で許されません。」

これを読んで思い浮かべるのは、2011年の3.11東日本大震災だろう。あの時、そして今なお続く避難生活の中で、障害のある人たちがどのような状況であったか。実際に、被災地で亡くなった障害者の比率は住民全体の比率に比べて2倍との報告もある。

耳の不自由な人が防災無線が聞けずに逃げ遅れたり、助かっても、目や耳が不自由な人には避難所等で、その後の情報がうまく伝わらなかったケースや、避難所は段差だらけで車いすユーザーには使いづらかった(使えなかった)というケース、知的や精神障害のある人が避難所で厄介者扱いされたケースなどの声を数多く耳にした。

3.11以降も頻発し続けている地震や、昨年11月に噴火した海底火山は、改めて日本は地震列島であることと、地震の活動期であることを再認識させられる。また近年、毎年全国各地で甚大な豪雨災害、土石流災害が発生していることからも、日本は自然災害頻発国であることは明らかだ。さらに世界に目を向ければ、イラク、シリア、パレスチナ、ウクイライナ、アフガニスタンなど紛争地域は数多く存在しており、そこにも障害者は在住しているはずだ。

2011年8月に改正された障害者基本法では、権利条約第11条と3.11の大震災の教訓から、原案にはなかった次のような条文が新設されている。

第26条(防災及び防犯)

「国及び地方公共団体は、障害者が地域社会において安全にかつ安心して生活を営むことができるようにするため、障害者の性別、年齢、障害の状態及び生活の実態に応じて、防災及び防犯に関し必要な施策を講じなければならない。」

日本は、国内法を整備し条約を批准した。その一方で、実現可能な避難計画、防災計画が未整備のまま、原発再稼働が検討されている。事故原因が確定されないまま、原発の新設、輸出が進められている。また、権利条約を批准している紛争国も結構多い。

多くの犠牲を払いながらも、何もしないでいくのか。教訓を活かそうと誠実に努力していくのか。形だけの批准なのかどうか、条約を批准した国および国民は、それが試されている。

(いまむらのぼる DPI日本会議事務局次長、自立生活センターSTEPえどがわ事務局長)