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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年11月号

急務!政策評価に役立つ統計整備

勝又幸子

今年5月まで委員を務めさせていただいた障害者政策委員会でも、ことあるごとに官庁や自治体、障害者団体や業界団体などさまざまな関係者からヒアリングを受けてきた。特に官庁が用意するポンチ絵(プレゼンテーション用のソフトで作られた図などを使った説明資料のこと)は年々質がよくなって、複雑な制度や法律を分かりやすく説明してくれる。だが、そこに落とし穴もある。資料の出所に、「厚生労働省調」や「内閣府調」などと書かれても人々は平気である。

データというものは、どのような方法で、いつ誰が集計したものか、そのデータの限界は何か、などが分からなければ評価すべきデータとはいえないのである。官庁だけでなく、障害者団体も業界団体も、自治体すらも、自分たちが主張する政策を実施させるために、都合のいいデータを駆使してポンチ絵を作るのである。そのこと自体を非難するつもりはないが、そうやってできた政策が実際に効果を上げたのかどうかについて、彼らが説明責任を負わないのは問題だと思う。

第3次障害者基本計画を策定するにあたって、障害者政策委員会が出した、新「障害者基本計画」に関する障害者政策委員会の意見(平成24年12月17日)の一部、「調査及びデータの収集と公開について」では、次の4つのポイントが示されていた。

(1)障害者と障害のない人との比較が可能となるデータの収集の必要性

(2)男女別統計の必要性

(3)監視のためのデータ収集においては、統計にかかる基本計画を所管する統計委員会や隣接領域の施策を所管する省庁との連携を図ること

(4)都道府県等が作成する都道府県障害者計画等に関する情報収集の重要性

また、第3次障害者基本計画には、推進体制の一つとして「調査研究及び情報提供」が記されている。そこでは、障害者の状況や障害者施策等に関する情報・データの収集・分析を行うことが記されているが、それに加えて(別表)として、成果目標が掲げられている。しかし、どのようなデータがその評価に今後使われるかが問題である。

日本政府が障害者権利条約(以下、権利条約)の批准に至るまでに、署名から約6年4か月かかっているが、批准しただけでは何も変わらない。権利条約で書かれたことが実際に行われなければならない。その確認のためにエビデンスが必要なのである。

権利条約では第31条で統計及び資料の収集、を各国が担うよう定められている。その用途は「この条約に基づく締約国の義務の履行の評価に役立てるために」「障害者がその権利を行使する際に直面する障壁を特定し、及び当該障壁に対処するため」とされ、統計の普及や統計へのアクセスを保障すると書かれているのである。

また、条約批准国は権利条約が守られているかどうかを報告する義務がある。国連の人権委員会のウェブサイトによると、日本が権利条約の次のレポートを提出する期限は2016年2月20日になっている(注)。すでにレポートを出した国の例をみると、エビデンスに裏打ちされた報告が並んでいる。そのようなレポートを日本も2年後には提出しなければならない。行政のあらゆる場面で適切な企画、実施、評価および見直し(PDCA)の観点が重要視されているなかで、C(Check 評価)には、客観的で科学的な事実の把握が必要なのである。

しかし、障害者政策においては客観的で科学的な事実の把握が不足している。障害者数ひとつをとってみても、国際比較に耐えるデータを日本は持ち合わせていないのが実態である。

障がい者制度改革推進会議の総合福祉部会で検討のうえ実施された新しい調査、「生活のしずらさなどに関する調査(平成23年全国在宅障害児・者等実態調査)」の集計結果が平成25年6月28日に公表された。しかし、この調査は統計法上、世論調査扱いであるため、科学的分析のために、調査票データの二次利用申請が認められていない。

制度を作る時は、必要性を主張するためにデータを切望しても、その制度の効果を測るデータには関心を示さないのはなぜだろうか。それは、政策の評価がどんなに施策の実施に効果があるかを知らないからだと思う。「白書」を代表とする行政報告書は本来、自らの政策を評価するためのエビデンスを提供するものであるべきで、行政のPR資料ではない。カラフルなグラフや写真や図を駆使した白書よりも、日本にはいったい何人の障害者がいるのか、障害のある人はどんな暮らしをしているのか、障害があることが社会参加にどの程度の影響を与えるのかなど、施策の実施に有用な情報を集めることのほうが、はるかに人々の生活を向上させることができるのである。

また一方で、情報を出す側のテクニックは確実に向上しているが、情報を受け取る側の情報リテラシー(情報を理解する能力)が未発達なことも問題である。障害者政策を推進するために、統計整備を行政に要求するだけではなく、どのような統計が評価に必要なのかを考え、そのデータを積極的に求める姿勢が国民の側にも醸成されなければならない。

(かつまたゆきこ 国立社会保障・人口問題研究所情報調査分析部長)


(注)http://tbinternet.ohchr.org/_layouts/TreatyBodyExternal/Countries.aspx?CountryCode=JPN&Lang=EN
(アクセス2014年10月14日)