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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年11月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

東京オリンピック&パラリンピックを期に完全なるバリアフリーを進めよう!

佐藤聡

日本のバリアフリー化は進んでいると思いますか?

私は進んでいると思っていました。2000年に交通バリアフリー法ができてから、都市部の鉄道やバスなどのバリアフリー化は劇的に進みました。平成26年3月31日時点で、1日の乗降客3,000人以上の駅で段差解消された駅は83.3%、低床バスの普及率は56.8%になっています。大阪市営地下鉄は数年前に全駅バリアフリー化されたし、東京も整備が進んで電車やバスでほとんどどこへでも行ける、というのが実感です。だから、世界的に見て、日本のバリアフリー化はかなり進んでいると思っていたのです。

アメリカで7回のびっくり!

昨年、アメリカに行ったのですが、私は野球が好きなのでイチローと黒田を見なあかんと思い、ヤンキースタジアムに行ってみました。まず、車いす席のチケットはどうやって買うのかな?と思い、HPを見てみると、webで簡単に買えてしまったのです。日本では車いす専用電話にかけて予約するという方法しかないので、ここで最初のびっくり1。

スタジアムに行ってみると、車いす席がいたるところにあるじゃあ~りませんか。その数、数百席!しかも、1層だけじゃなくて、2層、3層にも車いす席がたくさんあるのです。日本だと甲子園球場が31席、東京ドームは12席(毎回抽選。私はいつもハズレ)という状況で、この圧倒的格差にびっくり2!

さらに、前の人が立ち上がっても、車いす席の視界が遮られないように十分な高低差(サイトライン)が確保されているのです。日本では野球場やコンサートホールで、一番盛り上がるところで皆が立ち上がり(立ち上がる人に罪はないです)、何も見えなく寂しい思いをしていました。この完璧なサイトラインの確保にびっくり3。

すべてのトイレに必ず車いすで入れる便房があるし(びっくり4)、入場や球場内の移動ルートはすべて健常者と同じ。日本では車いすだけ別ルートっていうのがほとんどなので、これまたびっくり5。

さらに、上層階への移動用に、大型のエレベーター(26人乗り以上はあるな)が5台くらいズラーッと並んでいるし(びっくり6)、一般客も使う幅広の巨大なスロープも整備されていたのです(びっくり7)。これなら緊急時も避難できるし安全です。

こんな感じで、日本とは圧倒的格差のバリアフリー整備っぷりで、7回もビックリしてしまいました。こういった整備のおかけで、健常者と一緒に、同じように、好きな場所で野球観戦を楽しむことができました。

アメリカは法律で整備基準

アメリカはADA(差別禁止法)により、観客席の数によって車いす席は何席以上(概(おおむ)ね0.5%以上)、サイトラインはこういうふうに確保するとか、図入りで細かく決められているのです。一方、日本のバリアフリー法を調べてみると、車いす席の数、サイトラインの確保については全く言及なし。ADAに比べたら、極めて貧弱なものでした。この法律の差が圧倒的な格差を生んでいるのです。日本のバリアフリー法をバージョンアップしていかないと解決しないなと、気づかされました。

2020年東京オリンピック&パラリンピック開催決定

そう考えていた時に、2020年に東京オリンピック&パラリンピック(以下、オリパラ)の開催が決まりました。「お、これはチャンス!!」競技場にとどまらず、まち全体のバリアフリー化の推進も言われはじめていました。自分たちでこういうふうに整備してほしいというバリアフリーの整備基準を作って提言しよう!そう思い立ってDPIで呼びかけたところ、あっという間に50人ものメンバーが集まってくれました。オリパラ実行委員会を結成し、取り組みをスタートさせました。

目指すのは、権利条約の理念に沿ったまちづくりです。権利条約の基本理念は「他の者との平等」です。他の者とは健常者のこと。健常者にある機会と同じ機会を障害者にも与えるという考えです。健常者と同じように観戦を楽しめる競技施設を目指してみんなで提言をまとめることになりました。

まずは競技場のバリアチェック!

最初に行なったのはオリパラで使う競技場のバリアチェックです。6月から8月にかけて、代々木第一体育館、東京体育館、日本武道館、有明コロシアム、東京ビッグサイト、東京国際フォーラム、日産スタジアムの7施設をみんなで回りました。

結果は残念ながら、バリアフリー整備に関してアメリカの競技場に肩を並べる施設は一つもありませんでした。車いす席数は総席数の0.07~0.4%程度しかなく、設置場所もほとんど1~4か所程度。サイトラインが確保されていたのは二つのみ。エレベーターは11人乗り(電動車いすなら一台しか乗れません)が数基という惨憺(さんたん)たる状況でした。日産スタジアムは車いす席の数が多く、サイトラインも確保されているなどチェックした中では一番良かったのですが、それでも上層階には車いす席がないなどアメリカに比べたら圧倒的に負けています。これが日本の現状なんですね。

第一次提言は競技場

バリアチェックを踏まえて、私たちが求めるバリアフリー整備基準をまとめる作業に入りました。改善してほしいことは競技施設だけではなく、交通機関やまちづくり全般にわたるので、第一次提言、第二次提言とテーマ別にまとめていくことにしました。第一次提言は競技場です。10月にほぼまとまりましたので、少し紹介します。

〇バリアフリー整備の基本的スタンス

・障害者権利条約の理念である「他の者との平等」を基本理念とし、障害のない者と同じ観戦機会を提供する施設にする。

〇車いす用席

・全席数の0.75%以上。新国立競技場は8万席あるので600席。ちなみに、国際パラリンピック委員会はオリンピックの競技場で0.75%、パラリンピックの会場では1.0~1.2%以上を求めている。

・水平、垂直に分散する。1層だけではなく2層、3層にも車いす席を作り、選択の機会を確保する。

・サイトラインの確保。低い車いすの人にも対応できるように、サイトラインの高さを変えて数パターン作る。

〇トイレの基本的な構造(好事例:地下鉄九段下駅、小川町駅)

・車いす席15席につき一つの割合で多機能トイレを設置する。

・ベビーベッドやオストメイトなどは一般のトイレに機能を分散化する。

・一般トイレ(男性用・女性用)の中に簡易多機能トイレを1か所以上設置する。

〇エレベーター

・26人乗り以上のサイズを規模に応じて複数か所設置する。

〇すべての障害の人への配慮

・館内放送を電光掲示板に表示する。

・緊急時用のフラッシュライトを整備する。

・磁気ループ席を複数か所設置する。

・分かりやすい案内表示。床サイン、壁、上面の案内表示。

・選手控え室などバックヤードもバリアフリー整備をする。

第二次・第三次提言に向けて

5か月間の取り組みで第一次提言がまとまり、これをもって関係省庁、関係機関にお願いに回ります。

12月からは第二次提言の策定に取り組む予定です。2020年オリパラに向けて整備されるのは、競技場に限らずまち全体です。第二次提言は交通アクセス、第三次提言はホテル・レストラン、というようにいろいろな分野で提言をまとめ、関係機関に働きかけていきたいと思っています。そして、最終的な目標は、バリアフリー法のバージョンアップです。東京の整備だけで終わらせるのではなく、日本全体のバリアフリー化を推し進めるためには、バリアフリー法のバージョンアップは不可欠です。時代とともにニーズは変わってきているので、バリアフリー法も時代に合わせて見直していかなければなりません。

今年は権利条約批准元年です。権利条約の理念を踏まえたまちづくりを進めていくために、これからも継続して取り組んでいきたいと思っています。

(さとうさとし DPI日本会議事務局長)