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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年12月号

ワールドナウ

国連障害者権利委員会傍聴記
これからが始まり

増田一世

2014年9月15日~10月3日、スイスのジュネーブにあるパレ・ウィルソン(国連高等人権弁務官事務所、写真)を会場に第12回障害者権利委員会(CRPD)が開催された。筆者は、日本障害フォーラムの一員として、15日の開会式、ニュージーランドと韓国のNGOが主催するサイドイベント、政府報告書審査を傍聴する機会を得た。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真はウェブには掲載しておりません。

レマン湖に面した会場は、歴史を感じさせる佇まいで、CRPDの開かれる会場は思ったよりも狭い印象であった。正面には議長席、審査国の政府代表者たちが並び、その後方には大きなスクリーンがあり、話している内容を逐次映し出す。会場の側面には8か所の通訳ブースが用意され、ヘッドホンでその通訳を聴くことができる。国際手話、審査国の手話が用意されている。議長席の前にはCRPDの委員たちが並び、後方は傍聴席となっていた。

1 障害者権利委員会の役割

2008年5月に障害者権利条約が発効したが、翌2009年2月に第1回障害者権利委員会が開かれ、年2回のペースで開催されている。CRPDは現在18人の委員で構成され、アジア太平洋、アフリカ、南北アメリカ、ヨーロッバの各地域から選出されている。

日本は2014年1月に141番目(EUを含む)の権利条約の締約国となった。締約国は、批准から2年以内に政府報告書を提出しなければならない。政府報告書の提出先がこのCRPDなのだ。CRPDは、政府報告書を受け取り、CRPDの数人のメンバーによるワーキンググループで締約国に向けての事前質問書を作成する。締約国はその事前質問書を受け、CRPDでの審査に臨むことになる。一方、審査国の障害者団体も政府報告書に対する報告書(市民社会組織からの情報/パラレルレポート)をCRPDに対して提出することができる。そして、権利委員会は締約国の審査を経てその国に対する総括所見を発表することになる。

CRPDは審査する国の障害のある人の状況、障害者施策の動向などを十分に理解し、その国の施策が前進していくように働きかけていく役割がある。

2 見て、聴いて、感じたこと

今回の第12回障害者権利委員会には、日本から内閣府障害者政策委員会の石川准委員長、JDF(日本障害フォーラム)の傍聴団として、立命館大学の長瀬修さん、DPI日本会議事務局長の佐藤聡さん、事務局次長の今村登さん、事務局の崔栄繁さん、浜島恭子さんと筆者らであった。

9月15日10時から始まる開会式には、他の条約体の人たちとの連帯が重要なのだといったスピーチ、国際労働機関(ILO)、ユニセフ、反地雷会議、国際障害同盟(IDA)、世界精神医療ユーザー・サバイバーネットワーク、世界ろう連盟などからの挨拶や意見表明が行われた。

(1)サイドイベント

これは政府ではなく、市民社会組織(NGOの障害者団体)が企画・運営する、実に興味深い内容だった。

着目すべき点は、両国ともさまざまな障害関係団体がまとまって報告を行なったことだ。たった1時間の中にその国のもっとも大切だと思われる課題が報告されていた。

1.ニュージーランドのサイドイベント

ニュージーランドは、聴覚障害のある人が手話で進行役を務め、次々に発言者が課題を報告していく。障害者法が改正されてケアラーの位置づけが変わってしまったこと、強制入院の際の支援付き意思決定に課題があること、障害女性と子どもの虐待についてデータが不足していること、自閉症へのネガティブキャンペーン、ヘイトスピーチの問題等々。そして、権利委員からの質問も行われ、選択議定書の批准についてNGOが参加して議論が進んでいるかなどが問われ、NGOがそれに答えるという形で1時間が過ぎた。あっという間だった。日本に比べると障害者施策の水準が高いニュージーランドであるが、やはり課題はあることが伝わってきた。

2.韓国のサイドイベント

韓国からは50人以上の傍聴者が参加しており、黒地に黄色でキャッチコピーが記されたTシャツが議場でとても目立っていた。韓国のサイドイベントは、9月17日の韓国の審査の前に行われた。韓国は国内の21団体が集まってNGO報告書連帯を組織し、権利委員会の傍聴、効果的なNGO報告書の作成に関するワークショップの開催、報告書の作成、そして、このサイドイベントの企画運営も行なっていた。

サイドイベントでは、障害者の権利擁護が不十分であること、障害者政策がメインストリーム化していないこと、差別禁止法はできても実効性がないこと、権利条約の啓発が行われていないこと、強制入院は条約違反であること等々、厳しい指摘が続いた。

CRPDからの質問は、政府の報告についてどの程度の政府との対話があったか、精神障害のある人への施策は充実していないのではないかなどが問われた。

韓国は、日本の障害者施策の状況と似ている点もあると言われており、日本の状況と重ねつつ報告を聴いた。

(2)政府報告書の審査

政府報告書の審査は建設的対話と言われ、その国の障害者施策を前進させていくことを目的にした対話を意味している。

ニュージーランドの審査は、9月15日の15時~18時、翌16日10時~13時まで行われた。政府の報告、委員からの質問、政府の回答や報告、委員からの質問が繰り返された。

韓国は、9月17日15時~18時、翌18日10時~13時で審査が行われた。

ニュージーランドの担当委員は、オーストラリアのロナルド・マッカラム氏、韓国の担当委員は、タイのモンティアン・ブンタン氏であった。いずれも審査国を数回にわたって訪問し、政府の報告だけではなく、障害関係団体の意見もよく聞き、実態を把握していた。また、各委員は政府報告書と合わせてNGOが提出した報告書の内容も踏まえて質問していたことが印象的だった。各委員からの質問が次々と繰り出され、政府が十分に答えられないこともあり、そのやりとりの過程で、その国の障害者施策の状況が見えてくるようであった。

(3)傍聴して考えたこと

1.政府報告書の作られ方

日本は2016年1月までに政府報告書を権利委員会に提出することになる。報告書の作成にどこまで障害のある人や家族、関係者の参画があるのか、そこに日本の障害のある人の置かれている状況がどこまで反映されていくのか、とても重要であると強く感じた。

2.障害関係団体のまとまり

韓国の報告書連帯の取り組みのプロセスはとても参考になりそうだ。障害関係団体がまとまって報告書を作成することの重要性を認識し、総花的なものではなく、日本の解決すべき政策課題について優先順位をつけて提示できるかが問われるであろう。

3.権利委員会や国際障害同盟との協働

権利委員会の日本の担当委員が誰になるのか、現段階では不明であるが、いずれアジア選出の委員が担当することになるという。その委員にどれだけ日本の現状を伝えられるのか、政府だけではなく障害関係団体の力が試されそうだ。また、国際障害同盟は締約国のNGOを助け、よりよい報告書づくりなどに力を貸す。こうした国際組織と連携していくこともこれからの大事な取り組みになる。

4.権利条約への関心を高めること

政府報告書やパラレルレポートの作成に向けて、国内での権利条約への関心をさらに高めていく必要がある。権利条約を身近な存在として考えていくこと、障害のある人や家族の生活や人生に大きな影響をもたらすものであることを、今以上に理解する人を増やしていく必要があるだろう。

おわりに

権利条約締約国となった日本、批准までの道のりも重要であったが、権利条約を絵に描いた餅にしないためには、これからの障害関係団体のまとまりが大切だ。日本の審査は政府報告書を提出してから2~3年後になるだろう。時間はそう多くはない。これからの時間をどう有効に使うか、多くの障害のある人の生活や人生に大きな影響を与えるはずだ。そして、社会のあり方を問うことにもなりそうだ。

(ますだかずよ 日本障害者協議会常務理事)


【参考文献】

藤井克徳「私たち抜きに私たちのことを決めないで」やどかり出版、2014