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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年12月号

分野別課題

労働及び雇用

赤松英知

労働及び雇用分野の差別禁止について

労働及び雇用分野の障害を理由とする差別を解消するための措置については、障害者差別解消法第13条で障害者雇用促進法に委ねるとされている。したがってこの分野については、障害者差別解消法の第3章「行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置」(第7条から第13条)は適用されない。

現在、障害者差別解消法については同法第6条に基づき障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針が検討されており、この基本方針は労働及び雇用分野にも適用されることになっている。しかし実際には、障害者雇用促進法に基づく差別禁止指針および合理的配慮指針は前記基本方針の策定を待たずに検討されていることから、この両者の整合性については注意深く点検する必要がある。

また、障害者差別解消法では不当な差別的取扱いと合理的配慮の不提供の二つを差別と規定しているのに対し、障害者雇用促進法における差別は不当な差別的取扱いのみで、合理的配慮は提供義務を規定するにとどまった。厚労省は合理的配慮の不提供を差別と規定しなくても、提供義務を課すことで同じ法的効果が得られるとしたが、この点について、実際の場面で合理的配慮が適切に提供されるかどうか、監視が必要だ。

一方、障害者差別解消法では規定されなかった紛争解決の仕組みが障害者雇用促進法に盛り込まれた点は評価できるが、従来から紛争調整委員会による調停や都道府県労働局長による勧告の実効性を疑問視する意見もあり、実質的な救済につながるかどうかの検証が求められる。

表1 障害者差別解消法と障害者雇用促進法の比較

  対象分野 差別とは 差別禁止 合理的配慮 紛争解決
障害者
差別解消法
労働及び雇用分野以外 不当な差別的取扱い
合理的配慮の不提供
義務 行政機関等は義務
民間事業者は努力義務
規定なし
障害者
雇用促進法
労働及び雇用分野 不当な差別的取扱い 義務 義務 自主的解決
調停、勧告等

公務員労働者の差別禁止について

障害者差別解消法および障害者雇用促進法では、公務員労働者の差別禁止等についての規定が読み取りにくいため、この点は明確にしておく必要があるだろう。障害者雇用促進法改正の議論の中で、公務員への任用や公務員としての職務遂行に当たって差別禁止や合理的配慮の提供をいかに確保するかについては、以下のように説明された。

すなわち国家公務員の場合、差別禁止については国家公務員法第27条「平等の取り扱いの原則」に基づいて対応し、また合理的配慮については国家公務員法第71条「能率の根本基準」等に基づいて提供することで、今回の法改正と同じ水準が担保されているとのことだ。また地方公務員の場合、差別禁止については地方公務員法第13条「平等の取り扱いの原則」に基づいて対応することで今回の法改正と同じ水準が担保され、また合理的配慮については、障害者雇用促進法第36条の2から第36条の5までの規定を直接適用するとしている。

表2 公務員労働者への差別禁止等の根拠規定

  差別禁止 合理的配慮
国家公務員 国家公務員法第27条
(平等の取り扱いの原則)
国家公務員法第71条(能率の根本基準)
等や人事院規則等
地方公務員 地方公務員法第13条
(平等の取り扱いの原則)
障害者雇用促進法を適用
第36条の2から第36条の5

今後の課題

最後に、労働及び雇用分野の障害者差別禁止に関する今後の課題を2点に絞って述べたい。1点目は障害者の定義である。障害者雇用促進法第2条では障害者を次のように定義する。

「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者をいう」

一方、障害者差別解消法第2条では以下のように定義する。

「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう」

つまり、後者では障害および社会的障壁により制限を受ける者というように、社会モデルの観点から定義しているのに対し、前者では機能障害により職業生活が困難な者としており、旧来の医学モデルの定義にとどまっているのである。これでは、差別を受けた障害のある人を障害者雇用促進法によって救済するに当たり、社会的障壁が勘案されない恐れがあることから、明確に社会モデルの定義とするよう見直すべきだ。

2点目は差別の範囲である。障害者雇用促進法で禁止される差別は直接差別のみとされているが、現在検討中の差別禁止指針案では、車いす、補助犬その他の支援器具等の利用、介助者の付き添い等の社会的不利を補う手段の利用等を理由とする不当な不利益取扱いを含むとしており、差別を幅広くとらえようとする姿勢は評価できる。

今後は間接差別、関連差別に関する事例の収集および議論の深化ならびに合理的配慮の不提供を差別と規定することの検討等を進め、障害者権利条約および障害者政策委員会差別禁止部会による「『障害を理由とする差別の禁止に関する法制』についての差別禁止部会の意見」等の具体化の観点から、障害に基づくあらゆる形態の差別を実質的に禁止するよう、差別の範囲についても適切な見直しが求められる。

(あかまつひでとも きょうされん常務理事)