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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年10月号

ほんの森

みぬまのチカラ
ねがいと困難を宝に

みぬま福祉会30周年記念刊行委員会編

評者 佐藤久夫

全国障害者問題研究会出版部
〒169-0051
新宿区西早稲田2-15-10
西早稲田関口ビル4F
定価(本体2,200円+税)
TEL 03-5285-2601
FAX 03-5285-2603
http://www.nginet.or.jp/

本書は、埼玉県南部で生活介護、施設入所支援、グループホーム、相談支援など20事業を展開する「みぬま福祉会」が発足30年の節目に出版したものである。しかし、よくある○○周年記念誌とはだいぶ違う。

沿革や資料にあたる部分がない。だいたい誰がどこを執筆したか書いてない。13人の刊行委員が集団討議を重ねて執筆し、素案について何回かのオープンな検討会でさらに議論し、できあがった文章に対する3人の研究者からの詳細な評価も載せている。

内容的には「実践的障害者支援論の優れたテキスト」といえるが、これではどうも表現できた気がしない。特に、障害者を単に支援対象とは見ていない。結局はタイトルの「みぬまのチカラ ねがいと困難を宝に」以上の端的な表現は思いつかない。

本書は、第1部「みぬま福祉会の歩み」で、この30年間の節々で何を重視して困難を乗り越えて、それをエネルギーにして発展してきたかを振り返る。

第2部「みぬまの実践」では、「働く」、「暮らし」、「人生に寄りそう支援」など5つの章に分けて、実践理念と方法を具体例を用いて紹介している。重い障害のある人が働けるようにするために量、役割、質の「3つの見通し」への配慮が欠かせないこと。プライバシーを確保し、その人らしい暮らしを実現することと生活の場での集団の規模と質の関係のあり方。「ガラス割り」行動を安心感の喪失によるものと考え、担当職員が長期にわたる支援を行う上で必要な職員集団の支えについて。もっとも困難な「一人」を大切にすることによって「全体」に役立つ支援方法が生まれること。仲間(利用者)集団や職員集団の育ちの重要性とその方法。自らと家族の死を受けとめるプロセスの支援、等々。

第3部「座談会」では、3人の研究者の目から見た評価が語られる。みぬまの取り組みの意義が改めて整理され分析されるとともに、たとえば「地域の福祉づくり」という視点が弱いのではないかなど、今後の課題が指摘され、より客観的に本書を読むことができる。

「はじめに」では、「この本が社会福祉にとりくむ多くの事業や福祉労働者を励まし、家族や障害のある人たちにつながり、孤立と利己を深める社会のあり方に影響を与えるものになればと願っています。」と書いている。まさに「商品化したマニュアル的支援論」の対極にある支援実践論が豊富な事例をもとに紹介されている。現場で汗を流す人々を励まし、日本の障害者福祉を変えてゆくチカラを確実に与えてくれる本である。

(さとうひさお 日本社会事業大学)


(注)書籍タイトルは「みぬまのチカラ」ですが、仲間の書いた文字が見事でしたのでカバーデザインとして使いました。