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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年11月号

見直しに向けた提案

高次脳機能障害当事者家族会からの提案

東川悦子

当会は2000年に任意団体として3つの団体が連合体として発足し、国に谷間の障害として、医療・福祉の充実・救済を求めて積極的に活動してきた高次脳機能障害の当事者と家族の会である。2006年にNPO法人格を取得し、現在、全国57団体により構成されている。

障がい者制度改革推進会議の総合福祉部会では筆者は構成員に任じられ、障害者総合福祉法の実現に期待し、制度の谷間を無くしたいと、骨格提言の取りまとめに参画した。

当会にとっての最大の関心事であった障害の定義には、精神障害として発達障害が明記されたが、高次脳機能障害という文言は明記されなかった。

当時は、高次脳機能障害は市町村の障害者担当窓口に行っても理解されなかったため、障害の定義に明記してほしいという願望を強く持っていた。

全国に30万から50万人は存在すると言われている高次脳機能障害者であるが、当会の傘下の団体等に所属する当事者はせいぜい5000人程度で、いまだに認知されない障害である。にもかかわらず、支援モデル事業後にも、国立障害者リハビリテーションセンターで行われている「高次脳機能障害及びその関連障害に対する支援普及事業」は、曲がりなりにも継続されているし、高次脳機能障害支援拠点機関は全自治体を網羅し、今年は北海道の全保健所を巻き込んで、100か所を超えている。少なくとも後退はないとみてよいのではないか。

高次脳機能障害者を受け入れる事業所等があまりにもなかったために、各地の当事者家族会が自ら設立した作業所やクラブハウスは、今や全国20か所余りに及んでいる。

確かにそれらの事業所の運営は家族の手に余るし、どこも人・物・金の無い無い尽くしである。また、家族の高齢化に伴う「親亡き後問題」は差し迫っている課題でもある。

さらに、就労支援の対象外となっている重度の高次脳機能障害と身体障害を重複する重度高次脳機能障害者の支援は手つかずである。発達障害に入るとされた小児の高次脳機能障害の就学や余暇活動の支援等は、全くボランティアの支援に委ねられている。

さらに、高次脳機能障害の代表でもある失語症者の意思決定支援、会話パートナーの養成・就労支援も手つかずである。また、画像で診断されないMTBIと呼ばれる軽度脳損傷者は、障害認定の問題すら解決されていない現状であるが、地道に連携した運動を今後も進めたい。

評価できることと今後の期待

1.難病が支援の対象になったこと

都内某区の多発性硬化症の方が障害福祉課に相談に行ったところ、高次脳機能障害としての支援サービスの利用が可能と言われ、障害者手帳の取得・障害年金の受給が可能となった。

2.グループホームとケアホームが一元化されたこと

某市で、重度脳損傷者のケアホームを運営している事業所が、ニーズの拡大に伴い、グループホームとして新たに2事業所が開所できた。これにより、重度訪問介護のケアスタッフが確保でき、重度脳損傷者の支援に活用できた。今後、各地でグループホームにおける高次脳機能障害者の生活支援スタッフの利用できる道が開けた。

3.計画相談への報酬がついたこと

しかし、就労支援等のフォローは時間と人手が必要であり、報酬単価に改善が必要である。多くの事業所が取り組むようになるインセンティブが必要である。

4.精神障害者の年金の受給申請が2年ごとという理由が合理性に欠ける。他の障害に比べて差別ではないか?一元化するべき。

5.応益負担問題

働き盛りの中途障害者が多い現状から、前年度の所得を基準にした更生施設や地域移行事業所の利用は減らさざるを得ない現状となる。自立生活へのリハビリでもある大事な手段であるから、応益負担は適切な解消を図るべき。

6.意思決定支援がない。失語症会話パートナーの養成は市町村事業であるが、ほとんどの市町村で実施されていない。先行実施している市町村にインセンティブを与えて、他の市町村でも早期に実施される仕組みを実施するべき。

7.介護保険優先原則を撤廃し、障害者サービスを自己選択できるシステムにするべき。疾病によらない事故等による若年障害者が利用できる介護保険サービスも、障害者支援事業所のない地域では利用できるようにするべき。

8.リハビリに欠かせない臨床心理士に国家資格を与え、診療報酬の対象にして、当事者・家族の不安の解消や自立支援に欠かせない心理相談体制を充実させること。

9.リハビリ・介護予防事業の推進は医療費の軽減にもつながるはずであるから、入院期間180日制限は撤廃するべき。

10.地域包括ケアシステムのきれいな画が描かれているが、実際はほとんど機能していない。モデル地域を選定し、国費を投入してPDCAサイクルが機能していく実例を示してはどうか?制度の谷間問題を解決するのに30年もかかると公言しているようでは、消費税を導入しても社会保障が充実した福祉国家となる希望は持てない。

(ひがしかわえつこ NPO法人日本脳外傷友の会理事長)