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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年11月号

見直しに向けた提案

相談支援事業者からの期待

中島秀夫

今回のテーマである、平成25年度から施行した「障害者総合支援法」の障害者施策を段階的に講じるための検討規定について、相談支援事業者の立場から、周辺の検討事項も含めて今後への期待や要望をまとめてみた。

意思決定支援のあり方について

まず施行後3年を目途とした検討事項について、法施行から1年6か月の間に審議会・検討会等で協議され一定の方向が提示されている事項もあるなか、相談支援の立場で関心のあるところは「意思決定支援のあり方」である。相談現場で感じていることは、コミュニケーションのとりづらい、重度の知的障害児・者(重症心身障害を含む)および精神障害者の希望や願いをどこまでくみ取り、日常生活支援に反映させることができるかという課題意識である。

かつて筆者が知的障害者入所施設で支援員の時代に、グループホームで暮らすことができると評価した青年がいた。ところが、青年は「慣れ親しんだ入所施設からは絶対出たくない」と主張した。入所施設での生活の継続が本人の願いであり、希望であるならそれでよいことになる。

しかし、支援者からみると、本人の言葉の裏には「グループホームでの生活がイメージできない」「地域での暮らしは経験がない」という思いが隠れていると判断したため、地域での生活を勧め、実際に体験を積み重ねる支援をしてみたところ、青年は「グループホームで暮らす」という決断をした。入所施設から出ないという決断も、地域の暮らしに移行するという決断も、同じ青年の決断である。

しかし、それぞれの決断をするにあたり支援者からの情報提供の仕方には大きな差があった。青年に、地域での暮らしのイメージを口頭で説明しても理解することは難しいが、地域での暮らしを体験することで現実として理解できる。この出来事から、障害児・者、特に重度障害児・者の意思決定には段階があることを確信した。

すなわち、障害者が自ら意思決定するまでにはさまざまな視点や体験が必要で、そうした支援や体験に基づいた協働的意思決定を通じて本人のエンパワメント力が育まれ、自らの意思決定に移行していく。この点を踏まえると、意思決定支援のあり方については、障害の状況、置かれている環境、コミュニケーション状況、生活経験等に基づく段階的支援のあり方等、さまざまな視点から検討する必要性を感じている。

相談支援・ケアマネジメントの充実に向けて

相談支援とは、障害者ケアマネジメント手法を活用して、当事者ニーズを明らかにし個々のニーズに応えていく、地域課題の解決に向けて制度やサービスの改善、開発に取り組む業務である。計画相談支援もこの手法に沿って取り組まれている。個々のニーズに応えて支援体制を構築し計画を作成するには、社会資源や福祉サービスの基盤整備をすることが絶対条件である。

計画相談支援の対象は、障害福祉サービス利用者に限定されていることは課題と感じている。対象となる利用者の総数は80万人程度で、障害者総数の1割前後にとどまることがそのことを裏付けている。市町村の地域生活支援事業やその他のフォーマル、インフォーマルサービスの支援が必要な人も多数存在する。

相談支援事業者が作成する当事者のニーズに沿った生活トータルプランが「絵に描いた餅」に終わらないためには、障害福祉サービスをはじめ、幅広いサービスについて十分な量や支援体制が必要となる。計画相談支援の対象や計画相談支援がカバーするサービスの拡充について再検討し、支援を必要とする人には計画相談支援や必要となる地域生活支援サービスが充当されるよう期待している。

(自立支援)協議会について

直接今回のテーマには入らないが、間接的には大いに関わる課題として取り上げたい。平成24年度障害者自立支援法の改正により、自立支援協議会が法定化され、障害者総合支援法において名称は地域の実情によりつけてもよいことになった(以下(自立支援)協議会)。法定化により設置率は高まったものの、活動内容については全国で地域間格差が広がっている。

(自立支援)協議会は、地域で暮らす障害児・者のニーズに対応するサービス基盤、関係機関のネットワーク、社会資源の改善・開発のプラットホームであり、地域づくりの拠点として、相談支援の立場から極めて重要視している。その(自立支援)協議会が形骸化しているなら「地域で普通に暮らすことのできるまちづくり」は夢物語になる。「共生社会の構築」を実現するためには、(自立支援)協議会の活動の全国的な平準化が必要である。法定化した国の責任において、具体的な推進のための枠組みづくりとして、地方自治体の(自立支援)協議会担当者の情報交換や活動の平準化・活性化に向けた協議の場として「全国(自立支援)協議会連絡会」の創設を提案したい。

まとめにかえて

平成23年の障害者基本法の改正以降、国連の「障害者の権利に関する条約」の批准まで、さまざまな法律の制定や改正が進められてきた。これらの志向するものは「障害者の人権尊重と共生社会の構築」である。しかし、法律や制度が施行されても社会が、地域が変革しなければ意味がない。この時期こそ、真の共生社会が全国各地で展開されることを期待している。

(なかじまひでお NPO法人日本相談支援専門員協会副代表)