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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年12月号

分野別課題

教育分野で差別解消法に期待すること

一木玲子

来年2015年4月に施行される茨城県障害者差別禁止条例の推進役を担ってきた「茨城に障害のある人の権利条例をつくる会」が2014年に作成した「困ったこと、差別と感じた事例集」には以下のような記述がある。

1.「学校への通学を希望して、中学の時に普通学級に行っていたが、特別支援学級に入れられた。一緒にやれることがないのでということで、毎日支援学級で一人で過ごさせられた」(2012年、知的障害)

2.「『てんかんのある子は水泳指導しないよう文部省から言われている』と言われ子どもの水泳授業への参加を禁止された(実際は保護者の抗議により参加できた)」「(保護者が文部省に前記の件を問い合わせたところ)子どもの水泳授業は再開したが『お母さんは大変な誤解をしていらっしゃる』と言われ保護者が悪者扱いされた」(2006年、脳性まひ)

3.「遠足や校外学習などのイベントの際に、必ず保護者の同伴を打診されます。多動のある息子を伴っての集団での外出が大変で、先生方にご迷惑をおかけしているのは重々承知しているのですが、こう毎度毎度では、母である私もパートを休んだりと正直負担が大きいです。息子の障害を受け入れ、入学時より病院の診断書や心理検査の結果を提出しており、よくお願いして支援員さんもいらっしゃるはずなのに、なぜか普段の授業ではいらっしゃる支援員さんは遠足の時に同伴せず、親が同伴することを求められます」(2・3年前~現在、発達障害)

4.(大学の入学相談会で)「臨床心理センター設置の大学院があり、心理学専攻ができる大学だったが、高校と同じ支援(座席位置の固定)をしてほしいと発達障害を開示したら、入学を断られた。このことをどこにもっていけばよいかわからず、何もしていない。あからさまに障害者排除だと感じる。その大学に行くというイメージを持っていた大学に入れなくなった本人は、直後は荒れて荒れて手が付けられなかった」(2010年、発達障害)

2016年4月より施行される障害者差別解消法は、前記のような事例の解決に有効であることが求められる。だが、残念ながら、差別解消法には差別の定義は規定されておらず、また、教育等の各論が存在しないため、合理的配慮もどこまで保障されるのか、さらに合理的配慮の提供が私立学校は努力義務となる点からも心もとない。

現在、内閣府障害者政策委員会で国の基本方針について積極的に議論されているように、差別解消法はあくまでも障害者権利条約に準拠するものであるとしてとらえる必要があり、それに沿って文部科学省の対応要領も規定されたい。

ここで、子どもの一日の生活を追ってみよう。朝、家から学校に通学し、学校の授業を受ける。昼には一緒に給食など昼食を食べ、休み時間を経て午後の授業や清掃。放課後にはクラブ活動など非正規の課外活動がある場合もある。そして帰宅であるが、その前やその後に学童保育や子ども会活動への参加もあるだろう。1年を追うと、入学式等の行事、夏にはプール授業、秋には運動会や学芸会、文化祭、冬にはスキー授業等、さらに、学外の遠足や臨海学校、林間学校、修学旅行等宿泊が伴う行事など、さまざまな学校行事が存在する。また、年齢を経ると転校、卒業、進学や入学試験等もある。差別解消法には障害のある子どもが安心して学校生活を送れるよう、前記子どもの学校生活全般をカバーする内容が求められる。そうすると、以下のものが考えられる。

○差別の禁止

・障害児の入学の拒否や転校・転籍を強要すること

・教育活動の参加に条件を付けたり拒否や制限をすること

・合理的配慮の提供を拒否すること

○合理的配慮の提供の義務

・通学の支援を含むすべての学校活動における参加の保障のための整備

・学習参加の不利益を解消するための教材教具や機器整備等、人員配置

・情報を保障するための手話通訳や点字資料、機器等の意思疎通手段

・試験の方法や評価方法の調整や変更

・学校生活を送るために必要な人員配置

また、これらとともに大切なことは、本人・保護者と学校・教育委員会との話し合いの体制である。事例を見ると、本人・保護者が非常に辛い経験をされていることが分かる。「学校に訴えてもまともに聴いてもらえず…」「学校長の指示に従うしかなかった」「…毎回親の手をかりだそうとするのは、こちらが手のかかる息子をお願いしているという弱みを突いた障害者差別と言って過言ではないと思います」「相談先がわからず…」という言葉が並んでいる。学校に子どもを預かってもらっている手前、強いことは言えない、というのはよく聞く保護者の心情である。そこにわが子に障害があればなおのこと、という気持ちも否めない。そのような中で、就学先や合理的配慮について相談するのは大変である。

大切なのは、本人・保護者が学校・教育委員会と対等に相談できる体制と、十分に相談できなかった場合に訴える紛争解決機関である。イギリスには、子どもの教育の第一義的責任を持つ保護者の権利として、障害のある子どもの就学や教育相談の際に、本人や保護者が指名した第三者がその席に同席できるネームドパーソン制度がある。このような、本人・保護者と学校・教育委員会が対等な立場で建設的な議論ができるための仕組みの構築が求められよう。また、紛争解決手段としては、教育委員会とは独立した第三者機関が求められるため、地域支援協議会が機能することを期待したい。

(いちきれいこ 筑波技術大学准教授)