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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年12月号

障害のある女性の複合差別
―実態と法制度の課題について

臼井久実子

調査で明らかになった複合的な困難

「障害者」と言うとき、女性も男性もいることを忘れがちではないだろうか。障害があり女性であることで複合的な困難が現実にあるが、法制度の課題として据えられておらず、問題解決が著しく遅れてきた。

DPI女性障害者ネットワークは、障害のある女性が多様に自分らしく生きることができる社会を目指して、法制度で障害女性の複合差別の解決に取り組むように繰り返し提言してきた。2011年障害者基本法改正では、意味が明らかではない「性別」という言葉が加えられたが、この前後に「私たちの生の現実を数多く蓄積し、問題の重要性を広く周知し、実体験を分析し、施策に反映させよう」と障害のある女性に向けてアンケート等への協力を呼びかけた。障害も年代もそれぞれ異なる87人の女性の回答が寄せられ、これを整理して227件の経験がまとまり、都道府県制度調査の結果も加えて2012年に「障害のある女性の生活の困難―複合差別実態調査報告書」を発行した。本稿は、実態と障害者差別解消法の施行に向けた政策課題を、報告書の引用を交えて述べる。

性的被害

45件と最多で、教育・労働・医療などのあらゆる分野にわたり、回答者人数の35%を占めた。学校、職場、施設や病院、家庭などの日常を過ごす場で起きており、加害者の立場が強い。「義兄からセクシャルハラスメントを受けたが誰にも言えない。自分は自立できず家を出られないし、家族を壊せないから。あまりに屈辱で言葉にできないから」「やっと就職できた職場の上司に『飲みに付き合え』と言われ、酔って眠ってしまい、ホテルに連れ込まれて性的暴行を受けた。その後も関係を強要され続けた」。つきまといや痴漢行為、介護や手引きでの必要以上の身体接触など、日常的な不快と不安、恐怖を被っている。

ところが、女性を支援する機関の窓口や避難施設の大半は障害者の利用を想定していないため、支援を得られない人が多い。たとえば「電話相談」だけならば聴覚言語障害のある人は相談もできず、また、テキストデータや音声や点字で制度や支援の情報を発信していないなら、視覚障害者本人には伝わらない。DV避難施設が、設備のバリアをなくし介助や援助を提供する姿勢をもたなければ、緊急避難さえできない。こうした課題を認識して取り組むことがまず必要である。

性と生殖と健康

性的被害やDVと切り離せないこととして、障害のある女性の性と生殖と健康がなおざりにされている問題がある。「車いすトイレが男性側にしかないときがあり、とても嫌な気分で入ります」「国立病院に入院中、女性の風呂とトイレの介助、生理パッドの取り替えを男性が行なっていた。トイレを仕切るカーテンも開けたままで、廊下から見えた」「生理が始まった中学生のころ、母親から『生理はなくてもいいんじゃないの』と言われた。手術に同意しなかったが、言われただけで嫌だった」「妊娠した時、障害児を産むのではないか?子どもを育てられるのか?といった理由で、医者と母親から堕胎を勧められた」

1996年まで「不良な子孫の出生を防止」などの条項をもつ「優生保護法」があった。現行の「母体保護法」へ改正の際に、強制不妊手術の規定は削除されたが、子宮摘出を勧められた人の声もあり、今も障害のある子を産むのではと中絶を示唆される人が後を絶たない。「母体保護法」以降を含めた検証と取り組みが求められている。

出産時はとりわけ障害を理由とした診療拒否が多い。病院によっては、障害がある本人にどんなことが不便か聞いて、トイレに近い部屋にする、廊下に物を置かない、什器にシールを貼る、食事の際に看護師が食器の位置や料理内容を説明するなど配慮した例もある。合理的配慮提供として普遍性のある実例といえる。

そして、教育と情報の重要性が回答者からも重ねて指摘されている。「女性だったら自分の体を知るべき、でも誰も教えてくれない。学校も教えてくれない。見直ししてほしい。新しい制度ができても分からない。正しい情報を流してほしい」

「働く」ことと経済格差

障害のある女性は総じて「働く」ことからも遠ざけられている。そして、不安定で低賃金をやむなくされがちな立場は、ハラスメントの的にされやすい立場でもある。単身世帯の障害女性の年収は92万円、障害男性の半分という地域調査もある。

「交通事故で障害者になった。遺失利益は現在の男女の就業、賃金から割り出されるので、同じ障害で同じ状況であっても、男性よりもかなり低い賠償額になってしまった」「企業の面接で、『まだ男性で見た目に分からん障害やったらエエねんけどな~』と言われた」「出産後の職場復帰で正職からパートになり、夫の扶養に入ることを勧められた。同じ職場の健常女性は正職のまま復帰できた」「最初にかかった精神科で主治医に、『女性で良かったね。障害者になっても家族や配偶者に養ってもらえる』と言われた。女は働かない、家族が面倒を見るという考えは許せない」

「女だから当たり前」という抑圧と複合

「ヘルパーさんを入れて生活している。最近その時間を減らされ、料理などの手助けがもっとほしいが、ヘルパーさんから『女なんだから、あなたがしなさい』と言われる」「子どもと外を歩いていると、よく、『お子さんが女の子でよかったですね』と言われた。子どもは『ご飯は誰が作るの?』という質問攻めに合い、かわいそうがられたり、ほめられたり、『あなたがしっかりしなさい』と言われたり…」「父を遠距離介護した時期、『娘だから親の面倒を見るのは当たり前』という周囲の態度が辛かった」

家事などは女性がして当たり前と社会制度のようになっているなかでは、障害がある女性が家事等をできない場合や、本人がケアを必要としている場合の抑圧は極めて強い。そこから見ても、性別にかかわらず家事や子育てや介護にたずさわれる法制度、そして、どんな障害や病があっても社会生活に必要な介助や援助を受けることができる法制度にしていくことが課題である。

障害者に関する統計に「障害別」は必ずあるが、性別は看過して集計されてきた。人口全体のなかでの障害者の実態を、性別クロス集計も含めて明らかにすることは、国・自治体の基本的な責務である。

法制度の課題

障害者差別解消法の審議(2013年6月18日、参議院内閣委員会)で、政府から「障害者差別解消法は国連障害者権利条約の考え方を踏まえて策定するもので、基本方針等の策定の際には女性や子どもに対する配慮を十分に行う」旨の答弁がされた。続いて、附帯決議第1条「条約の趣旨に沿うよう、障害女性や障害児に対する複合的な差別の現状を認識し、障害女性や障害児の人権の擁護を図ること」が読み上げられた。今後ともここを基点にしなければならない。条約を踏まえるならば、障害女性の複合差別の記述は当然だが、日本ではようやく緒についたばかりだからだ。

現在、私たちDPI女性障害者ネットワークは、障害者差別解消法の基本方針をはじめ、対応要領・対応指針に障害のある女性の複合差別の課題を明記することを求めている。2013年には京都府条例に「障害のある女性が障害及び性別による複合的な原因により特に困難な状況に置かれる場合等、(中略)その状況に応じた適切な配慮がなされること。」と盛り込まれた。次期の障害者基本計画に書き込むよう審議中の自治体もある。国・自治体の具体計画・政策として実施されることが必要である。

障害者基本法は2015年に施行後3年の見直しを迎える。その改正および差別解消法や各法の今後の改正において、「性別」にとどまらず「障害のある女性の複合差別」の課題として法律に明記しなければならない。障害のある女性の参画を確保することは、複合差別の課題に取り組む上で不可欠であり、障害者関係者団体は自らの課題として取り組む必要がある。委員会や協議会等の構成は、障害者当事者を過半数とすることは前提として、その中でも障害のある女性の構成比および参画を高める措置が求められている。

(うすいくみこ DPI女性障害者ネットワーク)


【参考文献】

DPI女性障害者ネットワーク「障害のある女性の生活の困難―複合差別実態調査報告書」初版2012年・第四刷。お問い合わせ先はdpiwomen@gmail.com。